ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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女騎士!


16話 近衛騎士団団長『マルギット・フォン・ベルガス』

ブリュンヒルデ様を護衛する為に、万を超える兵士の中から選ばれた精鋭。

 

それが我々、ゴルディアス家近衛騎士団である。

 

ゴルディアス家の歴史は比較的新しい。

 

このゴルディアス領は、ハシュマル帝国に属する領地であり、怨敵たるアリスティア王国と隣接する地にある。

 

百五十年程前にあった、『第四次グルガス大戦』により、グルガス高原をアリスティア王国から奪ったのが、ゴルディアス辺境伯の前身たるゴルディアス伯爵家……。

 

まず、このハシュマル帝国は東側に存在し、とても超えることができない大山脈……、『アルボン大連峰』の向こう側に、敵対国たるアリスティア王国が存在している。

 

ここ、グルガス高原は、アルボン大連峰の北側にある、唯一山が低くなっている高原である。

 

つまり、ハシュマル帝国とアリスティア王国を繋ぐ唯一の道なのだ。

 

二カ国は、このグルガス高原を争って、大戦を四度もしたが、最終的に勝ったのは我々ハシュマル帝国側であった。

 

そして、当時の皇帝は、グルガス高原を得る為に先陣を切って戦った功労者であるゴルディアス伯爵を陞爵し、辺境伯として、グルガス高原を与えた……。

 

こんなことを言うと領主様への不敬に当たるかもしれないが……、このグルガス高原は、大陸の北部に位置し、更に標高が高い故、中々に困ることの多い土地だ。

 

食えるものも多くなく、一年の三分の一は豪雪に悩まされる。

 

風の噂では、ここよりもっと北の地では、ここよりももっと酷いと聞くが……。

 

まあ、それでも、この地も中々に厳しい土地であることには変わりがない。

 

 

 

さて、今回は、ブリュンヒルデ様が我々に料理を振る舞いたいと仰っておられたな。

 

ここでの食事となると、塩漬けにされたマンモノスの肉と、干した野菜のスープ、硬く焼いたパンが基本だ。

 

それと、マンモノスの脂肪を発酵させた『ビグニ』や、氷虫の腹を茹でた『マキェロ』辺りが多いな。

 

祝いの日には、氷陸鮫の臓物のパイである『ググナキア』などが供される。

 

しかし、なんでも、異国の料理人だとか……?

 

となると、見たこともない料理を口にできるのかもしれんな。

 

「マルギット隊長」

 

私を呼ぶ声に反応して、振り返る。

 

「ペトラか」

 

私の背後にいたのは、副隊長のペトラだった。

 

夕陽のような赤毛が特徴の、長身の女。

 

ああ、我々はブリュンヒルデ様に仕える近衛であるが故、隊は男子禁制となっている。

 

近衛隊は全員女だ。

 

「楽しみですね!前に行った本国の料理は美味かったですし、異国の料理って何なんでしょう?」

 

「ふふ、そうだな」

 

さて……、それで?

 

料理人というのは……、おお?!

 

こちら、北の男は、縦にも横にも大きいオークのような男ばかりなのだが……。

 

こちらの料理人は、程よい背丈に引き締まった細身。

 

くすみのない清潔な栗毛に、傷一つないきめ細やかな肌。

 

そして何よりも、アメジストのような色合いの瞳の美しさは、女の身から見ても嫉妬してしまうほどだ。

 

総じて、都会的で美しい青年だ。

 

我々は普段、北のオークのような男ばかりを見ているが故、目の前の美男子に見惚れてしまった……。

 

「はっ!」

 

私は、目を瞑り頭を振って、目の前の美男子を見ないようにした。

 

これ以上見ていたら、心を奪われてしまう。

 

「はぁあ〜!カッコいい〜!」

 

「ペトラ!」

 

しかし、我が隊の者達は皆、かの美男子に見惚れてしまっていた。

 

魅了の魔法を使ってきたならば、私達でも感知できるはずだ。その辺りの訓練は怠っていない。

 

しかして、ここまで魅了されるのは、ひとえに、あの男の生来の魅力によるものだろう。

 

何だあれは?

 

あれで料理人?

 

そんなことをせずとも、その美貌を活かせば何でもできるだろうに。

 

ブリュンヒルデ様のような質実剛健なお方には難しいかもしれないが、都の頭の軽そうな貴族の子女ならば、簡単に引っ掛けられるはずだ。

 

そうすれば、料理などという下らない、誰にでもできる仕事をやる必要はなくなるだろうに。

 

「ほ、本日はお招きいただき……」

 

「はい、私も近衛騎士団の方々とお会いできて光栄です。私は今まで、騎士様に料理を振る舞ったことはないので緊張してしまいますね」

 

む……!

