全く使えない雌個体とガキを連れて、警察署へ。
自衛もままならないとかどういうことだよ。
ガキの方はまあ、まだ良いとして、この雌。
「お前、なんか特技とかねーの?」
「え……、えと、生け花、ですかね」
つ、使えねェッ!!!
ま、まあ、平常な世界では、お上品な奥様だったんだろうな。
「旦那って何やってる人?」
「この先の横須賀警察署の、署長をしています……」
ほーん。
「やっぱアレか、お見合いとかで?」
「はい、そうです」
暇つぶしに、幸恵に話しかける。
キーちゃんは、幸恵のガキの面倒をみてくれているみたいだ。
「やっぱり金とか家柄とかで?」
「い、いえっ!そんなことありませんっ!夫とは、出会いこそお見合いでしたけど、仲は良いですし……!」
「ふーん。このご時世で専業主婦ってことは、相当金持ってんのな」
とは言え、非合法組織の幹部であった俺はもっともっともらってたが。
「いえそんな……!やっぱり、税金がかかって……」
「税金!凄いな、俺は払ったことないからわかんねーや。やっぱりアレでしょ?累進課税?とか言うのでかなり持ってかれるんでしょ?」
などと、軽く世間話しながら、北にある警察署を目指す。
ガキ共が歩けないとぐずり始めたので、キーちゃんの荷台に乗せてやる。
ガキはなー、嫌いなんだよなあ。
論理的じゃないからなあ。
まあ、生物は論理のみじゃ語れないのはよーく知ってるからな。仕方ないと思おう。
さてさて、ゾンビを蹴散らしながら、二、三時間歩いた結果、横須賀警察署についた。
横須賀警察署は、周囲の塀が封鎖されてバリケードが作られており、塀に見回りの警察官がいた。
「う、うわあああっ!!!」
こっちを見て悲鳴を上げた警察官は、ニューナンブという警察用のリボルバーをこちらに向けた。
判断が早いな。天狗の人にパァン!はされないだろう。
「ち、近寄るな、化物!!!」
俺は、幸恵を前に出す。
「ま、待ってください!話を聞いてください!」
「ひ、人質?!く、くそっ!人質を解放しろ!」
「違うんです!そう、夫を、夫を呼んでください!」
「ま、待ってろ、今応援を!」
あーーー。
「キーちゃん、頼む」
俺は耳を塞いだ。
「分カッタ。……『黙レ』ッ!!!!!」
「きゃ……!」「うわっ……!」
キーちゃんには、喉、両腕に計三つの発声器官がある。
それにより、音波衝撃による遠距離攻撃や、共振周波数を当てての物質崩壊攻撃、超高音による撹乱効果、超高周波数によって腕のブレードを振動させての振動剣などが扱える。
大きな音で驚かせ、一旦間を作る。
そして、俺は声をかける。
「警官、こちらの話を聞け。争うつもりはない」
「あ、う、あ……」
「幸恵、話せ」
「あ……、は、はい……。その、私は、この警察署の所長である、井草直人の妻です。夫に会わせてください」
「あ、ああ、分かりました……」
そして……。
「幸恵!」
「あなたっ!」
感動の再会だ。
「良かった、本当に良かった……!」
「「お父さん!」」
「裕樹、美久!よく無事でいてくれた……!」
と、感動の再会を済ませた後に、俺は訊ねた。
「嫁を探している。避難民に情報を提供させろ」
「君は……?」
「ティフォンだ」
「ティフォン……?ギリシア神話の?」
おお、凄いな。
ティフォンのコードネームで意味が通じるのは、厨二病患者か高学歴かのどちらかだ。
この男は後者なのだろう。
ティフォンとは、ギリシア神話最大の怪物であり……、エキドナという怪物との間に、たくさんの魔物を生み出した。
俺のフィアンセ達を生み出した計画を『エキドナ計画』と称していたので、そこから、上層部からこのコードネームを付けられた。
余談ではあるが、組織のボスは『クロノス』で、今回、ゾンビウイルステロをやって上層部を破壊したのは恐らく『ゼウス』だろうな。
本名は知らない。組織の幹部は、本名どころか、コードネーム以外の殆どの情報を知らない。
悪の組織だからね、年末年始の飲み会とかもないんだよ。だから、お互いの個人情報がこれっぽっちも入ってこない。
定例会も音声のみのテレビ通話だし。
ただ、クロノスはアメリカ人の男で、ゼウスはフランス人の男であるとは聞いている。
役職的には、クロノスはボスで、ゼウスはテロ実行などをする実働部隊の責任者。
他の幹部?
参謀の『レイア』とか、傭兵部門の責任者『ハデス』、海運部責任者『ポセイドン』に、表の産業の責任者『アポロン』、兵器開発部の責任者『ヘパイトス』辺りかな?
他にも幹部はいるけど、あんまり覚えてない。
俺は創作活動と、自分の与えられた研究所の指揮でいっぱいいっぱいだったから。
「君は何者だ……?」
「だから、名乗っただろ。ティフォンだ。博士でもいい」
「尋常ではない存在を連れているみたいだが」
「可愛いだろ?やらんぞ」
俺はキーちゃんをモフる。
キーちゃんは首のたてがみが可愛いねえ。もふもふだねえ。
「クゥーン……、ゴロゴロ……」
ああ、因みに、キーちゃんは猫科遺伝子を多めに含むので、喉を鳴らせるぞ!可愛いだろ!!!
それを、おぞましいものを見るかのような目を向けてくる直人。
「……文句でもあるのか?」
「い、いや、すまない。まず、妻と子を連れてきてくれたことに礼を言おう」
「そんなことはどうでもいい。すぐに避難民に情報を聞き込みしてこい」
嫁の特徴を伝えた。
この世界の雑魚ゾンビですが、刺股とかの長い棒で思い切り突けば体勢を崩せます。その隙に逆方向に全力ダッシュすれば、感知範囲から逃れられる感じです。
しかしその代わりに、パワーは強く、脳幹を破壊しない限り動き続けるので、囲まれれば銃を持っていても危ないですね。