私の能力、『活殺自在』は、対象の生命力を操作する能力。
この能力を自覚したのは三歳の頃……、実家で飼っていた老犬の『ララ』が、寿命で亡くなりそうな時でした。
子供の私は、とにかく、大好きなララに死んで欲しくなくて、ララを応援しました。
死なないで、まだ私の隣にいて。
私はそう言って、ララに声をかけたのです。
するとどうでしょう?
今まで、荒い呼吸をして、今にも天に召されそうなララが、いきなり立ち上がりました!
私は喜びました。
両親も、ララが闘病の結果、峠を越えたものだと思って、喜びましたね。
けれど、おかしくなったのはそれから。
ララは、死ななくなったのです。
私が三歳の時点で十二歳だったゴールデンレトリバーのララは、人間で言えば八十歳くらい。
ララは、私が五歳の頃も死にませんでした。この時点で、大型犬にしてはギネス並みの寿命です。
ララは、私が十歳になっても死にませんでした。いよいよもって、両親も気味が悪く思ったことでしょう。
私が十二歳の時。
両親はついに、ララを殺処分しました。あまりにもおかしかったからです。
その時の、ララを見る両親の目。
あれは、ずっと、脳裏にこびりついています。
そして、私は自覚しました。
私が、ララの、犬としての幸せを奪ってしまったのだと。
愛する主人に化け物扱いされて、殺処分されるだなんて。
ララは、どれほど。
どれほど辛かったのでしょうか。
私には、計り知れません。
そう、私の能力は、『生命を歪めるチカラ』……。
神の権能か、それとも、悪魔の業か……。
「双夢?双夢!どうしたの?」
活ヶ屋双夢。
私の名前です。
そして、名前を呼ぶのは、雷堂正那さん。
同じ村の仲間ですね。
「あ、いえ、すみません。少し、ぼーっとしていて……」
「大丈夫?疲れたなら休んでも良いんだよ?備蓄には余裕があるしね」
備蓄……。
確かに、複数の氷室に倉庫があって、食料はそこに山積みされていますから……、この調子なら、食料は余る見込みだそうですね。
食料以外にも、薪、布、紙なんかの備蓄もばっちりです。
資材の管理を買って出てくれた睦さんが言うには、向こう三ヶ月分の備蓄はあるそうです。
なので、食料や木材を生産する役割を持つ私は、最近はお仕事がありません。
今やっている主な仕事は、食事の用意とか、掃除とか、洗濯とか……。
一見、普通の家事のように思えますけれど、実際は大変なんですよ?
機械の力に頼らずに、六十六人分の食事を用意して、洗濯して、広い家やお風呂を掃除するのは。
六十六人分の食事を作るとなると、もう大変です。
お米は一度に九十合くらいは炊かなきゃならないですし、おかずも、大鍋五つ分くらいは作らなきゃいけません。
お料理は十人がかりでやっていますが、それでも、一人につき七、八人分は作っている計算になりますね。
ええ、本当に……、中学生の男の子達や、創壱さんがたくさん食べるんです……!
他にも、警備部門の女の子達も、訓練でお腹が空くからとたくさん……!
炊いておいたご飯を電子レンジで温めることもできませんから、当然、作り置きとかはできません。
精々、干し芋や干し魚、ビーフジャーキーにお漬物なんかを、冷暗所で保管しておくことくらいしかできないのです。
なので、お米もおかずも、食事のたびに用意する必要があるんですね。
本当に、ものすごく、大変ですね。
料理班の女の子達の負担が、あまりにも大きいです。
と、言う訳で……。
「なんとかなりませんか、創壱さん」
族長である創壱さんに、相談をしました。
すると、創壱さんは、考える素振りすら見せずに言いました。
「お米がなければ、パンを食べれば良いじゃない」
「は、はあ?」
「つまり、米は炊くのがめんどくせーから控えて、パンを主食にしていこうぜってことよ」
パン……、なるほど!
「天然酵母パンですね!」
天然酵母パンは、冷凍すれば半月は保ちますし、食べる時も自然解凍してから焼いたりすれば十分に美味しい!
そう言えば、干しぶどうもありますし、イースト菌はバッチリです!
「最近は、日本も他民族との混合が進んでいて、パン食に慣れている奴も多いからな」
と創壱さん。
確かに、私の家も父方の方に欧州系の血が入っていて、いつも、朝はパンかシリアルでした。
「それだけじゃなく、オートミールでグラノーラバーでも作り置きしようか。朝から米を炊かんでも、グラノーラバーとヨーグルトとかで良いだろ」
「それは、そうですね」
確かにそうですね……。
朝から九十合もご飯を炊くのは大変ですし……。
「俺も、別に毎日米じゃなきゃ嫌だ!みたいな古典的日本人じゃないしな」
「創壱さんも、外国人の血が?」
「いや、分かんねーけど」
「分からない?」
「俺は生まれてすぐに実の親に捨てられたから、ルーツが分かんねえんだよ」
え……?
「そ、その、す、すみません……」
「ん?ああいや、気にすんな。俺は気にしてないからな。とにかく、パンとグラノーラを作り置きするぞ!」
「は、はい!」
創壱さんは、いつも、お尻や胸なんかを触ってきますが、本気で嫌がる子にはやりません。
言動は突飛で子供っぽいですが、行動の結果は必ず最高。
確かに、セクハラをされるのは嫌だとは思いますけれど、最近はそれもご愛嬌というものかな、などと思っています。
抱かれろと命じられれば断れませんし……。
正直、こんな能力を持った私が、理解ある男性に出会えることはほぼあり得ないと思います。
でも、多分、創壱さんは受け入れてくれる……。
創壱さんになら、この身を捧げるのも吝かではありませんね。
今更だけど、俺、ストーリーがないゲームって苦手なんだよね。
俺はストーリーが読みたくてゲームやってるからさ。