「あのさー」
「コロセ!!」
「コロセー!!」
「ギギギ!!」
転生とか特典とか、よく分からんけどもね。
「いきなり森のど真ん中に放り込まれても困るんだわ」
しかも、なんか変なのに囲まれてるし。
ひーふーみーよー……、沢山だ。
……あれだな、これ。
十中八九、ゴブリンだよな。
なんかそう言うやつだよな。
参った、ファンタジーかよ。
「シネェ!!!」
「おい待てよ、まずは話し合いって危ねえ!!」
恐らくはゴブリンであろう緑の小人は、ボロボロのナイフを構えて、身体ごとぶつかるように突撃してきた。
幸い、速度はそれほどでもない。
身を躱すことができた。
「話せるってことは知能があるってことだろ?話し合いで解決しようぜ?」
「ギギギヒィ!!」
「ニク!!」
「クウ!!」
……駄目っぽいな。
特に武道の心得があるわけじゃないが……。
「蹴り倒すくらいなら……!」
そして、サッカーボールを蹴るように蹴りを繰り出したら……!
「ゲヒ」
「ってうおお?!脚が……!!」
触手になった?!
鞭のようにしなる脚は、とてつもない威力で、ゴブリンの上半身を弾き飛ばした。
結果、下半身だけ残して爆散するゴブリン。
「おいおいおい、エロ触手ってこれか?俺がエロ触手になるのか?!」
俺的にはアダルトゲームの悪の魔導師みたいにエロ触手を召喚するもんだとばっかり。
とか何とか思っていると、頭の中にふわっと使い方が浮かぶ。
「海神の蠕動……。触手を始めとする、水棲生物の化身」
「ガギィ!!!」
海獣の牙を手首から伸ばし、手の延長として扱う。
「ギ」
目の前のゴブリンの首を切り落とす。
グロい?
ああ、その辺は平気だ。
専攻は生命工学。生き物の死体は見慣れてる。
次、複数のゴブリンが四方八方から襲いかかってくる。
「はああ!!!」
「グゲ」「ギャ」「ゲギ」
先端に海獣の角を付けた触手を全身から伸ばし、複数のゴブリンの身体を貫く。
「ギギギ……」
遠くにいるゴブリンに対して、
「喰らえ」
酸を噴射する。
「ゴアァ」
骨も残らずドロドロに溶けた。
ふむ。
全滅だな。
この海神の蠕動……、どうやら、『身体から海に関する生命体の力を無制限に引き出す』と言う能力らしい。
地球の海ではなく、この世界の海であることがミソだ。
この能力を使うにあたって、使える海に関する生命体の情報が頭にインプットされたが、こりゃ凄い。
『エスメラルダス・ディープシー・ウォータードラゴンロード』は全長30キロメートル、数千トンの巨大ドラゴン。水のブレスは着弾点半径100キロメートルを圧壊させる。
『カオティック・バルトロメイ・モビーディック』は全長200キロメートル、数十億トンの鯨の化け物。体表はアダマンタイトの数倍の硬さ。
『ベルゼビュート・クラーケンロード』は100キロメートル、数億トンのイカ。筋力はオリハルコン合金をひん曲げ、墨には超級魔術のフルコンヒューズに匹敵する隠蔽力がある。
そんな化け物達の能力や特性、ステータスを無尽蔵に再現できる。
あれ?
これひょっとして。
「俺、強え?」
取り敢えず人里を目指そう。
サメ系統の魔獣の嗅覚を活かして人の生活圏の方に向かって進む。
「こっちに炭の匂いがするな」
炭の匂いがする方へ。
歩って数時間。
歩っていて気付いたが、疲れない。
これも能力の恩恵か?
回遊魚のように疲れ知らずだと?
分からんな。
すると、森を抜けて平地に出た。
そこには。
「村、だな」
小さな村があった。
今は午後、くらいか。
人は疎らだ。
仕事なのか……、それとも元から人口が少ないのか。
何にせよ。
「いや……、帰りてぇ」
まだクリアしてないエロゲあるのに……。
何でこんなとこ来てんだ俺。
「お、何だ兄ちゃん、見ねえ顔だな」
フラフラ村を歩いていたら、おっさんに話しかけられる。
「ん、こんちわ」
「おう、こんにちは!浮かねえ顔してんな?」
「あー、いや、ちょっと困ってて」
「どうしたんだ?」
「まずここ、どこですか?」
「道に迷ったのか?ここはサングリア王国の南のホブ村だぞ」
んー、予想はしてたが聞いたことなーい。
「俺は日本の神奈川県の南城大学大学院の……、って、分かる訳ない、か」
「大学院?ってこたぁ、兄ちゃん、学者さんかい?」
学者さん、つったらそうだな。
「そうだなぁ、俺ぁ学者さんだわなあ。けどまあ、ほら、なんか知らんけど、無一文でこんなところに放り出されちゃった訳よ」
「詳しくは聞かねえが、大変なんだな。じゃあ、今日泊まるところもねえのか?」
「ああ、うん。でもまあ、その辺で野宿すりゃいいでしょ」
「そりゃいけねえ!まだまだ夜風が冷たい時期だ、死んじまうかもしれねえぞ!」
それなんだが……、さっきから寒さを感じないんだよね。
極寒の海を行く海獣の力が働いているみたいだ。
「何か寒さとか平気っぽいし、食い物も……、多分何とかなる」
今気付いたんだけど、食い物になりそうな水棲生物も出せるっぽい。
「そうは言ってもな……。よし、今日はうちに泊まってけ!」
「え?良いんすか?」
あら親切。
「構わねえよ、独り立ちした息子の部屋が余ってんだ」
「……じゃあ、お言葉に甘えて」
田舎はあったけえなぁ……。
海神の蠕動
水棲生物の召喚、従属、再現。