帰還して、食事にする。
「ローマの食事かー、どんなのかな?」
「駄目だ」
「え?」
「俺が作るから、ローマの食事を食べちゃ駄目だ。水も飲んじゃ駄目だ」
「ええ?な、なんで?」
俺は、立香とマシュをネロ皇帝の見えない場所に連れて行く。
「立香、マシュ。鉛って、人体に有害なのは知ってるか?」
「え?」「ああ……、はい……」
立香は理解していないようだが、マシュは分かっているらしい。
「体内に入った鉛は、肝臓や骨に取り込まれ、ゆっくりと臓器をおかして、赤血球の動きを妨げる。その結果貧血に陥り、グアニン分解酵素の活性が阻害され、通風を引き起こす……」
「通風って……、風が吹いただけでも痛いって言う、あの?」
「ああ。つまり、だ。鉛を摂りすぎると通風になる。良いか?」
「う、うん」
「そして、だ。ローマでは、食器、鍋、水道管、全てが鉛でできている」
「……ってことは、何を口にしても、鉛が身体に入ってきちゃう、ってこと?」
「その通りだ。通風が進行すれば、腹痛、便秘、関節痛、言語障害、精神障害、筋肉麻痺、失明など……、兎に角まあ、危険だ」
「……えっと、それじゃあ、ネロ皇帝も危ないんじゃ?」
「ああ、あの人は鉛で狂って悪いこといっぱいして最後は元老院に国家の敵とされて逃げ延びた先で自殺するから大丈夫だ」
「何が大丈夫なの?!!」
「因みに、さっき出てきたあのカリギュラって人もローマの皇帝だったんだが、エロいことと殺人やりまくって、馬を元老委員にしたいと駄々をこねて最終的には近衛兵に暗殺されたよ」
「ええー……」
「まあ、ローマの皇帝なんてみんなそんなもんだよ。中には肉親を殺しまくった人とか、女装癖があって最終的に性転換した挙句暗殺された人とかいるし」
「えー……、やめてよー、知りたくなかったそんなこと!!そうなの、マシュ?!」
「あの……、非常に言いにくいことなのですが……、全て事実です……」
「うーわ……」
おっ、マシュは分かるのか。
「カラカラ帝も酷かったよなあ、和平の席で弟殺して、虐殺もやって」
「は、はい……」
「まあほら、平和な時代の平和な日本に生まれたから分からないかもしれないけど、昔はそんな感じだったのよ。頼光さんからも話聞いてみたら?ゾッとするような修羅エピソード聞けると思うよ?昔の人程ヤベーから色々聞いてみな?」
「えー……」
「ま、まあ、その、そう言う訳で、私も、先輩はローマの食事や水を口にするべきじゃないと思います。危険ですから」
「まあ、兎に角……、ここには、奴隷がいて、剣闘士が殺し合いを見世物にされ、浮気は当たり前で子供は捨てられた。そんな世界だと知って行動するんだよ」
「……うん、分かった」
てな訳で、城の外の一部を間借りして、飯を作ることに。
「でも、ローマの料理ってどんなの?」
「未来にも親しまれるメニューもあれば、孔雀や白鳥の脳みそやら何やらみたいな珍味も多いよ」
「えー、美味しいの?」
「うーん、そんなに美味くはないかなあ。人を選ぶ味だ」
「じゃあ、普通にご飯が良いね……」
「まあ、そう言うことだねー。何が良い?」
「んー、唐揚げ!」
「了解、マシュは?」
「私も同じもので……。その、いつもすみません」
「構わんよ」
と言った感じで、艦娘とサーヴァントから何が食べたいかを聞き出し、俺はさっと調理をする。
と、そこに。
「む?何をやっているのだ?」
ネロ皇帝が。
「食事の準備ですよ」
「むむ、そんなことをせずとも、食堂でいくらでも食わせてやるぞ?貴公には総督並の権限を与えたからな!」
「我々はとてもとても遠くから来ています。ローマの食事はあまり合わないのですよ」
「そうなのか?栄えあるローマの食事が合わないとは、難儀な話よな。しかし……、見たこともない料理ばかりであるな」
