ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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やる気が出ない。


30話 作り手のビーバー

「ホシ氏、ホシ氏。拙者のカメラアイが故障してたりしますかな?」

 

親友の武蔵野太君が、僕の肩を揺らした。

 

元相撲部の太い腕で掴まれると、少し怖いな。

 

「いや……、僕にも見えてるよ。戒君は?」

 

「あっ、まあその、見えてるっすよ。幻覚じゃないっぽいっすね」

 

親友の真島戒君も、そう言った。いつものように、自信なさげに。

 

「やっぱり、幻覚じゃないのか……。あの、『モンスター』……!」

 

 

 

「博士ー!人間ダヨ!『サバイバー』!」

 

「おお、初のご来店か!おい、お前ら!ちょっと来いよ!」

 

ライオンのケンタウロスが、コンボイトラックの荷台を、まるでラーメン屋の屋台のように牽引している。

 

その隣に、スキュラ的存在と龍人が、同じようにトラックの荷台を牽引。

 

ラミアがその隣を這い、トラックの荷台の上には黒尽くめの女が乗っている。

 

そして、ライオンケンタウロスのトラックにある馭者席に、白衣の長身の男が座っており、僕達に手を振っている……。

 

「ほら!来いよ若者!」

 

「博士モ若者ダヨ?」

 

「まあそれはそう。俺もぶっちゃけ、まだ学生で通用するからなあ」

 

 

 

「ホシ氏、何でありますかな、あれは?」

 

「僕が聞きたいよね」

 

「あー……、その、と、とりあえず、話を聞いてみません?」

 

うーん……。

 

「カイ氏!それは危険では?拙者達、もう何度同じ人間から襲われたか、覚えておりませんぞ!」

 

「いっ、あ、その、いや、でも、殺す気ならとっくに攻撃してくると思うんすよね。ほ、ほら、なんか、空飛べそうなのとかいるし、奇襲されたら一撃っしょ?でも、奇襲のアドバンテージ捨てて話しかけてくるんだから、話くらいは……」

 

よし。

 

「話くらいは聞いてみようよ」

 

「む……、まあ、話くらいなら……。危なくなれば、すぐに、拾った『例のアレ』を使いますぞ!」

 

「うん、任せるよ」

 

例のアレとは、最近、至る所に隠されているアイテムの一つ、爆弾の事だね。

 

塩ビパイプに鉄屑と火薬が入った手榴弾。

 

かなり威力が強くて、直撃すれば強いゾンビも一撃で倒せる。

 

よし、話しかけよう。

 

「あ、あのっ!貴方は一体……?」

 

「俺はティフォン博士!今は、訳あって行商人をしている!」

 

「訳ナンテナイヨネ?」

 

「『訳あって』とは、説明の責任を放棄するための言葉だから、特に意味はないよ、キーちゃん」

 

うん、意味不明だ。

 

けど、分かるのは……。

 

「取引ができる……、って事ですか?」

 

「そうだ!ここでは、『物資の取引』と、『傷の治療』、『食事』、『入浴』、『依頼管理』が可能だぞ!」

 

……なるほど。

 

まさにゲームだね。

 

だからこそ、理解しやすい。

 

「一応、説明してもらって良いですか?」

 

「もちろん!チュートリアルだから色々サービスするぞ!」

 

ああ、なるほど?

 

チュートリアルね。

 

アレかな、ソシャゲとかで、「このガチャは有料だけど、チュートリアルだからガチャチケットを用意してあるぞ!」みたいな……。

 

「えー、まず、物資の取引だな!お前達、『サバイバー』は、街の中で色々と物資を見つけるはずだ。食料、弾薬、医薬品、資材、本、水……。そういうのを何でも、物々交換に応じるって事だ!」

 

「なるほど」

 

「因みに、価値は、貴重なものほど高価だぞ!食料なら甘いものとか、資材なら電子部品とか」

 

うん、それは理解しやすいね。

 

この東京じゃ無理だろうけど、食料は作ろうと思えば作れるはず。

 

けれど、こんな崩壊した世界じゃ、電子部品とかは作れないから、それらは高値で引き取るって言うのは理解できる。

 

「まあ、取引の目録は後で見せるよ。で、傷の治療……、は良いか?そのまんまの意味だ」

 

「あ、はい」

 

「そして、食事と入浴……。これも、そのまんま。物資と引き換えに適当な料理を提供されるのと、物資と引き換えにシャワーボックスを使えるのだな」

 

「え……?!」

 

食事と、入浴……?!

 

思えば、まともな食事なんて、もう二ヶ月以上口にしてない。

 

入浴もだ。

 

「あ、あのっ……!」

 

「ああ、みなまで言うな!分かっているとも!まずはサービスだ、シャワールームを使いなさい。あ、洗濯機もあるから服も洗えるぞ。だが、服は新品をくれてやるから、それを着ろよ」

 

 

 

久しぶりの入浴。

 

清潔な現代日本で生きていた僕達は、自分の肌から垢がこぼれ落ちるなんて経験は初めてだった。

 

それは酷く惨めだった。乞食にでもなったような、そんな気分。

 

自分で言うのもなんだけど、容姿には自信があった。

 

それが、この二、三ヶ月、ろくに風呂に入れない状況だったから、もうドロドロ……。

 

夏の暑さも後押しして、自覚できるほどの悪臭を放っていた。

 

ひび割れた皮膚、垢でできた膜のようなものが、肌を掻く度、ボロボロと溢れる。

 

それもまた、日本の湿度のせいで、そぼろのように粘着質なものが……。

 

汚れに塗れて這いずり回る僕達は、ゾンビと何が違うのかと悩んだものだ。

 

 

 

久しぶりに、汚れを全て落として、汚れたシャワールームを綺麗にしてから、貰った新品の服を着る。

 

「コチラ、新品ノ衣服デス」

 

黒尽くめの……、女?!

