「守護らねば……」
「旅人さん、手を貸して!」
うーん、映画のワンシーンみたいで興奮するってのもあるけど、これ、命かかってるんだよね?
うわあ、実感湧かない。
でも、やらなきゃやられるのは、何となくだけど理解した。
そして、私には何もできることがない、とも。
「大丈夫、大丈夫。立香も、マシュも、オルガマリーも、俺が守るから」
「旅人さん……!!」
カッコいい!!
そう言った旅人さんの両手には。
女物のパンティと電動ディルドが握られていた。
……?
?!!
え?
あ、あのさ、さっきの格好良さ、どうしたの?!
何でパンツとバイブでキメ顔できるの?!!
旅人さん?!
旅人さーん!!!
「行くぜ!!」
「どこへ?!」
旅人さん、パンツを手首のスナップを利かせて、投げる!
え?え?
パンツ投げた?
『愚カナ!!コンナモ、オギャアアアアア?!!!グフォオア?!!!ガアアアアアアーーー?!!!!』
パンツと侮って、回避しなかった影のアサシンは、パンツに当たって吹き飛んだ。
えぇ……。
幻覚を見ているのか、何もないところに向かってナイフを滅茶苦茶に振り回すアサシン。
「トドメだ」
片手のバイブのスイッチを入れ、アサシンの脳天に突き刺した。
『ギィイ……アァ……』
消滅するアサシン。
えぇ〜……。
「ふう、弱体化してて助かった。まともなサーヴァントが相手なら、火力がない俺じゃ殺しきれない可能性が十分にあるからな。ん?どうしたの?」
「いやいやいやいや、どうしたの、じゃないよ旅人さん」
突っ込みどころ満載なんですが?
「まず、そのパンツは?」
「?ノースティリスで発掘したザイロンのパンティだけど?」
「何その、何?武器なの?」
「ああ、パンティには当たった相手に狂気を付加する幻惑属性がある」
わぁ!初耳!
「あんた、ちょっとその下着見せなさい……、?!、?!!!」
所長の様子がおかしい。
「ど、どうしました?」
「……一級の礼装なのよ」
「礼装?」
「所謂マジックアイテムのことですよ、先輩」
そうなんだ……。
よりにもよって女性用下着を魔法のアイテムにしちゃったんだ……。
「私が持っている最大の礼装より格段に上、神代クラスの一級礼装よっ!ああ、イライラするわ!こんなものが!こんなものに!一級礼装にして!!ふざけてるのあんたは!!」
「いや、本当はもっと良いパンティ持ってるけど、吸血されるから」
「「「パンティに吸血される?!!!」」」
分からない……、分からない……。
「それで、その、女の子の口からはとても言えない、ブルブル震えるやつは何なの?」
「これ?これはスティーリー・ダンって呼んでるんだけど……、297番目の特異存在で、絶対に壊れない、マイクロ波を発生させて全てを破壊するディルドだよ。魔法は関係ない」
は?
「まあ、どれくらいかっていうと、1立方メートルのコンクリート塊を10秒以内に分解するくらいだね」
「ふざけてんの?」
「至って真面目だけど?」
そっか……、そっかー。
「私はね、旅人さん。旅人さんが手から火を出したり」
「できるよ」
「氷を出したり」
「できるよ」
「あわよくばビームを出したり、そう言うのを期待してたのよ」
「できるよ」
「できるならなんでやらないの?!!」
「いや、俺まず、旅人なのよ。魔法でも魔術でも呪術闇術奇跡武術スキルでも何でも色々あるけど、そんなに得意ではないのよ」
あ?
あー。
そっか、旅人さん、一回も、自分が魔法使いだ、なんて言ってないもんね。
つまり、あんまり得意じゃないんだ。
「さて、飯にしよう。立香、何食べたい?」
「え?うーん、醤油ラーメン?」
「じゃあ今から作るね」
え?
懐からキッチンを取り出す旅人さん。
え?
「マシュは?」
「え?あの?」
「何食べたい?」
「え、っと、では、先輩と同じものを」
「オルガマリーは?」
「……え?ええと、フィッシュ&チップスかしら」
「はいよー」
そして、三人に分身して調理をこなす旅人さん。
……ん?
「ふ、増えてるっ?!!」
「「「あ、これ忍術ね」」」
忍者でもあったの?旅人さん!!
ご飯はとんでもなくレベルが高かった。
老舗の人気ラーメン屋並のあっさりした醤油ラーメンが提供された。
正直言って、美味いと評判の東京のラーメン屋に2時間並んで食べたものより美味しかった。
「もしかして、ラーメン屋やったことある?」
「バイトくらいなら」
「やりなよー!ラーメン屋やれば稼げるよ、絶対!」
「いや俺まともに働くのはちょっと……」
「えー、じゃあ普段どうしてるの?」
「いつもはギャンブル」
「うわぁ……」
「最近は密輸と海上護衛」
「何やってたの?!!」
「んー、提督?」
提督、って……?
「あれ、分かんないかな、最近、深海棲艦騒ぎがあったじゃん?アレをどうにかしろって話になって」
「え、嘘?」
あの、深海棲艦を退けたって言う艦娘の、司令官ってこと?
「司令官なのに、バーサーカーなの?」
マシュに聞いたところ、サーヴァントにはクラスがあるそうだ。
セイバーなら剣士、アーチャーなら弓や遠距離武器の使い手だと。
バーサーカーは狂人で、普通は話が通じないらしいけれど……?
旅人さんは狂っているようには見えないけどなあ、話も通じるし。
「うん?俺はアーチャーとキャスター、ライダー、アサシン、バーサーカー、フォーリナーの適性があるよ」
「へー、凄いの?」
OKマシュ、旅人さんについて教えて。
「凄いなんてものじゃありませんよ、異常です!それだけの数の偉業を成し遂げたということですから!」
ふーん?
「つまり、何をやっても英雄並ってこと?」
「そんな大したものじゃないさ。あっちの男の方が俺より強いぞー。まあ、今回はキャスターみたいだから、弱体化はしてるけど」
あっちの男?
「ほお、気付いてたか。流石は旅人だ」
「だ、誰ですか?!」
マシュが盾を構えて前に出る。
「あ、大丈夫。この人、人間的にまともな方だから」
「旅人さん、知り合いなの?」
「ああ、真名は伏せるけど、昔会ったことがあるんだよね」
マシュが言うには、英霊には名前が分かると弱点が分かる人が結構いるらしい。じゃあ、普通に名乗った旅人さんは?……特に弱点がないとのこと。脳と心臓と魂を同時に消滅させられたら死ぬらしいけど、それは一体どんな状況なのだろうか。
「俺のことはキャスターとでも呼んでくれ」
青い髪の男性がキャスターと名乗る。
「この人、槍持ってた方が強えのにな」
「言うなよ、旅人。俺もそれは分かってる」
へえ、そうなんだ。よく分からないけど。
その後も、マシュと旅人さんに色々な話を聞いた。所長は、「なんでそんなこともわからないの?」みたいな態度をするので聞きづらい。
魔術師って大変なんだなー、とか、これから覚えなきゃならないこと沢山あって嫌だな、とか。
まあでも、実感はまだあまりないんだけど、世界、救わなきゃならないみたいだし。
うん、やらなきゃ。
頑張ろう。