あ、俺の屋台は、外にいるマルコの馬に接続して、牽引してもらってるぞ。
人前で屋台の召喚はまずいかなーって。
そんな訳で、今は夕暮れ前ってところか。
この世界には電灯なんてもんはないからな。
人々は、太陽が昇ると起きて、沈むと眠る。
そんな訳で、俺達も夜営の準備をする必要がある。
……とは言え、屋台の周りには絶対無敵バリアがあるし、マルコは睡眠のいらないその身体で寝ずの番をしてくれるそうだ。
まあ、なんだ。
ちょっとしたキャンプ?
寝具については、リンドのスキルで天幕と寝袋が出せたんで、困ることはない。
っと……、寝る前に晩飯だ。
「何食いたい?」
「簡単なもので良いよ」
ほーん。
「では、フォカッチャ・メッシネーゼで行きます」
シチリアのメッシーナって地方で作られるローカルフードだ。
アンチョビ、トマト、チーズ、そしてエンダイブが乗ったパンみてーなの。
「どうして旅館の息子がイタ飯作るの?」
「それはね、旅行先で盗んだ味を再現して遊ぶ趣味があるからだよ」
そんな感じで、材料を出す。もちろん、人の目があるから、さも「屋台の下にしまってました」みたいなノリで出すのが重要なポイントですわぞ。
「そ、それはっ?!!!」
おっ?
商人のおっさんが驚きに満ちた声を上げている。
何だ?
「『鑑定』!……ま、間違いねえ!『稚水龍の塩漬け』に『鬼神の実』、『アンブロシア』に『毒殺草』!!!」
「「……はいぃ?」」
おっと……、よく分からんことが起きた時、特命係みたいな反応をしてしまうのは僕達の悪い癖。
「『稚水龍』は海底にしかいない超希少なモンスター!『鬼神の実』は食べたものの筋力を強める!『アンブロシア』は神話にて語られる神の食物!『毒殺草』はあらゆる毒を抹消する毒消し草の最高峰!」
それぞれ、アンチョビ、トマト、チーズ、エンダイブってことかしらん?
「う、売ってくれ!頼む!全財産を譲る!女房と子供を売ったって良い!頼む!売ってくれえええっ!!!」
「「えぇ……」」
何ですかーこれはー?
うーん……。
俺は、トマトをかじってみた。
ふむ……?
「……おお!本当だ!筋力が増してる?!」
なるほどね?
この世界では、地球の食材はスゴイ・ツヨイ・パワーがある訳ですね。
ふむ……。
さっき、このおっさんは『鑑定』とか言ってたな。
つまり、そういうアレなんだろう。
「すまんが、貴重なものなんでな。売れない。故郷から持ち出したのが少しあるだけなんだ」
「そ、そんな……」
うわ、おっさんが崩れ落ちた。
はぁ……、これじゃ、商人一人が全てを対価にしてても買い取りたい食品を使って、「これから料理します!」だなんて言えねぇなこれは……。
しょうがない。
今日は普通にTKGって事で。
「そ、そそそ、それはっ!『光の種』と『不死鳥の卵』?!!!」
「はいっ!晩飯は抜きでーーーっす!!!」
俺達は、おっさんに見つからないように、こっそり果物を食べたりして飢えを凌ぎつつ、二週間かけて隣国に着いた。
「……リンド」
「……うん」
「「飯食いてぇ!!!!」」
おっさんがいなくなったのを良いことに、隣国の街外れでガッツリ飯を食って元気チャージ!
育ち盛りの高校生である我々にとって、断食は辛いのです。
われわれはかしこいので。
「あーーーっ、たくよぉ!あのおっさんよお!」
「迷惑だよねぇ、あれ。悪気はないんだろうけどさあ……」
食後、愚痴りながら会話をする我々。
「まあでも、道中でモンスターと戦えたから、私がレベルアップできたのは良かったかもね」
とリンド。
「お前戦ってねーじゃん」
道中のモンスターは、全て黒十字軍が始末していた。
「マルコの手柄は私の手柄!私の手柄は私の手柄!」
「ガキ大将か?いじめられっ子だった癖に言うようになったもんですなあ!」
「おっ、良いの?泣くよ?すぐ泣くよ?ワンワン泣くよ?」
「ベッドの上で鳴かせてやろうか?」
「水風船がないからねえ……」
そーなんですよねえ!
こんな世界でデキちゃったらやべーっすわ。
いかに俺が人間性最底辺のクズとは言え、流石に、テメーの恋人にガキ堕ろせとは言えんわ。
え?ああ、付き合ってるよ?
高校卒業したら結婚する予定だったよ?
収入?
ああ、仕事としては、うちの旅館の厨房で少なくとも三年は修行してから、その最中に経営について学んで……、って予定だった。
でも、それとは別に金は持ってるぞ。
前も言ったが、俺はバーチャルユウチューバーとしてそこそこ以上に有名だし、レシピ本も出版してそこそこ以上に売れてる。同人誌の収入も割と馬鹿にならない。この前は有名漫画の公式スピンオフの作者にも抜擢されたし。
正直な話、バーチャルユウチューバー一本でも、レシピ本一本でも、同人一本でも食っていけるんだよ俺は。
だから、リンド一人養うくらいは楽勝なのよね。
けど……、問題は、俺の持っている技能が、料理以外この世界で活かせねえってことだけどな!!!
まあ、何だ。つまりは、収入も安全も、全てが安定していない今、リンドを孕ませる訳にはいかないんですね。
早くメガトンコイン売って金を得なきゃ。
異世界でのガバは即、死に繋がる。
「はぁ……。にしても、これじゃ迂闊に料理とかできなくなったな」
「あの反応だと、質屋に食材を持っていくのもアウトっぽいよねえ」
うーん……。
「とにかくさ、その、何だろう……、『鑑定』のスキルを持つ人を仲間にした方が良くないかな?」
とリンドの提案。
「セヤナー」
その通りだ。
「あと、初めから調理済みのものを持っていけばバレないかも?」
「うん、その可能性もあるな」
よし、じゃあとりあえず、『鑑定』スキル持ちの仲間を探すぞ。
あーーーんもーーー!
書き溜めがさあ!全然ないんだよぉ〜!