プランター野菜の第一陣が収穫できたので、それを保存食に加工した。
カブやラデッシュなどの根菜類はピクルスに、葉物野菜は乾燥させて干し野菜にした。
その前に、新鮮な採れたて野菜を生で食べたりなどもしたな。
久々の生野菜は感動的な味だったらしく、女の子達は喜びの涙を流していた。
野菜というものは、種類によっては冬でも育つので、プランターはフル稼働させると発表した。
で、それと、驚いたことに米がとれた。
もちろん、収穫率は七割に満たない程度だったが、それでも食べられる米がトン単位で得られたのは幸いだったな。
どうやら、ここの米農家の人がギリギリまで避難せずに田んぼの世話をしておいてくれたことが一つ。
米農家の人が長期間田んぼを放置するために整備しておいてくれたことが一つ。
夏なのに嵐で雨が降って田んぼが乾かなかったことが一つ。
品種改良を重ねられた米の強さが一つ。
女子校に来る前の俺が、放置された田んぼを見かけて、気を利かせて放水したりなどしておいたことが一つ……。
……などと、一つ一つの奇跡が重なって、二月くらい放置されていた田んぼに多少の米が実っていた。
もちろん、本来なら、今年の気候なら豊作でこの倍近くの米ができてもおかしくはないのだが、流石に肥料不足と雑草にやられて、予定される平均的な七割程度しか米は実らなかった。
だがそれでも、収穫は収穫。
米は全ていただいた。
米の天日干しをしつつ、俺は他の畑を巡る。
どうやら、他の畑も、ギリギリ収穫できる野菜などが残っているようだった。
これらも収穫し、田畑を整えたりなどをしているうちに……。
暦は、十一月に入っていた。
精米機は、ものづくり部の人員が電子工作をして、なんとか手回しバッテリーを繋げて、『持久力』スキル持ちの子複数人に人力発電させてどうにか騙し騙し動かして精米できた。
自転車をモーターに繋いで発電するバラエティ番組みたいなアレ、実用性あったんだな。
この米は目算、ここにいる全生徒の一年分くらいは余裕であるはずだ。
密閉容器で虫が入らないようにしっかりと保存した。
しかし、そんな俺達に、新しい問題がのしかかる。
その問題とは、冬の寒さである。
埼玉とは言え、寒いものは寒い。
どうにかして冬の寒さを緩和する必要がある。
もちろん、ここの女子高生達も馬鹿じゃない。
ちゃんと、考えられる対策はとってある。
服屋などをあらかじめ漁っておいたらしく、着る物だけなら多くあるそうだ。
それと、毛布などもある程度はあるとのこと。
であれば……、あとできることは、火鉢などで火を焚くことだ。
なので、ここから南東の、武田区に向かおうと提言した。そこのホームセンターに行こう、と。
だが……。
「た、武田区……?!むっ、無理ですっ!」
「絶対イヤです!」
と、拒否されてしまった。
ふむ……?
「どうして無理なんだい?」
「「だって……、武田区には……!」」
武田区には?
「「虫がいっぱいいるんですよ!!!」」
あー……。
まあ、うん。
気持ちは分かる。
この前行った図書館も武田区にあったのだが……、虫だらけだった。
巨大なゴキブリ、カマドウマ、ムカデにハエなどの、不快な造形の奴らばかりだからなあ。
……とは言え、俺はそれらの虫を捕まえて色々試したところ。
甲殻は鉄のように丈夫で。
中身はタンパク源として食べられるし。
体液はワックスなどの樹脂系薬液の類になることが分かっている。
女の子ってグロいのは平気な子が割と多いけど、虫とかはやっぱり嫌いだよなあ。
そこは仕方ない、か。
なら、木を探して炭を作る段階から……、いや、生木でも良いから薪が欲しくなるな。
火鉢本体はいっそのこと、石でできた花壇やバーベキューコンロとかそういうものでも良いとして……、やはり薪だ。
俺は代替案として、こう言った。
「駅前……、要坂区はどうだろうか?」
と……。
「要坂区と言えば……、トレントのところですか?」
待場さんが言った。
トレント……?
ああ、何かの小説で読んだな。
人面樹のことをトレントと呼ぶらしい。
そう、人面樹。
女子高のある富谷区から南へ10kmほど離れた要坂区には、人の顔をした歩く木のモンスターが出る。
このモンスターからは、果実、木材、樹脂が得られるのだ。
大変に狙い目である。
そんなモンスターを、何故今まで狩らなかったのか?
それには理由があった……。
富谷区と要坂区の間にある、土屋区。
そこに現れるモンスターがネックなのだ。
土屋区に現れるモンスターは、彷徨う鎧……。
富谷区の骸骨戦士の鎧版のような感じだ。
しかし、骸骨戦士とは比べ物にならないほど強い。
その理由として、骸骨達が持つ武器は、どれも脆い鉄でできたボロボロの武具ばかりで、骸骨自体の防御も骨並みで倒しやすいのだが。
この彷徨う鎧は、鋼の鎧に頑丈な剣と盾を持ち、更にその鋼のボディを叩き壊さなければ死なない化け物なのだ。
現状、これに対抗できるのは、エピックスキル持ちの子だけである……。
「彷徨う鎧はどう対処しましょうか……?」
砂鷹さんが言った。
ふむ……。
ここで、ひとつ思うことがあるのだが……。
「あのさ、6月6日にさ、声を聞かなかったかい?」
「はい、聞きました」
「それでさ、こう言ってなかったか?『資源獣は必ず倒せる』って……」
「言っていたと思います……」
つまり……。
「何かあるんじゃないのか?楽に倒す方法が……」
真面目な話、なろう主人公さんって究極的にはチンピラとやってることが何ら変わりはないんだよな。
なんだかんだ理由をつけても、気に入らん奴を虐めて、女侍らせて荒稼ぎとか、完全にチンピラの夢じゃん。
なら、己が下衆なチンピラであることを自覚した上でやりたい放題する方が好感が持てるのって俺だけなんですかねえ?
こっちが正義側だから許されるみたいな論調はあるけど、ナーロッパ人からしたらお前の方が悪やぞ。
現地の風習や身分階級に従わず、己の価値観のみに従って独善を成すやつとか、普通の漫画なら敵キャラだよ。
イスラーム圏で女の人から顔隠す布取ったらヤバいのは分かってるくせに、何故奴隷やら何やらと聞くといきり立つんだい?その世界では奴隷が普通なのに?普通という概念に逆らうの?
そういう、明らかに悪側の存在の癖に、良い人ですよアピールをしてくるのはクソムカつくぜぇ。善行しているつもりのサイコパス……、鉤爪の男かな?
そんなんだったら、「弱い者いじめは楽しいのでこの世界の雑魚どもを捻り潰して遊ぶぜー!」くらい言ってもらった方が好感が持てるなあ。