特に猛獣なんかと出会うこともなく、あっさりと、飛行機が墜落した現場に辿り着いた俺達。
墜落した飛行機は、FB学園の生徒会長である男が率いる、『建国派』の根城となっている。
建国派は、その名の通り、超能力者が差別されない国を作ることを目的とした集団だ。
その理想は確かに崇高なのかもしれないが、実際は、強い能力者による、下位の能力者の支配を提唱する危険な集団でもある。
建国派は、四百人弱の大勢力を持つ。
これは、千五百人いる遭難者の中でも最大の派閥だ。そして、戦力も……。
俺は、木に登って、遠目から建国派を見た。
建国派の拠点である、墜落したオーバーサイズジェット機は、翼の部分が分解され、防護柵のようなものになっていた。
恐らくは、こいつらも肉食獣の襲撃を受けたのであろう。襲撃に対して警戒しているようだ。
また、見晴らしを良くするために、周辺の木を切って平地にしているようだ。
その時に余った木材で作ったのだろうか、足場と、そこに登るための梯子が、飛行機の側面にある。
それだけじゃなく、土を盛った段差で、飛行機の入り口に入りやすいようにスロープができていた。
飛行機の側面にある足場と、飛行機の入り口に見張りが何人か立っている。
武器は……、先端に尖った黒曜石のついた槍を持っているようだ。
そして、何十人かの能力者達が、木人に超能力を放つ訓練をしている。
訓練所も、恐らくは何らかの能力者がどうにかしたのであろう、草の一本も生えない砂場だ。
他にも、どうやったんだか知らないが、無限に水を生む井戸もどきや、一日中光っている光の玉なんてのもある。
肆嘉に聞いてみたところ、超能力の産物らしい。
そう言えば、ウチの村の氷室にも、青い氷の剣の形をした幻影が刺さっていて、そこからマイナス二十度ほどの冷気が生まれているが……、あれは涼巴の能力だったなと思い出す。
では、察するところ、あの無限水飲み場や、無限外灯も、超能力者の能力の一部か。
お、あそこでは、木製のテーブルで食事をしている奴らがいるな。
食べているものは……、飛行機の非常食だったビスケットか。
あれに、この辺りに生えている果物であるグミやキイチゴも食べているようだ。こいつらもアホじゃないな、ビタミンの重要性を理解していると見た。
それと、タンパク質は、焼いた鹿の肉で摂っているようだな。
この辺に鹿がいたからな。
まあ、解体とかは出来なくても、大きな太腿の部分の肉をもぎ取るくらいはできるだろうからな。
そういや、『複製』とか言う能力の使い手がいるんだっけか。
そいつの仕業だろうな。
……にしても、俺達がここまで近づいても何の反応もないってことは、感知系能力者はいない、のかねえ?
少なくとも、あれほどの村を作った俺達に干渉してこないってことは、俺達の存在に気がついていないんだろうよ。
もし気がついていたならば、確実に略奪しに来るはずだもんげ。
数の力にものを言わせて押し潰すだけで勝てるんだからな。そりゃやらない手はないっしょ?
まあ、そんな事やられたら、俺も能力を解放してマジ殺しモードに入るが。
さて……、見つかる前に移動するか。
人員を増やす、とのことだったが、建国派からの引き抜きはやめておくべきだろう。
そもそも、俺達の存在を知られるだけで不味いんだからな。
であれば、建国派と敵対している連中を仲間にするべきだろう。
それと、欲を言えば、俺達よりも小さなグループを複数勧誘するべきだろうと俺は考えている。
それは何故かと言うと、簡単な話だが、まとまった別の大グループを呼び込めば、こちらのグループを乗っ取られる可能性が高いからだ。
いや、当然、俺達のグループに元からいたメンバーは声を上げるだろうが、多数決で負けるってのは如何ともしがたい。
面倒だと思えば全て消せば良いんだが、流石にそれは最終手段だ。
俺はSTGでもリセットは極力しないタイプだからな。
さてさて、少数グループを探そう……。
飛行機の墜落現場から離れて、と。
「はい、ここで、位置関係の確認をするゾ」
と、俺が川辺の大石を平たく分解しながら言った。
平たくなった大石に、地図を書き込む。
「これは?」
正那が訊ねてきた。
「肆嘉と、ここにはいないが『千里眼』の南寧から得た情報で分かっている勢力図だ」
地図はこんな感じ。
まず、南寧の『千里眼』の視界は、半径約百キロメートルであることを念頭において話すぞ。
とりあえず、この今いる場所は、大きさ百キロメートル以上の『大陸』である。大陸は、飛行機墜落現場の周辺は、森になっている。森の密度は、屋久島よりは下って感じかね?
