思えば、対等な友人ができたのって、生まれて初めてじゃないかな。
僕、雷堂正那は、旧華族のそこそこいい血筋に生まれた。
幼い頃から、厳しく育てられたよ。
友達なんて作る間も無く、お稽古にお勉強、そして社交界。
お陰で、その辺の子よりは知識と作法を身につけられたけど、多感な子供時代を削ってでも欲しかった技能かと言えば……、って感じかな。
おまけに、超能力者だと親にはバレてるから、使用人達にも、親兄弟にも腫れ物扱い。
父親や兄となんて、一年に三回くらいしか喋らなかったね。
そんな僕の唯一の友達は、ネットだった。
籠の中の鳥よろしく、家に篭る僕を唯一笑わせてくれたのが、ネット。
特に、創壱の、『そーちゃんチャンネル』だ。
僕と同い年の子供が、半径百キロ圏内に人がいない北の極地でサバイバル生活だよ?
僕とは対極だ、あんな自由でさ。
でも、自由が必ずしも良いことではないってことも、動画の中の創壱は教えてくれた。
獣に突然襲われたり、孤独に耐えて寒空で一人焚き火を焚いたり、粗食になる日があったり。
僕は、窮屈だけど恵まれているんだと教わって、創壱にたくさん笑わせてもらって、感動させてもらって。
面識はなかったよ、1ファンだから。
でも、たくさんの……、本当にたくさんのものをもらってきたんだ。
それに……、馬鹿らしいかもしれないけど、初恋だったんだと思う。
リアルの同世代の子供達は、社交界でしか会わないから、お互いにおべっかを使い合う窮屈な関係。
たとえ、僕に向けたものじゃなかったとしても、屈託のない笑顔を見せてくれるのは創壱だけだった。
それが、僕にとってどれほどの救いだったか……!
そして、今もまた、創壱に命を救われた。
だから僕は、僕を二度も救ってくれた創壱のためなら、何でもしてあげたいと思ってる。
僕は、一応、警備隊の総責任者ということになっている。
無役じゃアレだし……、ってこと以外にも、僕が単純に強いからだ。
僕の能力、『雷電姫(エレキクイーン)』は、とにかく速い。
電気の速さとプラズマの熱量を持つ速攻型。
確かに、能力者には能力者抵抗があるから、能力による攻撃は効きづらいというところはあるけれど、僕の雷速の電撃を喰らえば、大抵は死ぬし、そうじゃなくても痺れて動けなくなる。
超能力者同士の戦いでは、火力は大抵、人を殺すくらいはみんな持っているから、速さが重要なんだって。
そんな訳で、僕も訓練をしてるよ。
一応、教養の範囲内での軽い護身術くらいならできるんだけど、帯流みたいな本物のサムライほどはできないなあ……。
あ、今は、創壱も訓練してるよ。
睦が作った仮想元素のヘッドギアとかサポーターを着けて、殴り合ってる。
……もう、訓練って言うよりは試合だね。
リングの上で戦ってるし。
みんな、お酒片手に観戦してるし。
お酒とか、みんなすんなり飲むようになったなあ……。
まあ良いや、創壱の活躍を見ておこう。
創壱はね……、めちゃくちゃ強いよ。
タフネスと、身体のしなやかさが人間のそれじゃないんだ。
戦闘スタイルはほぼ我流なんだけど、前に立つと大型の虎のような獣を相手にしていると錯覚する、らしいね。創壱は女の子は殴らないから、対戦した経験のある男の子の談なんだけど。
腕力も凄まじくて、片手で人を二、三人まとめて投げ飛ばすんだ。
体格的には大人と変わらないような、高校生の男の子に顔面を思い切り殴られても、血の一滴も出さず、微動だにしない。まさに人外のタフネス。
バネみたいにグッと身体を縮めると、大砲みたいに突っ込んできて、叩きのめされるんだって。
ほら、今も……。
「オオオオオオオッ!!!!」
「ぎゃーっ!!!」
「あーあ、やられたよ!これで十人目だ!ドクター!」
「はーい!」
瞬く間に十人の警備隊の男の子を畳んじゃった。
……にしても。
極限まで絞り込まれた鋼のような筋肉。
歴戦の証である傷の数々。
香るオスのフェロモン……。
はぁ〜、カッコいい……!
女の子達の中には、線の細いアイドルみたいな男の子が好きって子も少なくないけど、僕は断然、骨太な色男が好きだなあ。
マッチョで大柄な男性……、まあつまり創壱なんだけど、創壱に抱きしめられたらもう、最高じゃないかな?
見てよあの筋肉。
あのムチムチの筋肉でギュッと抱きしめられたら……。
「正那?正那!どうしたの?」
「ふぇ?!あ、ご、ごめん!なんの話だっけ?」
「もう、しっかりしてよ!でも、しょうがないか……」
と啞零が言った。
「創壱、カッコいいわよね……」
え?
「珍しいな、啞零がそんなことを言うなんて」
「私だって、良い加減正直になるわよ。あいつより良い男とか、この世に存在しない。断言できる」
本人に言ったら調子に乗るから言わないけどね!とは言ってるけど、本心だと思う。
「まあ、そうだよね。創壱はカッコいいし、頼りになるし」
「創壱を取り合って人間関係がギスるの嫌だから言っとくけど、全部は創壱の選択次第なんだからね?!誰が選ばれても恨みっこなしよ!」
って啞零は言うけれど……。
「お前らは全員、俺の女だゾ!」
「「ひゃわあああ!」」
おっ、お尻!
掴まれたっ!
「ンー、いい尻してるねぇ!ぶち込みたい!」
「死ねっ!!!」
「あひー」
う、うわー!
大胆なセクハラ!
もーほんとにドキドキする!
嫌いな人に触られるとものすごい嫌悪感が湧くものだけど、好きな人にならベタベタ触られても嬉しいんだもん、女って単純だね……。
「ほら、来い来い!チャンピオンだぞい!十人抜きだ!褒めろ!崇めろ!称えろー!」
「ば、ばかっ!人前で変なところ触んないでよっ!コラッ!」
ああ、良いなあ、啞零は。
創壱のお気に入りなんだなあ。
「ほら、正那も来い」
「ふぇ?」
「お前も触ってもあんまり嫌がんないもんな!好きだぜ!」
「す、好き?!そ、そっかあ!嬉しいなあ!」
あ、駄目だ。
顔、緩んじゃう。
創壱は凄い、好きな人に好きって言えるんだもん。
僕は、どうも外聞を気にしちゃう。
それに、なんて言うか……、最近は、他の子を可愛がっている創壱を見るのが好きになっちゃった。
馬鹿みたい、まるでこれじゃ、不倫ドラマの「都合のいいオンナ」だよ。
でも、啞零みたいに、「誰が選ばれても恨みっこなし!」みたいな勝負はできないな。
一番にならなくてもいいや。
愛人になりたい……、そう、創壱の愛人になりたい。
都合がいいオンナとして、たまにでいいから可愛がってもらえれば満足できちゃう。
いつもは、近くで創壱を見てられれば、不満はないよ。
はぁ……、僕、なんてこと考えてるんだろ。
こんなの、変態じゃないか……。
ゴールデンカムイ、マジで面白いなこれ……。
あーっ書けない!
誰か助けて!あーっ!