「よろしければ、陛下もどうですか?まあ、しかし、あまり手持ちの材料はないので、吐くほどは食べられませんが」
有名な話だよな、ローマのお偉いさんは食っては吐いてを繰り返して好きなだけ食べたんだよ。
でも、俺が作った料理をたくさん食べてくれるのは嬉しいが、吐いてまで食べて欲しくはない。
俺だって料理人の端くれだ、プライドだってある。吐かれるのは嫌だ。
「む、そうか?ではいただこう」
「こ、これは美味いっ!貴公!旅人よ!余の専属料理人にならぬか?!」
「いえ、ありがたいお話ですが……」
「あ、ああ、そうであったな、旅があるのであったな……。むう、惜しい、実に惜しい!貴公程の腕前があらば、宮廷料理人の筆頭になれていただろうに!」
ネロ皇帝に褒められる。
ありがてえ。
さて、ひと段落ついたので、次のミッション。
恒例の霊脈へGO。
エトナ火山まで行ってきますとネロ皇帝に許可を取り、移動。
サーヴァント四、艦娘三、俺の戦力なら、そこら辺の雑魚モンスターじゃ敵わない。蹴散らされていく。
特に盛り上がりもなくターミナルを設置。
『にしても……、今回の敵は何者なんだ?やはり、レフ・ライノールと関係があるのかな……?』
ロマンが話しかけてくる。
「あー?そうなんじゃねーの?サーヴァントが出てきてる時点で、魔術師か聖杯かはあるだろうよ」
『うーん、こちらでも調査はしてみるよ』
帰還。
そしたらネロ皇帝がガリアに遠征に行くと言い始めたので、客将としてついていくと宣言。
『行くのかい?』
「ああ、今のネロ皇帝はまだまともだ。少なくとも今の段階でいなくなるとまずい。ローマが崩壊すれば人類史も大ダメージを受けるだろうよ」
『しかし、君達の身の安全が……』
「ここは戦場だよロマン。安全なんてどこにもないさ」
『……分かった、気をつけてくれ』
と言う訳で移動。
「おおっ!なんなのだそれは!馬車か?!」
俺の四駆の車を見て興奮するネロ皇帝。
「まあ、そんな感じのものです。乗りますか?」
「おお、良いのか?!」
ネロ皇帝を隣に、後ろにマシュと立香、さらにその後ろに艦娘三人を乗せている。
俺は音楽を流す。
ネロ皇帝に配慮してクラシックだ。
「おお?!どこからともなく音楽が?!」
「魔術です」
「そ、そうか?」
誤魔化しておく。
立香とマシュは適当にお喋りしてて、ポーラは酒飲んでて、リベはニンテンドーSwitchで遊んでて、ローマはタブレットで本を読んでる。
暇なので俺もネロ皇帝とお喋りしておく。
しばらく進んだところで、左右から気配。挟撃か。
「さて、皇帝陛下、ここは我らにお任せを」
「む、敵か?」
「はい、左右から来ます。私と従者が右を、彼女達魔術師が左を叩きます。では」
「うむ、良きに計らえ」
まあ、何度も言うが、相手が雑兵なら、数千人くらい用意しないと戦闘用のサーヴァントや艦娘を倒すことはできない訳で。
「終わりました、移動しましょう」
「は、早いな?やるではないか、貴公ら」
「お褒めに預かり恐悦至極でございます」
「ふうむ……、惜しいな、客将のままにしておくのは惜しい。いっそ、正式に余のものにならんか?」
「いえ……、我々には聖杯を回収して世界を回る使命がありますので」
「む……、例の聖杯とやらは、世界に散らばっておるのか?」
「そうです。ですから、蛮族の住む遠方の地から灼熱の火山、極寒の大地、海の果てまで、我々は旅をせねばなりません」
「そうか……。ならば、旅が終われば良いのだな!いつでも席は空けておいてやろう!いつか、余の元へ来るが良い!」
「ありがたきお言葉です。その時は、皆で検討させていただきます」
と、上手い具合に誤魔化して、さあ、ガリアだ。
あ、ローマの皇帝達が鉛中毒で狂ったってのは、恐らくそうなんじゃね?って言われてるあれなので、百パーセント正しいとかじゃないと思います。