1話 転生
「儂は……、神じゃ」
「ほうほう、それでそれで?」
白い、どこまでも真っ白い空間で、二人が話し込む。
一人は、後光が差した老人。神々しい雰囲気を発しており、如何にも神様、と言った様相。一人は、薄汚れた白衣の男。中肉中背、顔は見方によってはハンサムで、一般的には悪人顔。おまけに長髪で、如何にもな悪人だ。
「いやあ、研究室が突然爆発したと思ったらこれだ。悪い夢……、夢なのか?こりゃ」
「夢ではない。じゃが現実でもないのう。ここは言わば時空の狭間、隙間の空間じゃ。お主のような、儂の意に反して死んでしまった魂が一時的に保存される場所じゃ」
「それに神?神だぜ?正直訳分からん」
神と名乗った老人を見た男は、ハハッと笑う。当たり前だ、目の前に神と名乗る男がいるのだ。間違いなく精神異常者か何かだろう。笑う他ない。
「いやもう、何となく分かるじゃろう?異世界転生という奴じゃよ。異世界じゃよチートハーレムじゃよ。良かったなだから殺してしまった件については不問で」
「なるほど……、つまり?」
「お主は死んだ」
「ほうほうほう」
神に話しかけられたこの男、
「ふざけるなよテメーーー!!!俺が死んだらこの世界にエロ触手を作り出して野に放ちエロエロ王国を作り上げると言う俺の夢はどうなる!!!」
変態だった。
「すまんかった」
「ごめんで済んだら女騎士は要らねえんだよ!!!!」
息を荒げる白衣の男。これもまた当然だ。自分が死んだなどと告げられれば、怒りもする。
「落ち着くのじゃ。そんなお主には転生特典を授けることにしたのじゃ」
「転生特典ェ?」
そう、転生特典。所謂チートである。
「これからお主は、皆んな大好き剣と魔法の世界に転生するじゃろ?じゃが、何の力もないまま放り出したらすぐに死にかねんからな。転生人には転生特典、チートを授ける決まりなんじゃよ」
「いや、転生するじゃろ?とか言われても知らんけど」
「ああ、言い忘れておったな。お主の転生する世界の名はミドガルド、人類を中心に、獣人やエルフと言った亜人、それからモンスター、そう言ったものが存在するのじゃ」
「いや、ちょっと」
「他にも魔界、天界など、世界は多数あるが、お主が行くのはミドガルドじゃ。文明のレベルは、平均して、お主のいた地球の中世ヨーロッパくらいじゃな」
マシンガンのようにまくし立てる神に気圧される白衣の男。
「待て待て待て、訳わかんねーんだよ、何言ってんだよ、転生?チート?何の話だ?」
「いやもう、お主がここに来ている時点で、泣こうが喚こうが転生は決定事項じゃからな。いちいち説明するのも面倒なんじゃよ」
若干、面倒臭そうに言う神。
「お主が儂にとって予期せぬ不幸な事故で死んだのは確かなことじゃが、儂は転生特典付き転生によってその失点分を補って余りあると考えている」
「はぁ?」
「詫びは済ませたと言っておるんじゃよ。大体、お主はあのまま生きておっても、学会から異端とされ、生命工学界から追放されておった。つまり、お主の夢は叶わなかったのじゃよ」
「……マジかよ」
「それに、大体にして儂は神じゃぞ?何故人間に下手に出る必要がある?儂が転生しろと言うんじゃから大人しく転生せんか」
「横暴過ぎない?」
「昔は良かったのう……。皆が神に祈りを捧げ、貢物を備え……。神々が尊重されておった……。それなのに今は……」
その後も神は、一頻り愚痴を言うと、パンと手を叩いて、言った。
「さ、転生じゃ転生じゃ。さあ、転生特典はどうするんじゃ?」
「待てや、俺の話を……」
「聞かんよ。話すべきことは話した。お主にできるのは転生特典を選ぶことだけじゃ」
「チッ、あー……」
神の瞳を見て、男は思う。「コイツ、本当にこれ以上話す気がねえ」と。
「せめてもうちょっと詳しく説明してくれ……、ませんか?いきなり転生とか、転生特典とかって言われても分からないですよ」
ちょっと下手に出る男。この男、変態だがある程度の常識は弁えている。少なくとも、敬語を使う頭くらいはあるようだ。
「……転生、と言うのは、別の世界で生まれ変わるということ。転生特典と言うのは、特殊な能力のことじゃ」
神は端的に説明した。
なるほど、と男は思った。
「(全然分からん)」
分からない、と言うことが分かった。無知の知である。
「さあ、とっとと転生特典を選ぶんじゃよ。よっぽどのことでない限り叶えるぞい」
「あー、うー、じゃあ……」
正直、男にとって分からないことだらけだ。生まれ変わるなど、信じられない話だし、そもそも死んだ覚えもない、目の前の神と言う老人も胡散臭いし、転生特典も意味不明だし。
ただ、男は、願う。
「エロ触手、かな」
それが男の、根源だった。
「………………まあ、良かろう。道長慎吾。転生特典は『海神の蠕動』。転生、認証」
「いやエロ触手だっつってんじゃ」
すると、男の意識は、抵抗する間も無く、消えていった……。
続くか不明。