六歳。
村長のガキをリンチした事件から少し過ぎた頃。
俺は、魔法であっさりと秘密基地を修繕していた。
エイダが「えぇ……」みたいな顔をしていたが華麗にスルーですよそんなん。
「直せるんならあんなに殴る必要なくないですか?」みたいな雰囲気を出されたが無視無視!
だってしょうがないよね、弱いもの虐めは楽しいんだもんよ。
弱いものイジメをしていると思い込んだ弱いもの、を虐めるとか、中々ない面白展開だった訳だし。
この機会を逃す訳にはいかなかったのだ。
すまんな、エイダ。
さて、事件から時は流れ行き、時節は夏。
暦は意外と正確らしく、地球と同じように十二分割された月の内、八月の初めの頃。
俺は、親父に呼び出されていた。
「エグザス」
「はい!」
「村長の息子だがな……、村の教会で診てもらったのだが、潰れた鼻は生涯治らんらしい」
へー。
「そうですか……、悪いことをしてしまいましたね……」
うーん、心にもないことを言っちゃったぞ。
でも、心にもないことを口に出せないと、社会人なんてやれないからなあ。
仕事大好き!やりがい!勉強になる!……ってな。
いや、俺はマジで仕事が好きだったけどね?
好きなプログラムを開発するだけで金もらえんだもん、天職でしょ。
っと、それは良いや、もう終わったことだ。
申し訳なさそうな態度の俺を見て、親父はこう言った。
「確かに、お前は正しい。自らが整備した土地を荒らされて、それを見て泣く女性がいるのに立ち上がらないのは、騎士道に反する!」
お、そうだなー!
「しかし、やり過ぎは良くない」
まあそれはそうね。
「なので今日から、お前に力の使い方を教えてやることにした!」
んんんんんーーー????
理論がぴょんぴょんしてるんじゃ〜?
飛躍ゥ。
え?
まさか、原始人よろしく、棒振りのお稽古をしろと?
あほくさ……。
「生憎ですが、僕は武術よりも礼儀作法や文学を習いたいのです」
「何を言うか!貴族は戦う者だぞ!」
めんどくっせー。
じゃあテメーが疎かにしている礼法や文学、ひいては経済や科学はどこで学ぶんだ?と問いたい。
このゴミプロビで必要なのは、棒振りのお稽古ではなく経済的発展だろうに。
もう本当に嫌になるな。
あー、じゃあ折衷案だ。
週の半分の三日は遊んで、四日は訓練ということにした。
所詮は田舎侍に過ぎない親父程度、簡単に舌先で転がせる。
ほーら、こういう交渉術とか、お前が使えない技術なんだぞー。
テメーのガキに舌先で転がされる気分はどうでちゅかー?
……いや、そんなことを自覚する脳みそがまずないか。
悲しいね。
まあ、毎日訓練なんてアホくさいことやってられんからな。
そもそも、俺は既に魔力の効果で父親より強いし。
はあ、仕方ない仕方ない、棒振りのお稽古ね、はいはい。
で、訓練中なのだが……。
「まずは走り込みだ!」
「はい!『アプリケーション 《シータップ》 スタート』」
ちょっと昔の話をしよう。
俺の前世の話だ。
重障害者って分かる?
両手がないとか、脊髄損傷で身体が動かないとか。
うちの会社では、そんな重障害者向けのコンピュータインターフェースの開発をやっている下請けがあったのね。
まあ、最初は、開発は難航したらしいよ。
我々は普通、健康な両手を使って、キーボードにタイピングできるじゃない?
だから、手が動かない人はどうすればタイピングできるのか……?って悩まれたもんですよ。
音声入力システムについては、結構前から開発されてたからね、それとは別のやつってことだったんだが……。
そんなある時、一人のエンジニアが気づいたんだよ。
「目が見えるなら、見た文字を入力できるようにすれば良くね?」とね。
つまり、モニタにカメラを設置して、眼球の動きをトラッキング。
視線の先にある文字が入力される……、と言うシステムが生まれた。
その名も、『シータップ』……。
俺はそれを、アプリケーションとして開発した訳よ。
やってることはそんなに難しいことでもないしね。
単に、視点のトラッキングだからね。
カメラを向かい側に配置して視線を感知!とかではなく、概念的なARヴィジョンを魔力によって網膜投射する形式にしたが、まあ、こんな程度、数学とプログラミングが「チョットデキル」くらいなら誰でもできるだろう。
俺はこれを使って、ノロノロとランニングをしている最中に、システム開発に勤しんでいた……。
全くもって下らない。
日々の生活も覚束ないような我が家に必要なのは、騎士の名誉ではなく収入源じゃないのか?
四歳になった弟のシリウスと、三歳になった妹のセシリーは、いつも腹を空かせている。
親としてやるべきことは、剣の訓練ではなく、子供を飢えさせないようにすることだろうに。
これだから、俺はこの世界の親に感謝できないんだよなあ。
口だけで愛しているだの何だのと伝えられても、実際問題、我が子を養えてないんだもんよ。
そんなんで子供が親を尊敬できると思うか?
それに……、俺がこうして愛想良くしてやっているから騙されているようだが、俺の本心も見抜けてないところとか。
あとは、俺が昼間に何をしているか把握していないところとか。
親としてどうなんだ?
俺からすれば、「普段何やっても放置で、問題を起こした時は怒って、やりたくないことを強制するが、満足に飯も食わせられないけど、無条件で尊敬してくれ」と言われているようなもの。
前世の親は、「ありとあらゆる面倒を見た上で、大金と多大な労力を使って勉強させてくれて、家業を継がずとも笑顔で送り出してくれて、やったことに文句を言わず、俺が大成してから金をせびることはない」という聖人だった。
このギャップが埋められないんだよなあ。
大体、この弟と妹も意味不明だよね。
俺がまだ一人っ子だった頃も、大してたくさん食えていた訳じゃないのに、どうして食い扶持を増やすような真似をしちゃったの?
家族計画ガバガバかよお前よぉ。
犬猫じゃねーんだぞ?
育てられねぇんなら子供なんて産むなよ。
お陰で、弟と妹はいつも腹を空かせている。
ま、それを逆手にとって、俺の食べる分をいくらか弟と妹に分け与えて聖人ロールプレイしてポイント稼ぎしてるんだけどね。
だって俺は魔法である程度食材を用意できるからな。
隠れて腹一杯美味いもんを食ってるに決まってるだろ?
そんな訳で、弟と妹は、俺のことをとても尊敬しているようだった。
下手すりゃ、両親よりも俺のことを尊敬しているレベルだなこりゃ。
犬猫でも、人間でも、餌をくれる人には懐くもんだ。
自作、一番面白いとは口が裂けても言えないが、一番好きとは言えるな。
ただ毎回、作り込みが甘いなとは思ってしまう。もっと時間をかけて書けとか。
まあ、趣味でやってるからね……。