釈放された槻賀多狂死は、早速、海軍士官学校の特別クラスに放り込まれる。
特別クラスには、他に四人の提督候補生が同席していた。
全員が、年齢は十五歳。まだ少年と言っていいくらいの子供達である。
教室。
軍学校と言えども、その作りは普通の学校と何ら変わりがない。
教卓、黒板、机に椅子。
変わっているのは、机が十組しかないということくらいだ。
まず、最初にそんな教室にいたのは、まん丸に太った眼鏡の少年だった。
「おほー!まだ誰もいないのですな?流石に一時間前行動は早過ぎたでござるか……」
腹肉を揺らしながら、自分の名札が貼られた机へ着席した。
「『御宅坂治明(おたくざわもとはる)』と。ここでござるな。さあ、待ち時間はウィンテンドウトゥウィッチでもやるでござる!」
その三十分後、爽やかながらもどこか子供っぽさを残す少年が現れる。
「失礼します……、うわ」
「うわ、とは何ですかな?!失礼ですぞ!」
「い、いや、その、ごめんな。びっくりして……」
「確かに拙者は、この通りの低反発モチモチボディでありますからな……。驚かれるのも無理はない、でござるか」
「う、うん……。その、俺は『鈴村信(すずむらしん)』って言うんだ。アンタは?」
「拙者は御宅坂治明と申しますぞ!気安くハル氏と呼んでくだされば!」
「オッケー、仲良くしようぜ、ハル」
そして、授業開始五分前に、二人……。
「そういえば、シン氏はどんな風にスカウトされたでござるか?」
「ん、俺は、地元の提督調査の時、妖精さんとか言うふわふわした光の塊が見えて、それで」
「なるほど、なるほど。声は聞けましたかな?」
「あ、うん」
「ほう!声まで聞こえるのは大当たりと聞きますぞ!」
などと、治明と信が話していると……。
「おうおうおうおう!オメェらも提督候補生ってやつか?!」
「「お、おう……」」
「俺は『堀内鹿波(ほりうちかなみ)』ってんだ!お前らは俺のライバルだ!だが、海を守ってビッグな男になるのは俺だからな!」
血気盛んな長身の少年、鹿波。
「僕は『早乙女純(さおとめじゅん)』って言うんだ。よろしくね」
小柄で中性的な長髪の少年、純。
ここに、提督候補生の四人が揃い……。
「そういや聞いたか?もう一人いるらしいぜ?」
「ああ、犯罪者とかいう……」
「ヤバイですな」
「へっ、犯罪者だか何だか知らねえが、俺が一番に決まってる!」
そして、授業開始時刻……。
「さて、授業を始めるぞ。私は教官の村田軍曹である……、って何で四人だけしかいないんだ?五人目はどうした?」
教官が現れる。
「いえ、見てません」
信が答える。
「五人目は……、ああ、あの犯罪者の……」
教官の村田は、見下しの意を込めてそう吐き捨てた。
栄えある日本海軍に犯罪者を入れるのか?と言う考えなのだ。
それは当然だ、治安を維持する側である軍隊に、何故、治安を乱した犯罪者が入ってくるのか?誰もがそう思うはずだ。
「少し待っていろ、内線で呼び出す。もしもし?提督候補生がまだ来ていない、早く教室に来るように命じろ」
教官らしく、提督訓練生達にそう言いながら内線をかける。
その五分後、狂死が現れた。
……返り血塗れで。
「「「「うわあああああっ!!!!」」」」
訓練生達が悲鳴を上げた!
それもそのはず、この時の狂死は完全にスプラッタ・ホラーのシネマ世界からの刺客であったからだ。
わざとらしいくらいに血塗れ。
オバケの類にしか見えない。
「き、貴様!そ、その血はなんだ!」
教官も思わず上擦った声で叫ぶ!
正規の軍人と言えども、血に塗れた男が幽鬼のように現れればそれはもう魂消る。
「ああ、舐めた奴がいたんでな。教育してやった」
「ああっ!ここにいたか、槻賀多狂死!貴様、四人もの士官候補生を半殺しにしたな!来い!事情聴取だ!!」
現れた憲兵が、狂死を捕まえていく……。
「な、なんて子供だ……!」
教官の一言が空に溶けて……。
三日後、再び、狂死は訓練生クラスに呼び出された。
「槻賀多訓練生、自己紹介をしたまえ」
教官の村田はそう指示をした。
「断る」
「なっ……、貴様!」
「お前如きが俺に命令するな」
「私は教官だぞ?!」
「知るか。俺は誰にも従わない」
ニヤニヤと笑いながらそう言う狂死。
他人には従わず、気に食わない奴は相手がどんな身分でも潰しにかかる。
後先を考えない獣の所業だ。
「っ……、上層部はこんな跳ねっ返りをよくも……。槻賀多候補生!二度は言わん!自己紹介をしろ!」
「ごちゃごちゃうるせえんだよテメェは……」
狂死は教官に襲い掛かった。
「やはり来たか!すまんが、叩きのめすぞ!」
狂死は、もちろん、戦闘技能は素人である。
しかし……。
「ひはははははは!!!!」
戦闘能力そのものは、極めて高かった。
空手柔道合気道の黒帯を持つ教官に、狂死は渡り合っている……!十五歳の少年が、格闘のプロの成人と渡り合うのだ!
「なっ……?!!は、速いっ!!!」
「あはははははは!!!!」
狂死は、室内を獣の如く跳ね回り、嬲り殺しにするかのような奇襲連続攻撃を加えている。
その有り様は、人間というより獣、しなやかな筋肉を持つ猫科の猛獣のような戦い方であった。
「ぐ、うううっ?!!!」
「ぎゃはははは!!!!」
ばちん!狂死の圧倒的な咬合力から繰り出される噛みつき攻撃は、トラバサミのような音を立てる。
「ぐわあああ!!!」
教官は、肩の肉を噛みちぎられ、出血。
傷口を押さえながら一歩退がった。
「き、貴様……!」
「俺の方が上だ。お前より上だ!」
喰いちぎった教官の肉を飲み下し、叫ぶ。
人ではなく、獣の理論である。
つまりは、自分の方が格上の存在だと、お前は下だと意思表示しているのだ。
相手の弱点を見抜き、そこにつけ込むこと。
相手を威圧し、力で格付けすること。
そのような獣の理論で動く非人間的な存在が、この槻賀多狂死という男である。
三話目なのに艦娘が出てないんよ。
まあそれはさておき、ちゃっちゃとローグライクを仕上げたいわね……。
とりあえず第一章完!までは書きたい。