飛行機墜落現場から、西に五キロくらいの地点に『川』がある。これは、田舎が舞台のアニメに出てくる、子供の膝丈くらいのちゃぷちゃぷ浅瀬ではなく、テムズ川以上の、船が通れるくらいの大きな川だ。
この川の流れに沿って、四十から五十キロメートルくらい北に向かうと、『海』がある。
この海と川の近くに、俺達が作った『村』がある。
「ここまでは良いな?」
「うん、理解したよ」
「じゃあ、勢力について説明するぞ」
俺は、分解で石の地図にマークを書き入れた。
『村』……、俺達。
『建国派』……、飛行機に住む最大派閥。
これは良いとして……。
飛行機墜落現場から、南へ十キロ、東に五キロくらいの地点に、かなり大きめの『湖』がある。
この湖の沿岸部に住み着いているのが……。
「第三位の規模を持つ、『一般人連合』だ」
一般人連合。
その名の通り、超能力者ではない一般人の集まりだ。
総数はおよそ二百五十人。
あの飛行機に乗っていた殆どの一般客が、身を寄せ合って暮らしているそうだ。
総リーダーは医者の長医垓牟(ながいがいむ)と言う三十代の男。
連合らしく、三、四十人のグループが集まって、それぞれのグループを別々のリーダーが率いているみたいだが、それでもやっぱり、医者である長医が一番頼りにされているな。
大きな洞窟を見つけたらしく、そこを家代わりにしているらしい。
洞窟は、岩塩が出るそうだ。
岩塩と、湖の魚、その辺の植物の採取で暮らしているみたいだな。
ぶっちゃけ、この辺の植生は驚くほどに多様なので、食べていくだけなら、塩さえ見つかればどうにかなるからな。
次に、第二位の勢力だ。
第二位、三百人足らずの勢力を持つ集団。
こいつらは、墜落した飛行機から西へずっと行き、川を越えて十キロくらい離れた地点にある。
「この集団は……、そうだな、『平等派』と呼ぼうか」
この平等派は、建国派に立ち向かった連中の集まりだ。
言うなれば、建国派のアンチ……。
建国派とは全く逆の、「強い能力を持つ超能力者は、よりたくさんの人を助けよう」と言う考え方をしているらしい。
「へえ、偉いでやんすね」
俺が変顔をする。
「その顔何なのかな……?ああ、じゃあ、そうでもないってことかな」
正那が言った。
「そうだ。つまりこの連中は共産主義……、言わば、『みんなで貧乏になろう』みたいな政策をとっている」
つまりは、平等を意識するあまり、どうしようもない無能までも養っている訳だな。
一部の超能力が酷使されて、大多数の雑魚能力者や寄生しに来た無能一般人がお荷物になっている。
ここのリーダーは、特級能力者の『読心(サイコメトリー)』の使い手である御心綺娑羅(みこころきさら)と言う女だ。
何が恐ろしいってこの女、百パーセント善意でやってるってところだな。
極LAW属性って事だな。
こんなんと関わり合いになりたかねぇ。
「じゃあ、結局、どこの勢力を仲間にするんでやんすか?」
「それはこれから説明しよう」
俺は、更に石の地図にマークを書き入れた……。
ああ〜、料理チートものなろう小説を読んだ影響で料理もの書くの楽しいんじゃ〜。