 

声も素晴らしい。

 

美男子にぴったりか?と問われると、些か声が低いのだが、それがまた官能的で……。

 

あのすらりとした身体から、このような男性的な声が出るのかと考えると、興奮してしまうな……。

 

「私は、料理人のケンエイと申します」

 

「そ、そうか!よろしく頼む、ケンウェイ氏」

 

「では、まずは前菜から……」

 

そんな我々の前に出されたのは……。

 

茹でた鶏肉と野菜を和えたものだ。

 

この野菜……、瑞々しいな。

 

確か、都の方では、新鮮な生の野菜を食べることは、上等な贅沢なのだとか。

 

産地から都まで、アイテムボックスを使って少量だけ運ぶ生の野菜は、王侯貴族のみが口にできる珍味らしい。サラダとか言ったか?

 

どうやったのかは知らないが、ここまで生の野菜を輸送してきたのか……?

 

それも疑問だが、まず……。

 

「生の野菜は、ありがたがるほどに美味いのか?」

 

と、私は疑問に思っていた。

 

確かに、新鮮な水で土をよく落とした、新鮮な野菜という言葉の響きはとても高価そうに感じられるが、味は実際にどうなのだろうか?

 

ブリュンヒルデ様はそんなことはしないのだが、都の方の貴族は、自分の財力を誇示するために、味など二の次で金をいくらかけられるか?と言った珍妙な料理を食すことが常らしい。

 

まあ、ブリュンヒルデ様のご厚意である故、断ることはないが……。

 

そんなことを考えつつ、私は、三股のフォークで葉物の野菜とタレのかかった鶏肉を突き刺し、口に運んだ。

 

「な……?!」

 

まず、舌に届いたのはソースの味だ。

 

えぐみのない油に包まれた酸味と、それと辛さ。

 

辛さは、南方の国のもののような喉を焼くほどの辛さではなく、舌を楽しませる程度の仄かな辛味。

 

程よい酸っぱさは爽やかで清涼。まるで春風のよう。

 

肉と野菜を噛んでみれば、広がるのは仄かな野菜の苦味と、肉の旨味。

 

旨味、だ。

 

普通、ここらで食べられる鳥の肉と言えば、老いた陸鳥が基本だ。

 

しかし、陸鳥の味ではないし、老いた家畜特有の硬さとスカスカした空洞感を感じない!

 

肉の繊維一本一本に、若さが、活力が篭っている!

 

野菜も、不愉快な固さと苦さはなく、歯を立てればシャキシャキと小気味良く咀嚼でき、味も滋養溢れる緑の甘みに満ちており……。

 

「……素晴らしい」

 

私は、気がつけば目の前のサラダを一瞬で平らげていた。

 

一口食べただけで完全に心が奪われ、後は本能のままに貪った……。

 

しかし、こんな少量では……。

 

我々がそう思った瞬間、目の前の空っぽになったサラダの皿が下げられて……。

 

「おおっ!」

 

たっぷりのシチューが入った深皿が目の前に出された。

 

更に、大きな薄切り白パンもだ!

 

「はあ……むっ!」

 

私は、まず最初に、フォークで繊維質な肉を掬って口に運んだ。

 

本来なら、煮込み肉はナイフを使わなければならないのだが、これは違う。

 

ナイフなど使わずとも、雪のように抵抗なく切り取れるからだ。

 

「ほお……う!」

 

濃厚な肉の旨味が口に広がる……!

 

私には想像がつかないほどの、様々な素材から溶け出した旨味が混じり合い、そして調和し……。

 

肉を食べたはずなのに、野菜と、香草と、果実と……、様々な味と香りが私の口内を蹂躙する!

 

様々な存在が混じり合い大きな力になる……、正に国家のようだ!

 

そんなことを思いつつ、パンにも手を伸ばす。

 

私の手に触れたパンは、表面は硬いのだが、乾燥した固さではなく、焼いた焦げ目のような固さであった。事実、焼き色が付いている。

 

ひょっとして、スープに浸さずともそのまま食べられる白パンなのではないか?私はそう思い、そのままそれを齧ると……。

 

「さくっ!」

 

野菜とはまた違った、サクサクとした例えようのない小気味良さとともに表面が割れる。

 

そして、内側は、焼きたての白パン特有のモチモチとした弾力があった。

 

風味も、いつもの烏麦の黒パンの酸っぱくて臭いものと違い、焦げた穀物のような風味……、そう、これは『香ばしい』と表現されるものだろうか?とにかく、その香ばしさに満ちていた。

 

それだけでなく、油に溶かした香草を塗りつけてから焼いているらしく、芳しい香りもまた口に広がり、鼻から抜ける。香草の独特の香りが鼻に達する時の、パンそのものの香ばしさとは違った匂いが堪らない!

