今日誕生日なんだがー?
1話 農家
巡る、巡る。
記憶が巡る。
———「皆川君さぁ、この人手不足の中で休むとか言わないよね?有給?それは名目上だけで……」
———「えー!皆川さん……、環介君ってお医者さんなんだー!すごーい!年収いくらくらい?!年収は?!学歴は?!介護が必要な親とかもいないんだよね?!」
———「今日は早上がりだから酒でも飲みに行こうか!んん?皆川君、駄目だよ帰っちゃ!コミュニケーション取らなきゃさあ!」
「う、がああああっ!!!」
俺は怒りの叫び声を上げながら覚醒し……。
「……夢か」
夢だったと自覚した。
時計を見ると六時少し前。
農家の俺は、起床してもいい時間だった……。
今は初夏、ここは埼玉。
秩父の奥側にある限界集落、その名も「山中村」である。
「おう、遅いぞ、環坊!」
「うるせーよ待場のじいさん」
「収穫の九月はもうすぐじゃぞ!今のうちに山田のじいさんと山に行っとくれ」
「最近猪が多いんだろ?」
「そうじゃ、仕留めてこい。貴重な肉じゃて」
「猪肉なんざ食い飽きてるし、豚肉の方がよっぽど美味いんだよなあ」
「何を言うんじゃ!食えるだけありがたいと思わんか!ワシが子供の頃はなあ……!」
「あーはいはい、後でな。仕留めた猪は解体して待場の婆さんに渡しゃ良いんだろ?」
「おう、味噌ができたからな、味噌漬けにして明日食うべ」
「そりゃ良いな」
俺は、三十四歳のおっさんで、この山中村で農家をやって暮らしている。
近くに住む待場の爺さん婆さんや、酪農家の山田さん、ブランド鶏の専門家真田さん、米農家の望月さんなど、平均年齢六十五歳ほどの空間でスローライフしていた。
今のように、こうして、山から降りてくる猪などの面倒ごとはあるが、それでも、医者などというクソみたいな仕事よりはよっぽどマシだ。
俺は、槍とハンマーを持って山へ向かおうとした……、その時のことである。
グラグラと、強めの地震が起きた。
流石に、家屋が倒壊するほどではなかったが、家の瓦が落ちたり、ヒビが入ったりするレベルの大きな地震だ。
「おおっ……、でかい地震だったな。大丈夫か爺さん?腰は抜かしてないか?」
「カーッ!馬鹿にするんじゃないわい!このくらいの地震なら何度も経験あるわ!良いから環坊は猪の退治じゃ!」
「分かったけどよ……、あ?」
《パラダイムシフト……、完了》
《ハロー、ワールド》
《これから、この世界は変化します》
脳内に無機質な、機械音声のような音が響く。
「爺さん」
「んお?何じゃこれは?何ぞ聞こえるのお」
どうやら、俺だけじゃなく、爺さんも聴こえているらしい。
《全人類に『ステータス』と最低一つの『スキル』を配布します》
《『ステータス』は資源獣を倒すと微増し、『スキル』は、ボス資源獣の『魔核』を使用することで強化されます》
《また、地域ごとに存在するボス資源獣を討伐することにより、その地域は資源獣から解放されます》
《ステータスとスキルは、『ステータスオープン』と宣言することにより閲覧可能です》
何だこりゃ……?
ゲームか何かなのか?
《資源獣は、『世界の意思』に改変され、知的生命体を襲います。資源獣を倒して、資源を得てください》
《資源獣は、資源獣の持つ力か、私達があなた方に与えた力のみで倒せます。同時に、既存の人類のシステムは破壊されます》
《『世界の意思』は、資源獣を恐ろしい魔獣へと変じさせましたが、その性質から必ず倒すことは可能となっています。知恵を絞って、力を奮ってください》
《私達には、これが精一杯のサポートです。どうか、人類種の存続を……》
その一言と共に、謎の声は聞こえなくなった……。
「意味わかんねーな」
「環坊、猪!」
「あーはいはい、行ってくる」
「何だこりゃ」
山に行き、罠にかかっていた猪を始末するのだが……。
『ブルル……!』
その猪は、いつもの倍くらい大きくて、色も黒かった。
「……まあ良いや、とりあえず始末するか」
害獣には変わりないしな……。
山のヌシとか、そんなんだろ。
とりあえず、大型のスレッジハンマーで、脳天をぶん殴り、気絶させる。それから安全に槍で仕留めるのだ。
『プギイイイッ!!!』
医者として散々人間をバラしてきた過去がある俺は、今更、猪を殺すくらいで何とも思わん。
だがしかし、デカいだけあってしぶといな……。
ハンマーで何度もぶん殴る。
そして、気絶した黒猪の首を、槍で貫く。
そこからどくどくと血が流れていき……。
『……プ……ギ』
死んだ。
するとその時。
《レベルが5上がりました》
《ボス資源獣を討伐しました。『山中村』を解放。拠点コアに触れてください。触れない場合は二十四時間後にボス資源獣がリポップします》
「はあ?」
また、脳内に声が響く。
意味が分からん。
とりあえず、解体するか……。
解体すると、心臓から石が出てきた。
「何だこりゃ?生物学的にあり得んだろ?」
俺は、その石を握ると……。
しゃり、と。
砕けてしまった。
「んん?砂糖細工みたいな感触だな。崩れちまった」
崩れた石は、光の粒子になって消える……。
《魔核を砕きました。スキルレベルアップまで、後三つです》
また、脳内に謎の声。
完全に意味が分からんな……。
この黒猪の肉は、食って良いのだろうか……?
とりあえず、あとでパッチテストと、うちの飼い犬に食わせてテストしてみよう。
屍山血河をちいかわって呼ぶの草。