大きいバックパックとスキットルと……。
杉之浦女子高校……。
佐奈川市富谷1-5に存在する女子校。
偏差値的には、いわゆる「なんちゃって進学校」程度のものだが、その歴史は古く、戦前から存在している有名校である。
制服が可愛い!だとか、校則が緩い!だとか、そんな理由で人気は高い。
この高校には、世界の崩壊……、『パラダイムシフト』が起きて以降、この高校の生徒達が拠点にしている。
パラダイムシフトが起きたのは、平日の正午。
校内には、多くの女子生徒達が残っていた。
大地震の後、モンスターの大量発生……。
それにより、数十人の生徒が犠牲になる。
しかしそこで、スキルの力を使っていち早く立て直した『砂鷹光』『待場翠』の力と、生徒会長である『捨矢理絵』のカリスマ、それに協力する生徒達の力によって、一つの組織としてまとまったのだ。
既に、校舎内のエリアは、ボス資源獣が倒され、平定されている。
その校舎のうち、生徒会室に、数人の生徒達が集まっていた……。
ボブカットにされたブラウンヘアと、赤縁メガネが特徴の女の子。
生徒会長、実質的なこの高校という組織のリーダーである、捨矢理絵(すてや りえ)が机を指先だけで叩いた。
「つまり、何?物資を全部、その先生とやらに渡しちゃった訳?」
不機嫌そうに眉を顰める理絵だが、その姿もどこか可愛らしく感じられるのは、本人の愛嬌のなせる業だろう。
怒られている側の砂鷹光にしては、恐怖を感じているが。
「ご、ごめん……。でも、色々貰ってきて……」
「うん、それは分かるんだよ?久しぶりに甘いものとか貰えて、みんな喜んでた。ありがとね」
「なら」
「でもさ、私が言いたいのは、『私を通さずに勝手に決められちゃった』ってことなの。私、リーダーなんだけど」
「……ごめん」
「ひかりんもさ、今はもう立場ある人な訳じゃん?この杉之浦高校の英雄ってさ。だから、立場ある人が命令違反とかすると、困るんだよね」
「うう……」
俯く光。
それを横から、待場翠が止める。
「そ、その辺で勘弁してあげて……」
「みどりんもだよ。何で見てたの?止めてよ」
「アッ飛び火」
二人は、理絵にこんこんと言い聞かせられる。
理絵には悪気はないし、嫌味を言っている訳でもない。
ただ単純に正論であった。
五分ほど言い聞かせて、最後に理絵はこう言った。
「で?その先生とかっていう怪しいおじさんは何者なの?」
「えと、お医者さんだよ。内科の先生」
すっかり小さくなった光は、小さくなった声でそう返す。
「……は?マジで?」
「あっ、でも、今はもうお医者さんを辞めて、秩父の方で農家をやってたんだって」
「……それ、本当なの?」
「え?うん、畑で作ったっていう野菜をもらったよ」
「その人、他にどんなことできる?」
「えっと……、お医者さんとしての腕前は凄かったらしいよ。私の手術は成功率が10%を切るって言われてたのに成功したし……」
「他は?」
「農家としては色々やってたんだって。お金になるブランド野菜が中心だけど、他の農家さんの手伝いで、米とかの作り方も分かるみたい。あとは動物の世話もある程度できて、狩猟免許も持ってて、熊くらいなら解体できるって……」
「他」
「それと……、あ、犬と馬を連れてたよ。犬はシベリアンハスキーで、馬はおっきいやつ。馬には自分で作った馬車を牽かせてた」
「他」
「あとは……、えっと……、若い頃もかっこよかったんだけど、おじさんになって渋くなってたかな。それに、背も高くてマッチョで、その……、カッコいいんだ。えへへ……」
光の話を聞き終わった理絵は……。
机に倒れ込んだ。
ゴン!と、理絵の頭が机にぶつかり、音を立てる。
「り、理絵……?」
「こんの……、おバカ!!!何で引き止めなかったの?!!!」
勢いよく顔を上げた理絵は、そう叫んだ。
「え、ええっ?!だ、だって、杉之浦高校には、男の人を入れないって言ったのは理絵じゃないか!」
「うぐぁー!言った!言ったけど!そこは融通を利かせて欲しかったなあ私は!!!そもそも、『遠話』で確認を取って欲しかったなあ!!!!」
そう……、あまりにも有用過ぎる。
医療、農業、家畜の世話、家畜の解体、工作。
この高校にいる女子高校生達には全くできない技能を持つ大人……。
それは、女性のみの団体であるという強みを捨ててでも欲しい人材だった。
だが一つ問題がある。
「じゃあ、先生を探した方が良いの?」
「そうだね、そうしてほしいね」
「でも……、何て言えば良いのかな?物資の交換も、物資を渡したからできたんだし……」
そう、対価の問題である。
医者で、農業の心得も多少ある、などという有能な存在は、どこでも引っ張りだこなはずだ。
理絵は考える。
市民体育館の盆暗共には靡かないだろうし、男子校のバカ共にも従おうとは思わないだろう。
だがしかし、未探索の自衛隊基地の方面ならあるいは……。
他にも駅方面とか、何より大学の方はかなり良い条件を用意するはずだ、と。
そしておもむろに、理絵は口火を切った。
「……ひかりんさあ、その先生って人のこと、好き?」
「ふえっ?!ま、ま、まあ、その……、す、好き……、だょ?」
顔を真っ赤にして狼狽える光。
そこにいるのは、いつもの、『杉之浦高校の英雄』ではなく、歳上の男性に恋する少女だった……。
が、そこに、豪速球を打ち込む理絵。
「ごめん、はっきり言おうか。ひかりんは、先生とセックスできる?子供産める?」
「ひゅにゃにゃ?!!!」
奇声を上げて飛び上がる光。
当たり前だ、こんなことを聞かれてまともに反応できる女子高生はそうはいない。
混乱してフリーズする光。
その脳内には、「先生の子供」という単語がぐるぐると回り続けていた。
が、そこに……。
「おい、テメェ!さっきから聞いてりゃなんだ!」
一人の大女が割って入った。
身長180cmはある、大きな女だ。
レスリング部の主将、伍七嗣葉(ごしち つぐは)である。
「お前、自分が何言ってんのかわかってんのか?!」
女とは思えない太い腕で、理絵の襟首を掴む嗣葉。
「分かって言ってるよ、つぐりん」
「分かってねぇだろ!前に『あんな事』があったのに、仲間に身体を売れだなんてよく言えたな!!!」
怒り心頭の嗣葉。
このまま理絵を締め殺すかもしれない勢いだ。
だが、理絵はいたって平静のまま、平然と返す。
「あのさ、別にひかりんじゃなくても良いんだけど。私でも良いよ」
と。
「私は、みんなが楽になるなら、知らないおじさんの子供を産んでも良い。けど、ひかりんが好きな人なら、ひかりんに任せても良いかなってだけの話だよ」
そこにあるのは、女子高生の顔ではなく。
「お、お前ッ……!」
冷徹なリーダーの顔であった。
寒気がするほどに冷たい顔から、一転。
「ま、私はひかりんから好きな人を取ったりしないからさ。とりあえず、その人をここに連れてきてくれる?」
可愛らしい女子高生の顔に戻った理絵は、そう呼びかけるように宣言して、「さー仕事仕事」と呟きながら退室していった……。
はあー、書けねえ。
毎日八千文字は書きたいんだがなあ……。