ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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18話 きな粉のきな

ハシュマル帝国、帝都ハシュマリム。

 

俺が目指す地はそこだ。

 

馬車で移動すれば一ヶ月と半分ほどで到着するらしい遠隔地。

 

行く理由は、軍務卿とその部下に飯を食わせるため。

 

車で高速移動すると、ブリュンヒルデ様が放った先触れを追い越してしまうので、なるべく寄り道をしながらゆっくり移動する。

 

到着の目安は二ヶ月後くらいか?

 

その頃には、帝都は丁度夏頃らしい。

 

ついでに、ブリュンヒルデ様から貴族のあれこれについてふわっと聞いた。

 

まず、ハシュマル帝国には三つの派閥があるそうだ。

 

しかしそれは、アリスティア王国のように、王党派と貴族派と中立派……、みたいな感じではない。

 

基本的に、ハシュマル帝国は一枚岩と見て良いらしい。

 

その理由は、アリスティア王国のように、貴族ごとに戦力が分散している訳じゃなく、帝国軍が一番規模が大きくて強いからだ。

 

帝国軍という超巨大な暴力装置を持つ帝国が、属国に帝国軍の基地を設置して防衛戦力兼その国への牽制としているらしい。

 

要するに、現代地球のアメリカみたいなものだと思ってもらって結構だ。

 

それでは、ハシュマル帝国の三つの派閥とは何か?と言うと。

 

『軍事派』『商業派』『中立派』の三つである。

 

軍事派は、目の上のたんこぶであるアリスティア王国を早く武力で潰したいと思っている軍人達の派閥だそうだ。

 

実際問題、アリスティア王国は、多くのダンジョンや魔法的素材の生産地を手中に収めており、どの国も欲しい土地みたいだな。

 

対して商業派は、わざわざ金をかけて武力で他国を潰さなくても、新技術の開発で魅力的な製品を作って、それを売り捌き経済的に優位になれば戦わなくてもいいよね、って考えてるそうだ。

 

中立派はそのまんま中立なのだが、極端に無能でどちらからも必要とされていないクズである確率が高いらしい。

 

そして、ブリュンヒルデ様は軍事派。

 

まあ、そりゃそうだ。

 

敵国との最前線にいる辺境伯様が反戦派な訳はない。

 

そんな訳で、軍事派の中でもトップクラスに権力を持つブリュンヒルデ様は、自分の上にいる帝国軍元帥のブレンダン軍務卿に俺をパスした訳だ。

 

「君の意見を聞こう」

 

ズァッ!っとポーズを決める俺は、現在、リンドの召喚した軍用馬車に揺られている。

 

リンドもレベルが上がり、こうなっていた。

 

レベル1で黒騎兵班(八人)&中世後期軍装召喚

レベル2で黒騎兵が中隊(二百人)に

レベル3で近世軍装召喚

レベル4で黒騎兵が連隊(千人)に

 

そんな訳で、近世の揺れにくい馬車に乗って、黒騎兵に護衛されながらも移動している……。

 

「いやー……、まあ普通の状況なら、商業派の言うことの方が正しいんだろうけど、アリスティア王国の脅威が見えてないよね。にしても、この中世ナーロッパ世界で勇者召喚とか言って戦術兵器集めてるとか、アリスティア王国は潰されても文句言えないんだよなあ」

 

馬車の中で隣に座るリンドはそうマジレスした。

 

だが実際、それは正鵠を射ていた。

 

現代地球レベルの国なら、隣の国が核ミサイルを保有しても、即座に潰そう!とはならないはずだ。迎撃ミサイルの配備はするだろうが。

 

しかし、ここは中世ナーロッパ世界。

 

こんなところで戦術兵器である勇者とやらを百人近く召喚するとか、どう考えてもあたおかなんだよなあ。

 

国際間の緊張を無駄に高めるってのは、国際法やら何やらが整備されてた地球とは違って、このバーリトゥード上等な世界では相当ヤバいとだけ……。

 

いやマジでさ、普通、現代の地球では、戦争しても族滅とはならんでしょ?いや、恐らくはね?GHQ的なのは置かれるんだろうけどさ。

 

でも、この世界はそんなんないから。

 

捕虜の拷問、民間人の虐殺、奴隷化と何でもあり。負ければ、王族はバラバラに刻まれて野良犬の餌にされ、国民は全て奴隷にされるとか割とあるあるな話らしいんだと。

 

こんな世界で武力をチラつかせるのって、現代地球よりやべーだろ?そういうことよ。

 

俺は、隣に座るヨミの肩を抱く。

 

「主人様?」

 

「ヨミ、お前はどう思う?」

 

「いえ、私は主人様のしもべに過ぎませんから!」

 

んー?

 

「それじゃ駄目だな。自分の意見を言ってみろ」

 

「で、ですが、主君に意見など……」

 

「本当に良い家臣は、時には、主君にも諫言をするものだぞ」

 

俺がそう言うと、ヨミは耳をピンと立てた。

 

「なるほど……、その通りですね。では、僭越ながらも私の意見を言いましょう」

 

「おう」

 

「まず、仰る通り、現在戦争中でもないのに関わらず、百人を超える勇者召喚をするのは明らかに異常です。他国を挑発……、ないしは、侵略の意図有りと言っているようなものです」

 

ふむ、だよねえ。

 

「でも、魔王はいるってアリスティア王国は言ってたよね?」

 

リンドがそう言いながら、今週号のジャプンを読む。

 

あ、ジャプンは俺が雑貨召喚で出せたぞ。

 

「確かに、魔王は二、三百年ほどのペースで現れますから、そろそろ現れてもおかしくはありませんが……、それにしても、数百人の勇者召喚など、異常です」

 

「そうなの?」

 

「はい。今まで、勇者とは多くとも四人まででしたから」

 

ふむ……、なるほど。

 

「まとめよう。アリスティア王国は、世界に覇を唱えようとしているってことか?」

 

「……そこまではわかりませんが、少なくとも、狙ってやったならばおかしいですし、狙っていないなら更におかしいですよ」

 

前代未聞の勇者の大量召喚。

 

これが狙ってやったことなら、アリスティア王国は何かデカいことをしようとしていることになる。

 

しかし、この大量召喚……。

 

アリスティア王国が狙ってやったことではなかったら?

 

召喚した大元であるアリスティア王国ですら、予想していなかったことだとしたら?

 

それだと……、もっときな臭くなるな。

 

「きな臭いのきなってなんや?」

 

「きな粉やろ」

 

「きな粉餅食べたい」

 

「じゃあ今日のおやつはきな粉餅な」

 

そんな話をしながら、俺達は街道をゆく……。

 




特撮復興のやる夫スレ、面白いな。

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