仮拠点であるホームセンターに海堂一家を置いて、俺は、近くにある蛇神神社に向かった。
ここに、ヒューちゃんがいるはずだ。
しかし……。
「誰もいない?」
蛇神神社はもぬけの殻。
誰もいなかった。
ただ……。
「この、大蛇が這いずったかのような跡。これは、十中八九ヒューちゃんだ」
自然界にこんなでかい蛇はいない。断言できる。
つまり、ここにヒューちゃんは確実にいた訳だな。
それに……。
「これは……」
神社の本殿……って言うんだろうか?建物の中に、置き手紙があった。
読んでみる。
《これを見ているのが誰かは分かりません。
ですが、私が心から愛するティフォン博士だと仮定して書きます。
私、ヒュドラは、ゾンビウイルスの治療薬を体内で生成しました。それを注射する見返りとして、人間達を働かせています。
人間達を働かせて、周囲を探っていますが、もう四日過ぎました。なので、ここでの捜索を切り上げて、北へ向かおうと思います。
もし、この手紙を読んでいるなら、北の『横須賀北病院』に来てください。
実験体3号ヒュドラ》
「あちゃー、入れ違いか……」
どうやら、ヒューちゃんはさっき、北に行っちゃったみたいだ。
ああ、手紙の文字は、うちの研究所で使われている一般的な暗号文だから、『ゾンビウイルスの治療薬』というやべー単語を書いても誰も分からないぞ。
「博士ー!ドウダッター?」
と、キーちゃん。
「ああ、ヒューちゃんの手紙を見つけた!ヒューちゃんは北の病院に向かったみたいだ!」
「ソッカー、ジャ、追イカケヨウ!」
つったかたー、つったかたー。
鼻歌を歌いながら道を走る。
ヒューちゃんの匂いを辿りながら。
ヒューちゃんがここを出発したのはついさっきなはずだ。匂いが濃く残っていたからな。
とりあえず、荷物を抱えていて移動速度が遅いキーちゃんとスーちゃんは、仮拠点のホームセンターで待っていてもらい、俺だけが道を駆け抜けた。
そして、2、3km離れた地点に……。
いた!
下半身が十メートル前後の蛇で、背中から九本の蛇が生えている女性。蛇の色は黒。
年齢は十八歳くらいで、エスニック的な顔立ちをしつつも、大人しげでダウナーな雰囲気を醸し出している黒髪に碧眼の美女……。
「ヒューちゃん!」
「博士……!」
実験体3号、ヒュドラ。
ヒューちゃんだ。
「ヒューちゃん、無事でよかった」
俺は、ヒューちゃんを抱きしめた。
「心配、シタ……」
ヒューちゃんも、抱き返してくる。
やっぱり愛だよね!
「じゃあ、とりあえず、仮拠点に戻ろうか。仮拠点に、キーちゃんとスーちゃんを待たせてるからさ」
「ウン、デモ……」
おん?
周りにいる三十人くらいの人間達。
「ヒューちゃん、これ何?」
「ニンゲン……、働カセテル……」
あー?
そういや、そんなことも言ってたな。
ゾンビウイルスのワクチンを対価に、人間を働かせている、とか。
「ふーん?じゃあ、もう要らないね。捨ててきな」
「ウン……」
すると、ヒューちゃんは。
「探シテタ人ガ見ツカッタカラ、モウ、ツイテコナクテイイヨ……!」
と、大声で呼びかけて、そのまま俺の腕に抱きついた。
そのまま、俺達は仮拠点に向かおうとしたんだが……。
「ま、待ってくれ!」
「は?」
話しかけられた。
俺に声をかけてきたのは、無能そうな眼鏡の中年。
ざわ……ざわ……するギャンブル漫画のモブキャラみたいな奴だ。
「私達はどうすれば良いんだ?!」
は?
いや知らんし……。
諸君ら人間が畜生と定義する動物達だって、これからどうするかなんて自分で考えるぞ。
なんで俺に聞くんだよ、意味不明だ。
「お勤めご苦労、後は解散でよろしく!」
「バカな……!私達は、その化け物に脅されて、危険な外を探索してたんだぞ……!」
「で?」
化け物ってのはまあ、聞かなかったことにしてやるよ。
俺の仏の顔カウンターは確実に減るがな。
「対価……!対価を払えっ……!」
そんな俺のイラつきを感じ取れないのか、無視しているのかは分からないが、この中年雄個体はそんなことを言い始めた。
ヒューちゃんの顔を見る。
「エット……、ソノ人ハ、噛マレタ人……。ゾンビ化シナイヨウニスル代ワリニ、博士ヲ探シテッテオ願イシタ……」
ふーん。
「あのさ、ゾンビ化をしないようにしてもらっておいて、対価を寄越せって何?対価、前払いされてんじゃん」
と、俺が無慈悲な正論を叩きつけた。
「だ、だが……、そ、そうだ!ゾンビにならなかったとしても、襲われたら食われるのは確かだ!そんな危険を冒してまで人探しを手伝ってやったんだぞ!」
ふむ、一理ない。
めんどくさいし殺しちゃおっかな。
そんなことが頭によぎる。
だがその瞬間!
