目が覚めた。
ええと、確か……。
俺は、杉之浦女子高校の外縁部にある田んぼに現れた、新丸平良とかいう女の子にいきなり首を絞められて……。
辺りを見回す。
ここは……、倉庫、か?
肌寒いし、窓もないから地下とかか?
振り向く。
……木製の格子?
何だこりゃ?座敷牢とでも言うつもりか?
格子はかなりしっかりしていて、これじゃ抜け出せないだろう。
いや、『変換』を使えば一発だが。
とはいえ、戦闘能力的には俺はそんな大したことはないからな。
「あ、起きた!」
格子を隔てた向こう側には、先程の新丸がいた。
それともう一人、細身の男もだ。
「お目覚めですか、皆川さん」
……ふむ。
「ああ。君は?」
「私は、宮野という者です。つきましては、貴方にお願いがあってお呼びした次第です」
お呼びした、ねえ……?
誘拐しておいてこの言い様。
気に食わんな。
新丸平良の方はまあ、あの様子なら仕方ないかもしれん。
だがこいつは、悪意を持って誘拐してきたように思える。
好きになれる要素がないな。
「そのお願いというのが、この私に従って欲しいということになります」
「……はあ?」
ニヤつく宮野という男。
黒髪、細身、身長は170cm前後。
疾患は特にないようだ、こんなご時世でも健康を維持できているとなると……、ちゃんと飯を食える立場にあるんだろうなと予想できる。
顔つきはまあ、ハンサムなのだろう。
今時の女の子にウケるような中性的な顔だ。
しかし、目つきなどが鋭利で利発そうな印象を受ける。
「私に従って欲しいと言ったのです。貴方はどうやら、農業指導者であり医師でもあるそうですので、この私の『霧島大学コミュニティ』に力を貸してもらいたい」
「あー……、すまない。ちょっといいだろうか?」
「何でしょうか?」
「……それが人にものを頼む態度か?」
「……なるほど。強気なようですね」
いや、礼儀の話だろ。
テロリストじゃあるまいし、鉄砲玉に奇襲させて隣のコミュニティの要人を誘拐って……。
交渉してダメだった場合に武力行使とかだろ普通。
そういう、誘拐とか暗殺とか、直接的な攻撃は最後の最後にやるもんだ。
理性的な判断力を持つ人類ならば、まずは話し合いで解決するべきだろう。
「ひょっとして、殺されないとでも?私は、そちらの甘いリーダーとは違い、やるべき時にはやりますよ」
いや、今は別にやるべき時じゃないだろ。
「こちらはもう分かっているのですよ、貴方のスキルについても……」
ふむ。
「貴方のスキルは、物質創造系だ。そのスキルによって、女子校コミュニティで中核的存在になっているのでしょう?」
んん……、まあ、そうね。
その割に俺のこの黄金の腕輪は取り上げてないようだが。
コストに何を消費するかは機密扱いにちゃんとできていたってことか。
……そう言えば、皆は無事だろうか?
俺がいないで畑は大丈夫か?
そもそも、意識を失ってからどれほどの時間が過ぎたんだ?
不安になってきたな……。
「そうだとして、俺を攫った訳は?」
「ふふふ……、そんなことは決まっています。この私に服従させる為ですよ」
えぇ……?
何言ってんのこの人?
怖……。
だが、もしそうなると本当に怖いな。
自分の意思を捻じ曲げられて、他人の為に奉仕させられるだけの存在になるなど、知的生命体にとって一番の恐怖だ。
もしかしたら、相当な戦力があるのか……?
いや、そうに違いない。
そうじゃなきゃこんな短慮な行動はせんだろう。
この宮野という男は、見るからに若く大学生くらいだ。
だが、この年齢でそこまで考えなしなはずはない。
二十代ともなれば、大人同然だろう。
「……それで?大人しく従うとでも?」
「従うでしょう。貴方は私には逆らえない……」
なんだこの自信は?
何か仕掛けたのか?
俺は確かに、戦闘能力は低い。
それに、スキルも一つだけだ。
何か仕掛けられているとしたら、それに気づくことはできないだろう。
拙いな、何かが起きている……。
俺は、格子の前から去り行く宮野の後ろ姿を眺めつつ、考え込む……。
……ん?
待てよ?
ちらりと、まだ残っている新丸を見る。
この子は見張りか?
まあそれは今は良い。
問題は、俺の精神状態だ。
自覚できるほどに、精神が不安定になっている。
それは、目の前にいるこの新丸もだ。
新丸は、異様なほどに自尊心が高まっており、多弁で、性欲が強まっていて、観念奔逸……話が逸れる支離滅裂さがあった。
この症状に付け加えて、顔つきも、キョロキョロとした目つきや目のクマがあり……。
総合的に見て、そう。
精神障害……!
特に、双極性障害の躁病エピソードの特徴だ!
これで大体分かったな。
あの、宮野という男のスキルは……。
……恐らく、『洗脳』だろう。
俺の精神を破壊して、なんでもいうことを聞く人形にするつもりなのだ。
今、古典的ダンジョンにいる不審者の続きを書いてます。
次は、迷宮都市ウィンザリアに「勇者」がやってきて、「魔王」を退治するのだ!と言い張り……、みたいな話です。
なお、勇者が倒すと息巻いている魔王は主人公のことである。