「んー?おかしいな、この辺のはずなんだが……」
俺の手には、ブリュンヒルデ様から貰った地図がある。
流石に、ゴルディアス家の所有する軍事地図ほどじゃないが、それでもかなり正確なものだ。
古来、地球では、他国を侵略することを版図を広げると表現した。
版図とは地図のことで、正確な地図とは戦略的な品であると言うことだ。
多分、このレベルの地図でも外国のスパイに渡したらめっちゃ報酬金とかもらえると思う。
そんなレベルの地図を渡されたのだ。
うんまあ、期待が重いよね。
だけど、今ちょっとおかしなことになってるんだよね。
地図通りに進んできたのに……。
「村が見つからないぞ?」
ってこと。
廃村ならここに一つあったんだが……。
となると……。
「ヨミ、どうだ?」
「分かりません……、昨日の雨で臭いが流れてしまっています」
ふむ。
じゃあ、この廃村を少し調べてみるか。
まず、建物。
焼かれた後があるな。
「となると……、疫病とか?」
リンドが言った。
確かに、疫病が発生したら、その村ごと焼き払うなんてこともあるとヨミから聞いている。
「いや……、疫病なら、もっと徹底的に焼き尽くすんじゃないか?」
俺は、半分だけが黒焦げになった家屋を見ながらそう言った。
「じゃあ、何者かの襲撃?」
ふむ……。
「これを見てみろ」
俺は、灰を退けて部屋の隅を見る。
「あ、死体だ」
そう、焼死体だ。
「家が燃えているのに、外に出ずに死んだ訳だ」
俺はそう言った。
すると、リンドは指を突き立ててこう言った。
「異議あり!逃げ遅れた可能性もあります!」
確かにそうだな。
だが。
「弁護人の異議を却下します。よく考えてみろよ、ここは家の隅っこだぞ?家の隅で重なり合うように蹲った焼死体だ」
つまり……。
「家の外には火事より恐ろしい何者かがいた……、ってコト?!」
「ワアッ……!」
そういうことだ。
「となると、襲撃者はなんだろうね?」
「それなんだよなあ」
俺とリンドがそう話していると……。
「主人様ー!申し訳ありません!足跡はぬかるんで消えてしまっていましたー!」
おっと、ヨミが帰ってきた。
なるほど……、足跡はもうない、と。
うーん、そうなると手詰まりだなあ。
生存者とか……、いらっしゃらない?
んん?
「リンド?揺れてるぞ?」
「え?何これ?地震?」
リンドの足元が揺れてる。
———「……ーい!お……い!開……!」
足元から声がする。
これは……、もしや。
「「地下室か!」」
俺とリンドは、スコップで……いやシャベル?地方によって違うんだっけ?とにかく大きい方のスコップで灰の山と瓦礫を掘り返した。
そこには……。
「っぷはあ!助かったよ!ありがとー!」
俺達より少し年下くらいの女の子がいた。
銀幕女優のような輝く美女のリンドとは違い、素朴な美しさを持った少女だ。
黒い髪に青い瞳、髪は短く癖っ毛で、ふわっとしている。
それでいて、人としての余裕というか、ある種の大らかさを感じられるような、泰然自若とした態度と顔をしていた。
身体の方は、あまり女らしくはない。
「こ、これは……!やっぱり、そうか……」
そう言って、周りを見て辛そうな顔をする少女は、一度、自分の顔を平手で叩くと、表情を微笑みに変えて俺に頭を下げた。
「まずは、助けてもらってありがとう、旅の商人さん」
ふむ?