「黙りやがれ、クソ野郎!」
「がっ……!」
無能中年を横からぶん殴る雌個体が!
「テメー、こんだけ世話になっといて、何だその態度は!」
「な、何をするんだあ……!」
「うるせぇボケ!アタシはお前みてぇな曲がった奴が大っ嫌いなんだよ!」
赤毛のショートカット、つり目がちで背の高い雌個体だ。
定期的なスポーツ習慣があるようで、中年に差し掛かる程度の年齢の割には、かなり健康的な肉体。
「蛇の姐さんに、オレ達がどれだけ助けてきてもらったか忘れやがったのか!」
「わ、私はただ、みんなの意見を代弁……!代弁しているだけっ……!」
「何が代弁だっ!ふざけんなっ!!!」
そう言ってなんかごちゃごちゃやり始める、愚かなニンゲン共……。
なるほど、なるほど。
「よし分かった、いいだろう。このおっさん以外にも、蛇神の決定に異論がある者は言ってくれ。『補償行為』をしよう」
それを聞いて、クズっぽい人間が十人くらい集まる。
まあ、クズかどうかなんて見て分かるほどに俺は人間関係の機微は理解していないが……。
「テ、テメーら!この、恩知らずどもが!」
雌個体が叫ぶ。
「う、うるさいっ!俺達は被害者なんだ!」
「そうよ!権利……、守られる権利があるのよ!」
「は、早く補償!償えっ!」
流石に、このようなクズ発言をする奴はクズであると言うことくらいは、俺も理解できる。
俺は、集まったクズ共に対して……。
「よし、では補償として……、『このくそったれな世界から解放』してやろう。『地獄への片道切符』をプレゼントだ!」
片腕を振り上げ、筋力を増強させ、骨を分解してしなる触手に変換。先端に炭素のブレードを生成し、薙ぎ払う。
前方に並んでいたクズ共は、断末魔も残さずに瞬殺、両断された。
「ひ……、いやああああっ!!!」
補償を求めなかった二十人の中にいる大人しい雌個体が悲鳴を上げた。
「お、お前……!な、なにも、殺さなくても……」
先程の、赤毛の雌個体も驚いているようだ。
そんなこと言われてもなあ。
「こんなご時世に他人に寄生しないと生きられないような奴、ここで殺してやるのが情けってもんだろ」
「そ、それは……」
「お前らも、死にたいなら早めに言えよ」
「テメェ……!そんな言い方はねぇだろ?!」
うーん?
「いや、確かに殺人は悪いことだけどさ、こんな時に周囲の和を乱す人間をわざわざ置いておく必要ってあるか?むしろ感謝されてもいいぐらいだぞ。あんな奴ら、生きていたらあんたらに寄生して食いつぶすに決まってる」
「そ、それは、だけどよ……!」
「あーはいはい、メンタルは割り切れないですねー。で?じゃあどうする?俺を殺すか?」
あんなクズ共の為に報復をするか?それとも、正義感のまま裁きを下すか?好きにしろよ、返り討ちにするだけだ。
「………………」
だが、赤毛の雌個体もそれを分かっているのだろう。
あんなクズ共の敵討ちなんてやりたくないし、正義感のまま気に食わない奴を殺すことも良心が咎めるってところか。
そのまま黙り込んだ。
「はぁ……、もう良いからさ、ちゃんと働く気がある奴は俺について来いよ。俺じゃなくって、ちゃんとした人間がリーダーをやっている避難所を三つ見つけてるんだ。一番近い避難所に俺の嫁を待たせているから、そこまでなら案内してやっても良いぞ」
「……分かった、ありがとう」
雌個体は、歯を噛み締めてから前を向いてそう言った。
へえ、ちゃんと礼が言える社会人だ。珍しいな。
わちき、チーズタッカルビってのに興味あるわー。
コチュジャン?!コチュジャン……。
普段使わない調味料って、絶対余らせますよね。味覇を余らせた経験があるのは俺だけじゃないはず……!
それはさておき、プログラマ転生……。
ガンガンテンプレ入れてきてェな!と思って、王都に行く道中でオークに襲われるヒロインが!みたいなの書いてる。
……でも思ったんだけどさ、姫君が国から出てる理由がどうしても思い浮かばないから、姫君との出会いは学園でになりました。
いや、姫君名乗っている馬車がモンスターに襲われていてー!みたいな内容のなろう小説を読んだんですけど、中世レベルの社会で女の貴人を安全な町から移動させる理由が思い浮かばなくてですね。
なので、遠方の上位貴族の娘が、王都の学園に向かう道中で、謎のモンスター操り技術の使い手にモンスターを大量にけしかけられてピンチ!みたいな形にしました。