 

「ひっ、ああ!」

 

女、女だ!

 

「あーっと!ちょっと離れてもらえますかな?!ホシ氏は女性が苦手なのです!!」

 

「ハイ、失礼シマシタ」

 

武蔵野君に助けてもらった……。

 

「はあ、はあ、はあ……、すみません……」

 

「んー?何かあったのか?」

 

あ、博士……。

 

「い、いえ、女性が怖くて……」

 

「んー?怖い?美人に作ったんだが?」

 

「そ、そうじゃなくって……、女性が苦手なんですよ」

 

そう……、僕は女性が苦手だ。

 

僕は、子供の頃から容姿が良くて、勉強もスポーツもできた。

 

だから、女性にはモテた。

 

けど、その分、目の前でドロドロとした女の戦いを見せられて、怖くなってしまったんだよね……。

 

さっきまで笑顔で話していた女の子のことを、その子がいなくなると貶し始める……。

 

もう、そう言うのは見たくない……。

 

かと言って、男性も、モテている僕に嫉妬して虐めてくるし……。

 

僕の心を癒してくれるのは、二次元世界の純真な女の子達だけなんだ……。

 

百合アニメが特に良い!

 

女の子同士で仲良くて、可愛くて、元気いっぱいで……!

 

だから僕は、大学では現代娯楽部というサークルを作って、今はインディーズゲームスタジオをやっている。

 

まあ、僕に才能はないから、武蔵野君と真島君のサポートばかりしてるけどね。

 

「ま、なんでも良いや。飯できてるぞ」

 

飯……?

 

こ、この、匂いは……?!!!

 

「は、白米……?!それに、野菜と肉!」

 

太陽の光を受けて輝くご飯!

 

サラダに、ハンバーグ!

 

味噌汁と、カットされたフルーツ!

 

「あ、ああ、食べて良いんですか?!良いんですよねぇっ!!!!」

 

「おう、食え。話はそれからだ」

 

僕は、服を着ることすら途中で切り上げて、パンツとシャツのまま食卓についた。

 

見れば、武蔵野君と真島君も同じようなもの。

 

「「「いただきます!!!!!」」」

 

一口、米を口に含むと……。

 

「ふ、ぐ、ううぅう〜!!!!」「う、うおおっ……!!!」「ありがてえ、夢にまで見た米だ……!!!」

 

美味い、美味い!

 

美味すぎて、涙が出てくる。

 

僕達は、泣きながら食事をした……。

 

 

 

「あの!ありがとうございました!」

 

「「ありがとうございました!!!」」

 

久しぶりに、人間らしい生活ができた……。

 

温かいシャワーを浴びて、温かい食事を食べる……。

 

当たり前が、こんなにも素晴らしいものだったなんて。

 

今までの僕達は、この『当たり前』の幸せの大切さを理解していなかったんだな……。

 

「で、最後に、『依頼』だな」

 

「え?」

 

「いや、チュートリアルだよ」

 

「あっはい」

 

そういえばそうだったな……。

 

「依頼だが、その名の通り、依頼を出したり受けたりできるんだ。対価に応じて、俺にできることならなんでもな」

 

「なんでも、ですか。なら、避難地に連れて行って欲しい……、とかは?」

 

「おーおーおー、言うねえ。このご時世に最も高価な『安全』を買うのか?はてさて、いくらすると思う?」

 

まあ、そうだろうな……。

 

見たところ、慈善事業をやっているって感じじゃない。

 

「じゃ、じゃあ……、そうだ!僕達は三人でゲームを作ってるんです!良ければ、新作を受け取ってもらえますか?その……、そしたら、コピーしてもらっても良いんで……、僕達の生きた証を残させてください……!」

 

そう、僕達は、ゲーム作家なんだ。

 

僕がシステム構築、武蔵野君がグラフィック、真島君がストーリーを担当している、小さなゲーム会社……。

 

それでも、売り上げは三人が社会人として充分生活するくらいには稼げていたし、人気だってあった。

 

僕が作ったタスク管理系のプログラムは五百万円分の売り上げを達成したし、武蔵野君は高校生の頃からコミックマーケットで壁サークルだし、真島君は累計五百万部売れたラノベ作家だし……。

 

とにかく、自信を持って渡せる作品だ!

 

「んー?……こ、これはっ?!!!『コスモスプレッター2』だと?!!!」

 

「えっ、ご、ご存知ですか?!」

 

「ま、まさかお前ら……、インディーズゲームスタジオの、『スターウェーブ』か?!!!」

 

「は、はい!僕達三人が、スターウェーブです!!!」

 




ラーメンを食うつもりだったのだがつけ麺を食べてしまい、しかもそのつけ麺が微妙だったので果てしないダメージを受けてしまった。
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