Twitterでめっちゃ祝われて草。
「乃木三曹……、それは、貴方流のジョークですか?」
四角いフレームのメガネをかけた、鋭利な印象の美男子が、そのメガネの位置を整えながらそう言った。
「はっ、山下一尉、残念ながらマジですよ」
それとは対照的に、冴えない中年。乃木がそう返す。
人当たりがよい乃木にしては、随分と棘のある対応だった。
それは単に、自分より年下であるが階級が上でエリートな山下に対する妬心から、というような訳ではなく、山下の他者を見下す嫌なエリート仕草が気に入らないからだ。
「マジ……だと?三曹……、自衛隊員として、いやそれ以前に人として、上官に対してその口の利き方は……」
現に山下は、そう言って鋭利な相貌を更に鋭くし、乃木を叱りつける……。かなりの嫌味な、侮蔑の意を込めての説教は、多くの人が嫌うだろう。
「ま、まあまあ、今は良いじゃないか、山下一尉。君の言いたいことも分かるけど、それより先に、民間人からの話を聞く方が先だと、私は、その、思うんだが……?」
尻すぼみになっていく曖昧な言葉を口にしつつ、そう言って小さく手を上げたのは、優しそうな……とても自衛隊員とは思えぬ壮年の男性。
ハンカチで汗で冷や汗を拭いながら、不安そうな顔でそう言ったのは、この赤町駐屯地の責任者……。
「今村一佐がそう仰るのなら……」
今村一佐だ。
エリート意識の塊のような存在である山下は、今村一佐にはしっかりと頭を下げた。
「ありがとう、山下一尉。もちろん、乃木三曹にもお礼を言いたいと思うんだが、その、私は何もできないんだが……」
「いやいや、大丈夫ですって!一佐はホントに、よくやってくれてます。一佐あっての我々ですわホントに!ってか、もっと自信持ってくださいよ!」
自分に自信もなく、能力も凡庸。外見も中年らしく腹が出ていて、良いところなんて殆どない今村。
そんな存在に山下が従うのは、何も階級が上だからという訳ではない。
「わ、私は、その……、責任者としてここに残って、責任を取ろうとした。けれど、私は無能だよ。何もできていない。そんな私がまだ一佐として認めてもらえているのは、皆の信頼があってこそなんだ……」
今村は、彼は、本来国を守るべき政治家や高級官僚、自衛隊上層部が真っ先に国民を捨てて逃げ出した中で、責任を取るために自らここに残った義人であるからだ。
凡人だが、義の人で、誰にでも優しく親和的。
エリートである山下と叩き上げの乃木のような二人の仲を取り持ち、この組織が分解しない為の要となっている。
故に、この駐屯地の自衛隊員は皆、今村のことを尊敬していた。
「いやいや、一佐はみんなの仲を取り持ってくれてるじゃないですか!本来なら大騒ぎしているはずの民間人が静かにしてくれてんのも、一佐の人徳ですよ!」
「そ、そんなことは……。民間人が静かなのは、『州臣さん』のスキルによるものなんじゃないかと私は思うんだが……」
「いや……、まあ確かに、州臣さんの『鎮静』スキルは強力ですけど……。でも、スキルだけでここまで収まるもんじゃありませんって!」
「そうだろう、か……?そう言ってもらえると、その、私は嬉しい。ああ、でもその、私のことより、君自身のことをもっと大切にしてほしい。私のような老人より、若い者が優先されるべきで……」
「いやいや、俺ももう若くないっすから!お供しますよ、一佐」
と、今村と乃木が話している。
その最中、乃木から受け取ったリストを見ていた山下は。
「……ダメだ、これは受け入れられない」
と、リストを放り投げていた。
「や、山下一尉?!」
驚く今村だが、それに対して山下は「失礼しました」と軽く咳払いしてから、冷静な普段の様子とは異なり真に迫ってこう言った……。
「今村一佐、これは断りましょう。こんな要求、飲めるはずがない!」
リストには、先ほど言った『州臣さん』を中心に、民間人の数多くのスキル保持者や、一部自衛隊員も「寄越せ」とあった。
女子高生達の身内であるという共通点のみで、多くの人材をこのコミュニティから引き剥がそうと言うのだ。
「だ、だが山下一尉?若い女の子達が家族を返してくれと言っているんだろう?私としては、その、返してやりたいのだが……?」
「このリストにある民間人も自衛隊員も、全員返せばこのコミュニティが保ちませんよ?!」
山下は、放り投げた資料を机に叩きつけ、指を指す。
『州臣涼子』
『クラウド・エンフィールド』
『桐子悠河』
『割酒真威人』
山下が特に拙いと、そう主張したのはこの四人。
この四人のスキルは特に破格で、この駐屯地というコミュニティになくてはならないものだから。
「まず、『州臣涼子』さん。彼女は、あちら側の勢力の子供達のうち一人の母親らしいのですが……、彼女の能力を失う訳にはいきません!」
「ま、まあ……、彼女の持つ『鎮静』のスキルは、苦痛や精神の昂りを鎮静するものだが……」
「はい……。今は、彼女が無意識レベルで『鎮静』の力をこの駐屯地に振りまいてくれています。故に、民間人らも大人しくしていてくれるのです」
山下は、凝った眉間を揉みほぐしながらそう言った。
「確かにそうだろうな。俺は、かつての大震災の際に被災地に派遣された経験があります。そんときゃ、本当に大変だった……。日本人はとても礼儀正しいだとか海外には評価されているが、追い詰められればその……、悪いことをしてしまう人も、残念ながらいる訳です」
「乃木三曹の言う通りです!市民を外部のモンスターから守れても、市民が暴れ出せば……!」
「そ、そうか……。他のメンバーはどうなのかな?」
「『クラウド・エンフィールド』さんは、在日イギリス人で、霧島大学の学生です。あちらの集団の誰かの兄なのだとか。彼の『調整』の能力により、何故か壊れていってしまう電子機器や銃器の整備が、ノーコストで可能なのです……。民間人ですが、彼の力がなければ……」
「そ、そうなんだね。確かに……、それは少し拙い……んだね?」
「ええ……。そして、『桐子悠河』は訓練生ですが自衛隊員です。あの集団の誰かの従兄弟らしいと聞きます。彼は、『予測』というスキルを持つのですが、これはあらゆるところで活用されています。例えば、天気予報やヘルスケア、戦力分析から物資の適切な分配……。彼は縁の下の力持ちなのです」
「ふむ、なるほど……」
「最後に『割酒真威人』ですが、彼はベテランの自衛隊員です。単純に戦力としても有用な存在ですが……、『力場』というスキルも持ちます。このスキルは、重機並みのパワーを持つ力場を自在に発生させるというものなのですが、これが非常に重要なのです。何せ、今は重機や車など一つも使えないのですから」
「………………」
「思ったんだけどね」
「はい」
「……どうにか、あちら側を取り込んだりとか……、できない、かな?」
ネタが、ネタが溢れてくる……!