一眼見ただけで商人と分かるのか。
今までの道中で、何度か宿場町に立ち寄り、村人と話したが、俺の身分を見抜けるのは長老レベルの学がある奴だけだった。
普通の、その辺にいる村人Aは、人の着ている服の良し悪しが分からないのだ。
だが、この少女は、一眼見ただけで俺の服が上等であると見抜いた。
「僕はトレド村のパン屋の娘、ノエルだよ」
そしてこの笑顔。
察するところに、村が何者かに滅ぼされた直後だと言うのに、過度に狼狽えることなく、真っ直ぐに俺の瞳を見ている。
「はえー、クリスマスちゃん」
「ノエルはフランス語でクリスマスだもんね。この世界にもジーザスはいるのかな?」
「夏のクリスマスとかオーストラリアかな?」
そんな話をしていると、頭にはてなマークを浮かべる少女……、いや、ノエル。
「え、えっと……、助けてくれた君達に追加で要求をするのは申し訳ないんだけど、村はどうなったか知ってるかい?」
ふむ。
「いや、知らんな。俺は、さるお方からいい地図をもらったから、その地図の通りに帝都を目指して移動している商人だ」
この世界に、料理人と言えるほど料理ができる人間は殆どいないので、料理人とは名乗らない。
パン屋やチーズ職人などはおれども、料理専門の職人は、相当な金持ちしか雇えないから、流れの料理人です!というのはありえない話らしい。
「そうなんだ。えっとね、ここはトレド村って言うんだ。けど昨日、モンスターの襲撃で壊滅しちゃったんだ」
なるほど。
「村人は、みんな逃げたか……、殺されちゃったみたい」
ふむふむ。
俺は、先程の焼死体を見せる。
「これは……、僕の両親だね。ここ、指輪。母さんの指輪だ」
そう言って、静かに涙を零すノエル。
「この辺って土葬文化?」
俺はヨミに耳打ちする。
「えっと……、死者を土に埋めるかってことですか?そうですよ」
なるほど。
「ノエル」
俺は、ノエルの肩に手を置いた。
「ん……、なんだい?」
「とりあえず、お前の両親とやらを埋めて、墓を立ててやったらどうだ?」
と提案。
これは、俺がお人好しなんじゃなくって、ノエルに恩を売りたいからだ。
ノエルは、異常だ。
パン屋の娘?冗談じゃない。
言葉の一つ一つに人間的な余裕が溢れており、それがカリスマとなって他者を魅了する。
場末の宿場町の娘にしては、異様に美しい見た目で、また、清らかな心をも持ち合わせる。
極め付けはこれだ。
ヨミに鑑定させた結果……。
『ノエル
レベル:10
人間
勇者
体力:100
精神:155
筋力:110
耐久:88
器用:79
知覚:81
学習:145
意思:201
魔力:160
魅力:240
剣術:3
体術:3
雷属性魔法:3
聖属性魔法:3
回復魔法:3』
という結果が出たそうだ。
つまり、天然物の勇者様ってことだ。
普通なら俺は、焼死体が目の前にあり、遺族が目の前で泣いていたとしても、スルーする。
だが、相手が勇者様となれば話は別だ。
取り入った方が100%得ッ……!!!
更に言えば、これから帝都に行って軍務卿に会うだろ?
その時にこの女勇者を引き渡せば、めちゃくちゃ金とか貰えそうじゃねぇか!!!
となれば、全力で恩を売るぞ俺は!!!
そんな訳で、両親の焼死体の前で静かに涙を流すノエルに、両親の墓を作ることを提案した。
「そうだね、お墓、作ってあげなくちゃ」
「待ってろ……、はい、スコップだ」
「円匙……、貸してくれるのかい?ありがとう、商人さん!」
おっと、まだ名乗ってなかったな。
「俺はケンウェイ。こっちは嫁のリンドと、奴隷のヨミだ」
「よろしく、ケンウェイ。リンドも、ヨミも」
そう軽く挨拶してから、俺達は、死んだ村人を埋めるための穴を掘った。
まあ、ステータスが高まっている俺達からすれば、土掘りなんて大した労力はいらない。
すぐに穴が掘れたので、そこに焼死体をぶち込んで埋める。
墓標については、俺が出せるのは小さい雑貨屋で揃うレベルのものと食品だけなのでどうしようもなかったが、リンドが戦略物資ということで石材が出せた。
なので、それを長方形に割って、そこに俺が『トレド村の住人、此処に眠る』と彫り込んでやった。
フィギュア作りはかなりやっているが、石材加工は初めてな俺。
墓の出来は悪かったが、それでもノエルは涙を流しながら俺達に感謝していた。
「ありがとう、ありがとう……!これで、村のみんなも浮かばれるよ……!」
俺は、ノエルの頭を優しく撫でてから、思ってもいない慰めの言葉をかけてやる。
「大変だったな、辛かっただろうに」
「ううん、大丈夫……」
よし、じゃあ本題だ。
「ところで、ノエル?お前は今後、どうするかを決めているか?」
「あ……、考えてなかったよ。どうしよう……?」
「良ければ、俺について来ないか?」
「え……?」
「これから帝都に向かって、偉い人に会いに行くんだよ。お前が良ければ、偉い人に頼んでやるから、仕事くらいなら見つかるんじゃないか?」
「そんな……、悪いよ」
「謙虚なのは美徳だが、こんな状態では他の村に行くまでに野垂れ死ぬのがオチだと思うぞ?」
俺は、焼け崩れた家屋を後ろ手で指差しながら言った。
「それは……、そうだね。分かった、頼らせてもらうよ。僕にできることならなんでも言ってね!」
ヨシ!
生きるの飽きたなー。
異世界転生してえ。