つまり、捨矢さんはこう言ったのだ。
俺のことが好きだから、俺の手を汚させるようなことはさせたくない、と。
素晴らしいな、感動した。
だから、真摯に向き合おう。
「まず、そこまで想ってくれたことに対して、礼を言わせて欲しい。ありがとう」
と、一つ置いてから。
「だが……、その心配は無用だよ」
と返してやった。
「え……?」
「こんな世の中で、手を汚さずに今まで生きてこれたと思うかい?」
暗喩だ。
俺は既に、何人か殺しているという暗喩。
これを正しく理解できない馬鹿は、この場に一人もいなかった。
「そ、れは」
彼女達は、息を呑む。
「聞いてくれるかな。人を殺した時の話を……」
俺は、人殺しに特別な感情は抱いていない。
医者として、手のひらの上で命を弄んでいたから。
例え、「治療の為だ」と言えども、本来死ぬはずだった人間の摂理を曲げて、生き永らえさせたのだから、それは正に罪だった。
治しているか、壊しているか?その違いだけで、幾つもの命を「扱って」きた。
いつもと違って命を壊しただけ、何も感じる事はない。
だが、それを直截に言っても、理解されないだろう。
これは俺特有の感覚だからな。
なので、理解してもらえるように、具体的なエピソードを提示しようか。
「……村にいた頃の話だ」
重苦しさを演出しながら、口火を切る。
「村に、強盗が来たんだよ。若い男女が四人だった」
ああ、そうだ。
今思い出してもイラつくな。
俺の日常を壊しやがったカス共が。
「村人は俺以外皆殺しだよ。皆、年寄りばかりなのに……、酷い殺し方をされていた」
「あっ……」
待場さんが吐息を漏らす。
ああ、察したんだな。
「待場さんのおじいさんがいたんだ。厳しいけど、良い人だったなあ……」
「おじいちゃん……」
待場さんがそう呟いた。
思い出して、少し涙ぐんでいる。
かわいそうにな……。
「待場の爺さんは、弓で射掛けられていた。傷口は殆ど背中にあった。射角からして、必死に逃げている爺さんを追いかけ回して、後ろから射ったんだろう」
「……ッ!」
「矢傷はどれも、わざと致命傷を外して射られていた。遊んでいたんだよ、奴らは。何の罪もない老人を射掛けて遊んでいたんだ」
「そんなっ……!」
「酷い……!」
「そして、致命傷の傷は、腹部の切創……。逃げられなくなった爺さんを捕まえて、刃物で切りつけたんだ」
「うっ、うううっ……!」
あ、待場さんが本気で泣き始めた。
「他の老人達も同じように殺されていたよ。小腸を引き摺り出され、それで首を絞められていた猟奇的な死体もあった……」
「何でそんな……!」
「人間のやることですかっ……!」
まあ、そうだな。
「だから、殺した。俺の周りの人達を殺して、村で略奪をするような奴らが生きているなんて、耐えられないからな」
だが、殺したことに理由なんてない。
ただ、殺した。
俺はあの時、「許せない!」などという義憤も、それどころか悲しみもなかった。
本当に、シンプルに、害虫にそうするかのように「駆除」した感覚だ。
医者だった頃の癖だろうな。
命を扱う時など、集中する時は「スイッチ」が切り替わるのだ。
普段は俺もしっかりと心がある。怒ったり悲しんだりするさ。
だが、ある一定以上の負荷がかかると、何も感じなくなるんだよ。
感覚が切り替わるんだ。日常と仕事とでな。
まあ……、大した話ではないのだが……。
「皆川さんっ!」
おっと、待場さんが抱きついてきた。
「ありがとう……、ありがとうございました!おじいちゃんの仇をとってくれて!」
へえ、そう返す?
最悪、人殺しだと罵られても仕方がないと覚悟はしていたんだがな。
「私は……、人を殺す事は良くないと思う。けど……、生かしていちゃいけない人もいるって事は、知らなかったです……」
捨矢さんはそんなことを呟いた。
周りの皆も頷く。
まあ、そんな訳で……。
「俺は既に人殺しだ。今更、何人か追加で殺したところで、何も感じないよ」
と宣言させてもらう。
「で、でも、あの人達はまだ何も……」
誰かがそう言った、次の瞬間!
『会長!大変です!工業高校の奴ら、三十人くらいで攻めてきました!』
と、遠話チャンネルに声が響いた……。
小説家になりたいとは思うが、自作に責任を持てないので……。