ジョージアの街に入った。
俺も、あまつさえモンスター娘であるリィンも、普通に入れた。
中に入ってみれば、三割ほどはモンスター娘や魔人だ。ああ、男や、人外全体を指して魔人、女はモンスター娘と呼ぶことがあるそうだ。
空を飛ぶハルピュイア、地を這うラミア、道を行くワーウルフ。
これが普通なのだろうか。
ロベルトが言うには、この辺の国はモンスター娘に寛容で、差別されないらしいが。
特に、恐らくはイギリス的な島国である聖王国(地理を聞いたところ、遠くの北西にあるらしい。つまりこの辺はイタリア?)の方面では、モンスター排斥の意識が強く、モンスター娘も一律モンスター扱いされ、殺されるそうだ。
聖王国は各地に勇者と呼ばれる対モンスター用のヒットマンを送り込んだり、モンスター娘に寛容な国々に喧嘩を売ったり、やりたい放題しているらしい。
しかし、世界的に見れば、親モンスター娘国家と反モンスター娘国家の勢力は拮抗しているようだ。むしろ、モンスター娘を抱いたり、可愛がるのは少数派。奇特な目で見られる。
「?、どしたのご主人様?」
兵士集めだなんだと身軽に動くには、この馬鹿女を自立させる必要もあるかもな。
捨てても良いが、ここまで懐いたのをほっぽり出すのは少々勿体ない。
信頼を得る、と言うのは中々難しいもので、自分のために命を捨ててくれる兵士は貴重な資源だ。
この馬鹿女がどこまで従順なのかは分からないが、かなり懐かれているのは事実。
少し教育すればお使いと自爆テロくらいならできるようになるかもしれない。
ではまず、予定通りに商人ギルドへ。
「商人ギルドへようこそ!」
受付の女に金を渡し、登録する。
注意事項を一通り聞いたのち、鑑定の魔法が使えると言う女に鑑定を頼んだ。
「これは?」
「塩、最高品質、1kg……、銀貨5枚ですかね」
「これは?」
「え……?白い、砂糖?……最高品質?!それが1kgだから……、金貨10枚はしますよ!!」
「では、これは?」
「こ、胡椒……?!最高品質!!!あわわわわ、それが1kgも……!!!金貨30枚です!!!」
ふむ、やはり砂糖や胡椒は高いな。
「これならどうだ?」
「飴、ですか。う、また最高品質……!これほどの飴なら、一つ銅貨10枚ですね」
成る程。
他にも色々と見せた。
武器(もちろん、剣や槍だ。銃は見せていない)は最高品質で、王都のものにも劣らないそうだ。
食料はこの世界には無いものが多く、人参はキャロリアの変異種だと言われてた、玉ねぎはオニオという名で呼ばれている、ジャガイモは存在自体がない、などが分かった。
資材は、鉄や銅、金銀などが相応の値段で売れるそうだ。
さて、売ろうか。
「さあ、良質の塩1kgを銀貨4枚で売るよー!!!」
うむ、久々に声を張り上げたな。
若い頃に戻った気分……、いや、今の俺は若かったな。
「何だって、銀貨4枚?安いじゃないか!」
「これは買いね!」
「売り切れる前に買わなくては!」
うむ、売れたな。
更に、小金持ち相手に飴も売る。普通の、日本ではペロペロキャンディと呼ばれるアレだ。
「お母さん、あれ買ってー!」
「もう、しょうがないわねえ」
「ほお、綺麗な飴だな、一つくれ」
飴も売れた。
売れたが……、こっちはあくまで客寄せの為。
飴での利益は考えていない。
問題がなさそうであれば、売る品目を増やしていきたいと思う。
リィンに店番を任せようと思ったが、こいつ、計算も読み書きもできねえ。
使えねえ……。
しょーがねーから計算と読み書きを教える。その傍で、塩やハーブ類を売る。
特に、純度が高い塩と、粉末状の乾燥ハーブはリピーターが続出し、一般家庭から宿屋、食事処まで幅広く売れた。
午前は数日に一回くらいのペースで塩とハーブを売り、午後は……。
冒険者としての活動だ。
街の近くに出る魔物を討伐するのが主な仕事だな。
『武器庫』の運用の応用も研究し、データが蓄積されつつある。
例えば、砲身だけ出して砲撃する、相手の内側に刃物などを召喚する、など。
発想次第で無限の可能性があるな。
そして、リィンの戦闘訓練。
銃を持たせてみたが、凡人の域を出ない。
まあ、それでも鉄砲玉くらいにはなるだろう。
暇な時間にCQB、空手、柔術などを教え込む。
