ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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あついー。


19話 学問とは贅沢品である

街道は続くよ、どこまでも。

 

ブリュンヒルデ様と別れ、ゴルディアス領を離れた我々。

 

ゴルディアス領は北の高原であるからして、肌寒く、道も不安定だった。

 

だが俺達は、そんなところを抜けて、平地に降り立った。

 

「おお、この辺は暖かいな」

 

「あれじゃないかな、ゴルディアス領の高地が北風をガードしてくれてて、この辺はあったかいんじゃない?」

 

「ああ、まあ、聞いた話じゃゴルディアス領から北はまた別の国だけど臨海部にあるって言ってたし、風向きとか考えると、北風が海の熱で雪になったと見るべきだろうな」

 

俺はそんな話をリンドとしながら、マガズンを読んでいた。

 

ふと、隣を見ると、ヨミがキラキラした目でこちらを見ていた。

 

「どしたの?」

 

「実に感服致しました!主人様は、料理の秘儀だけでなく、稀有なスキルをお持ちでいて、更に地学にも富んでいらっしゃるとは!」

 

あー?

 

あ、そうか。

 

「あれかな、知識チート?」

 

「私、またなんかやっちゃいましたぁ〜?」

 

「それ、俺の知識がなさ過ぎるってことだよな?」

 

つい、リンドと馬鹿話を始めてしまったが……、なるほど。

 

雪がどうしてできるか?虹はどうして七色なのか?空は何故青いのか?とか、そういうのをこの世界の人は知らないんだな。

 

じゃあ、教材も雑貨扱いで出せる訳だし、教えてやろうか。

 

「よし、ヨミ」

 

「はい?」

 

「勉強したい?」

 

「勉強、ですか?」

 

「いやほら、暇だし、なんか勉強しようと思うんだけど、ヨミもなんか教えてやろうかなって」

 

「よ、よろしいのですか?!」

 

うお、グイグイくるな。

 

「正直、こうして話すと理解できるのですが、主人様は相当に知識を身につけていらっしゃると思います。恐らく、主人様ほどの賢人にものを習うとなれば、相当な立場でなければ許されないでしょう」

 

「なるほど?」

 

「私如きにものを教えてよろしいのですか……?」

 

「良いよ。もしかしたら、他の人に教えることになるかもしれないし、その練習ってことで」

 

「わ、分かりました!」

 

じゃあまず、会計とか帳簿とか任せたいから、アラビア数字から教えてやろう。

 

俺は俺で、高校の勉強の続きをしておく。

 

と言っても、この世界で役立ちそうなことを重点的に学んでいる感じだ。

 

 

 

そんなこんなで、高原の麓の宿場町に到着。

 

宿場町は、世帯数が百を超えない程度の小さな街、いや、村だ。

 

門番らしい門番もおらず、自警団らしき青年が粗末な槍を持って見張りしているくらいかね。

 

そんなところに、俺達が現れたのだが……。

 

「んー……?なんだお前ら?」

 

と、普通に対応された。

 

何故か?

 

それは、ブリュンヒルデ様にもらった莫大な報酬金で、この世界の牽引動物と服を揃えたからだ。

 

この世界には馬という生き物が存在しないようで、馬車を牽引しているのは、ダチョウのような陸鳥か、土色の大蜥蜴のようなモンスター。

 

じゃあなんで馬車と言うのか、というと、俺の耳に聞こえる単語は、それっぽく翻訳されているからだ。

 

馬車はこの世界では、発音そのままだとキャルナーと言うらしい。意味合い的には、当て字にすれば『獣車』って感じの意味。それが俺達からすると馬車に翻訳されて聞こえるって訳だ。

 

さて、俺達は今、この世界の現地人と同じような格好をしている。

 

そこらの貧乏な村人よりかは上等だが、貴族ほど豪華でもない、まさに商人的なコーディネートだ。

 

護衛に出ている黒騎兵達も、そこそこの質のハードレザーアーマーに鋼のロングソードを佩いた冒険者風だ。何人かにはロングボウを持たせている。

 

馬車そのものは、リンドの能力で召喚した揺れの少ないものだが、外装は地味なもの。

 

それを牽引するのも馬ではなく、ゴルディアス領で買った陸鳥だ。

 

そんな訳で、周りの人間には一切警戒されていない。

 

俺達は、新興の商会の若旦那と嫁に見えるだろう。

 

実際、スパイとしての教育を受けて育ったヨミが俺達のこの姿のプロデュースをしたのだから、まあ、間違いはないだろう。

 

さて、村人になんと答えるか……。

 

そうだな、こんな感じでどうだ?

 

「俺は商人だ。嫁と護衛と共に仕事でゴルディアス領に行ってきたところだな。何か入り用なら安くしとくぜ?」

 

「商人か?!売り物は?」

 

こういった小さな村で必要なものは、やはり塩だろう。

 

それと、少しのエールとこの辺にないもの。

 

ここ、ゴルディアス領は、高原であるが故に乳麦(地球で言う小麦)が育ちにくく、烏麦(地球で言うライ麦)が育てられている。

 

それと、この世界でポピュラーな家畜である陸鳥と陸蜥蜴は少ないが、その代わりに綿鼠というモンスターがよく育てられている。

 

綿鼠は、その名の通りに綿のような毛を纏う巨大な鼠で、地球で言えば羊のようなポジションの生き物だ。

 

なので、烏麦の黒パンと、綿鼠のチーズ、それと裏作で採れる野菜が主な食べ物らしい。

 

となれば、何か軽い嗜好品でも売るか。

 

「塩と、エールと、それと火酒に干した魚なんてどうだ?」

 

「おお!良いじゃねえか!さあ、村の中に来てくれ!」

 

よし、当たりみたいだな。

 

食材召喚と雑貨召喚でもっと良いものを出して売れば良い……、みたいな事を考える奴もいるかもしれないが、安くて便利な日本製品を無秩序にこの世界の市場に安値で販売するとか、普通に動乱罪だゾ!

 

要するにダンピングだからねそれは。確かにこの世界には独禁法とかないけどさ、その代わりに市場を乱したら、そこを管理している商業系のギルドにぶち殺されるんだよなあ。

 

だから我々は、『すごい美味いけど結構高い』くらいの料理を売ってる訳ですね。

 

それ以外だと、継続的に莫大な量の便利な品を売ると……、世界が壊れちゃーう!

 

奢侈品として極少数を貴族やら大商人やらに売り付けたいがそんなコネは……、あるんだな!これが!

 

その為にブリュンヒルデ様に取り入ったのよ!

 

ブリュンヒルデ様の紹介で、陸軍元帥とかいう偉い人に会えるから、その人に更に偉い人を色々と紹介してもらって、偉い人専門の御用商人みたいなポジションを得るのだ!!!

 

「おーい!早く来いよ!」

 

「あ、すまんすまん!今行く!」

 




いつまで経っても体調がガッタガタのガタキリバなんだが????

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