 

この美味いパンを、美味いシチューのソースに付けて食べたら……。

 

「なんたることだ……!」

 

素晴らしい!

 

味が身体に染みる……!

 

だが、まだだ。

 

まだ足りないぞ。

 

確かに、サラダとシチュー、そして白パン。

 

これだけあれば、普通の女ならば満腹になるだろうが、我々は北の女騎士だ。

 

都の女とは違うのだぞ……?

 

だが、それは杞憂だったようだ。

 

「では、メインディッシュはこちら、ペンネボロネーゼになります」

 

更に、とても大きな皿いっぱいに盛られたパスタが目の前に現れたのだから……。

 

「おお……!」

 

パスタ!

 

パスタというのは、豊かな地でのみ育つ乳麦を、高価な空鳥の卵と練り合わせて作る高級品だ!

 

それを、こんなにたくさん……!!

 

その上には、挽肉のソースがたっぷりと乗り、湯気が立っている。

 

「はむ……、んんん!」

 

柔らかなパスタを口に運ぶと、穀物の甘みとソースの奥深い味が脳髄を焼く!

 

美味い、美味過ぎる!

 

先程のシチューもそうだが、北どころか都でも見られないソースの味だ。

 

驚くべきはその味の使い方だな。

 

普通、調味料とは、保存のために使うものだ。

 

塩漬け然り、酢漬け然り。

 

故に、味とは、「とても塩辛く、塩辛いだけ」だったり、「とても酸っぱく、酸っぱいだけ」という感じが普通。

 

しかしこの料理は、複数の味を、美味くなるように組み合わせている……。

 

なんともまあ、金持ちの所業だな。

 

だが、都のように、金を使って高価な食材を揃えるパフォーマンスをするよりも、金を使って美味い料理を作る方がよっぽどマシだ。

 

そして、最後に……。

 

「デザートです」

 

目の前に宝石が出された。

 

陽光を受けて煌めく、赤い宝石だ。

 

私の目には、そうとしか見えなかった。

 

「こ、これは……?」

 

「果実を使ったお菓子ですよ」

 

お菓子?

 

……お菓子だと?!

 

私は、目の前の赤い宝石に噛り付く。

 

「〜〜〜ッ?!!」

 

甘い!

 

これは……、砂糖だ!

 

砂糖といえば、南方の、更に南方にある別の大陸から運ばれてくる舶来品!

 

同じ重さの銀貨と同じ価値がある贅沢品だぞ!

 

それを……、ああ、美味い!

 

たまに食べられる干した果物が馬鹿みたいに思えるほどに、甘く、洗礼され、美しい……。

 

なんだこれは、神の国の料理か?

 

 

 

料理など、誰でもできる底辺の仕事とばかり思っていたが……、どんな世界にも職人とはいるものなんだな……。

 




うおお、異世界と行ったり来たりの続きを書きたくなっちゃったぞ!

行ったり来たりの続きはこうかな。

まず、リリーベル様の故郷であるキマリシア王国に到着。

キマリシア王に謁見。

この国では、髪を解いた女を見たら、そいつと結婚しなきゃならない的な慣習があり、女の髪を男が櫛でとかすのはセックス並みに淫猥な行為とされている。

なので、ブチ切れ王様は責任を取らせようとするが、この王様はかなり賢いので、まず爵位と領地を与えて実績を出せば嫁がせても良いと柔軟なアンサーを出す。

主人公さん、いきなり領地を渡される。

主人公さんは、日本のジオラマ専門店に立ち寄り、「中世ファンタジーの世界にあなた方が作りたい街を作ってどうぞ。予算は五百万円な!」とジオラマ専門店に叩きつける。

一ヶ月後、ジオラマ専門店渾身の「ぼくのかんがえたさいきょうの街」のジオラマを受け取る。

ジオラマを異世界に持ち込んで、ランクアップポーションをドバドバかける。

はい、街完成!

街は、オートマタにより運営されるファンタジー風未来都市(つまりFF13)になっていて、領民はぶったまげる。

そして、一ヶ月もしないうちに、その馬鹿みたいな豊かさにつられてガンガン人が集まる。もちろん、リリーベル様も遊びに来る。

辺境のクソデカいだけで何にもない領地は、ほんの数ヶ月で未来都市になる訳だからもうね。王様も何にも言えん。

都市の運営権はリリーベル様にあげて、旅再開。

ここまでは考えてある。

あと、日本では、虐められてる美女を助ける小話もちょいと書こうか。

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