頑張ってはいるんだが、本人の才能がな……。
逆に、意外にも使えたのは、こいつ、料理の覚えが異様に早い。
一から話すとしよう。
まず、この世界の飯は不味い。
そこそこのランクの宿屋に泊まったが、出てきたのは野菜にベーコンが少し入ったスープ、ガチガチの黒パン、腸詰肉一本、チーズ二かけら。
店主に聞いたところ、これで食事は美味い方とのこと。
うむ、絶望的だな。
なので、定期的に外に出て、人々に見えないところで料理を作った。
基本的に料理は得意だ。手先が器用だから。爆弾解体と比べたら、どんな料理だって簡単だ。味覚も鋭い。感覚が鈍くて傭兵ができるか。
それに、かつての部下には、元コックや料亭で働いていた奴なんてのも沢山いた。何でそんな奴らが傭兵になったかって?ああ、本人に聞いたら、「人の肉で料理をしたい」とか、「人を包丁で捌きたい」とか言ってたぞ。まあ、気持ちは分かるな。
そんな奴らに料理を習ったからか、俺は料理が得意だし、そいつらにお墨付きを貰うほど上手い。
特に、晩年は戦場に出ないで料理してたな……。あんまり前線に出るなと部下に止められて、渋々後方で料理してたっけ。
そんな訳で、外で料理していたんだが。
その度に、リィンが、あれは何これは何としつこく質問してきて、俺の料理を手伝おうとしてきた。
気まぐれに任せてみたところ、こいつ、料理の才能がある。
兵士としては並だが、料理人としては一流。
……はぁ、後方勤務させるか。
特にお菓子に感動しているようで、ケーキを食わせたら感動のあまり泣いていた。
因みに、俺は甘いもの好きだ。そもそも、効率的にカロリーが摂れて、ストレスを軽減する甘味は、兵士にこそ必要だと思うがね。
さて、そんなこんなでリィンを教育して少し経った頃。
「ねえ、ご主人様」
「何だ」
「ご主人様は、灰の指先?を再結成するんだよね?」
「そうだな」
「でも、それって、沢山の兵士が必要なんじゃないかな」
「ああ」
「私の友達呼ぼうか?」
ふむ……。
人員を増やす、か。
「当てがある、と?」
「うん、ハイオークのエーバーと、ハイコボルトのカーネ、レッドキャップのロッソ、ダークスライムのアクア。私の友達」
兵士を増やす、か。
養うのは容易だ。
よし。
「では、呼んでこい」
「ご主人様も一緒に来て!外だよ!あっちの方!」
リィンに連れられて、森の奥へ。
大型の洞窟を発見する。
こんな大型の洞窟、どうやってできたんだ?
自然にできるものなのか?
いや、ファンタジーに理屈を求めちゃならない、か。
奥の方に進む。
異様に発光する謎のキノコにより、洞窟内は割と明るい。
ファンタジー、これはファンタジー。生態だなんだと突っ込みは入れちゃならない。
「あ、いた。みんなー」
「おお、リィンか!最近見ないから心配してたんだぞお前!」
「反モンスター派の人達に殺されちゃったのかとばかり……!無事でよかったです!」
「キシシ」
「ごぽごぽ」
笑顔で迎え入れられるリィン。
仲間、か。
仲間は良いものだ。
俺にも沢山の下僕、いや仲間がいた。
「で、そいつは?」
「私のご主人様!ジン様って言うの!」
「な、何だと?!」
驚く大女。
「やい、てめえ!うちのリィンに何しやが」
発砲。
「あぎゃぁあああ?!!!」
「安心しろ、ゴム弾だ。ちょっとばかり痛いだけだ」
ゴム弾、っつってもマグナムだからな。
骨くらいは折れたか。
無様にのたうちまわる大女。
「痛っ、ぁ、ぎぃいいい……!!!」
ゴム弾が当たった肩を押さえて、胎児のように縮こまる。
「がるるるるぅ!!!」
後ろから飛びかかってくる犬女。
「奇襲すんなら声出すなや」
「きゃいん!!!」
後ろ回し蹴りで対処。
「キ、キシャアアア!!!」
「何だそりゃ、ヘボが」
「おっぐ……?!!うえええぇ……!!」
腹を蹴られて嘔吐する赤いガキ。
「お前はどうする?」
スライムに尋ねる。
「ごぽぽ……、こーさん、です……」
さて……。
「それじゃ、全員ブチ犯すからそこに並べや。殴られたりねえ奴は言えよ、死ぬ寸前までぶん殴ってやる」
このお話はモンスター娘と言えば逆レイプという風潮に一石を投じたいリョナラーが、ファンタジー世界特有のレイプものを、というコンセプトです。