「……お前はあれだな、やっぱり、獣姦してるみたいな気分になるな。だがまあ、匂いは確かに女だ」
「あんっ❤︎あんっ❤︎わ、私は馬ではありませぬ❤︎誇り高きぃ❤︎ユニコーン族でぇ❤︎」
「はん、こんなによがって何が誇りだ」
「あああーっ❤︎❤︎❤︎」
私はウーノ。
とある王国の姫騎士だったが、望まぬ結婚を強制され、嫌気がさし、出奔した者だ。
実家からは早く帰って来てくれ、結婚は取りやめにする、と手紙が届いたが、その頃には、冒険者生活で見聞を広めることの面白さに虜になっており……。
まあ、当分は帰らないつもりだ。
い、いや、祖国に役立つことを勉強しているのだ。
別に、帰ってもやることがないとか、刺激的な冒険者生活の方が楽しいとか、そう言うのではないぞ?
本当だぞ。
そう、それで……。
「むむむ、どうにか、この缶詰というものを我が国で再現できないだろうか?携行性に優れ、長期保存が可能で、その上とても美味しい……」
「この世界の技術レベルじゃ無理だ。あと三、四百年はしないとな」
「そう、か……。これが普及すれば、より我が国は栄えるだろうに……」
「瓶詰めの作り方なら教えてやる、それを普及させればいい」
今も勉強の最中である。
い、いや、ただ食べていた訳ではないとも。
しっかり考えているのだ。
この缶詰の戦術的な有用性をな。
円柱形や長方形など、様々な形があるが、どれも重ねやすく、軽く、丈夫にできている。
肉野菜果物、様々な食料を加工して詰めてある。
それに、どうやら、聞いたところによると、常温ならば数年は日持ちするそうだ。
なんて素晴らしい保存食だ。
これならば行軍だけではなく、冬の間の保存食、常備食にもできるだろう。
味も非常に良い。
様々な缶詰を試させてもらったが、レーション、と呼ばれる缶詰は、軍隊の携行食らしく、量も多く味も濃い。腹持ちもいい。
他にも、パンの缶詰や果物の砂糖汁漬けの缶詰を食したが、どれも絶品で、酷く驚いた。
更に、見たことのない野菜の数々。
ニンジン、と言ったか?
あれは良い、実に良い。
あんなにもケンタウロス系の舌に合う野菜がこの世に存在したのか……。
ユニコーンを含むケンタウロス系は、野菜を好む者が多い。
特に、その中でも、キャロリアのような根菜が好まれる。しかし、ニンジンはまさに格が違った。
あれは、ご主人様にお願いして、我が国で育てよう。
それほどまでに美味いのだ、あの、ニンジンという野菜は。
味はキャロリアに近いが、キャロリアより太く長く、色合いが鮮やかで、仄かに甘味がある。キャロリアとは違い、噛むとしゃりしゃりとした歯ごたえが小気味良い。
きっと、国に持ち帰れば、皆が喜んでくれるだろう。
さて、食事を済ませた後は、戦闘だ。
我が国のドワーフの職人に作らせた最高の鎧に、宮廷魔導師達の渾身のエンチャントがかけられた鎧、「リギルケンタウロス」に身を包み、同じく鍛え込まれた国宝の大盾、「シリウスの盾」であらゆる攻撃を受け止めるのだ。
この装備ならドラゴンブレスすら防いでみせるぞ。
ご主人様には、「死んでも生き返らせてやる」と申しつけられ、火砲の標的にされ、何度か死にかけたが!
なんだあの、あーるぴーじーとやらは。ちょっとしたドラゴンブレスか何かか?死にかけたぞ本当に。
まあ、訓練を積んだ今では……。
「私が押さえているうちにやれ、ピトーネ!」
「はいはい、っと!フレイムランス!!」
敵に遅れはとらないとも。
現在はダンジョンに潜ってから一週間、26階層だ。
環境としては河川となっている。
そこまで深くはないが、水に足を取られるので、気をつけるべきだな。
「ケルピーだ!足を狙え!」
「ファイアアロー!!」
「でえりゃあ!!」
ふむ、特に問題はない、か。
その後も着実に進んで、50階層を超えた頃。
「よし、お前らの実力は分かった。今後は、正式に『灰の指先』の所属として、『武器庫』へのアクセス権レベル3を付与する」
「「「「はい!」」」」
「これ以降は、俺も戦闘に参加し、ダンジョンの攻略を目指すぞ。行けるところまで行くからついてこい」
「「「「はい!」」」」
ご主人様が宣言した。
ご主人様が言うには、底のないアイテムボックスへのアクセス権を与えたらしい。
つまりニンジンが食べ放題ということだ!
ふふふ。
い、いや、違うぞ。
私とて一国の姫、食い気ばかりではないぞ。
さ、さて!
このダンジョンの51階層は熱帯林のようだ。
獣人種の私からすれば、暑いな。
「っと、制汗剤も出るのか。ほら」
ご主人様が、鉄の筒を出す。軽く振って、こちらに向けると、鉄の筒から冷たい煙が!
「ひあっ?!」
「涼しいだろ?」
な、なんなのだこれは。
ええと、ここを押すと?
ひああっ?!!
「「「暑いぃ……」」」
「だらしないわねえ」
「そうでござる」
「ピトーネ、八千代!お前らは寒いところ全然駄目だろ!!」
「暑いところは平気だもの」
「この程度でへばっちゃならんのでござるよ」
こ、こいつら!
自分達が平気だからってよくもまあ!
「よし、休憩だ。小屋を出すぞ」
「小屋、とは?うわあああ?!!」
何ということだ、石造りの建物が一瞬で生えたぞ?!
「今日はここで休む。エアコンをつけろ……、って、分からないか。スイッチはここか、よし」
「エアコン……?お、おお?あの箱から涼しい風が。どういう魔具なのだ?」
「馬鹿ね、ウーノ。あれもどうせカガクに決まってるわ」
ピトーネは、部屋の中のソファに腰掛けた。
「むむむ……、カガク、か」
カガク……、私達の学問の遥か上をいく概念。
どうにか、我が国で活かせないものか。
「飯にすんぞ。ここは暑いから蕎麦な」
「蕎麦でござるか?!いやあ、蕎麦粥は好きでござるよ」
「違う、麺だ。手伝え、八千代」
「?、了解でござる!」
「ほら、ピトーネも来い、オムレツ作りの練習するんだろ」
「ええ」
そのまま、どんどん進む。
70階層は火山、今いる80階層は氷山だ。
途中に現れる強力なモンスターの群れも。
「ワイバーンの群れだ!気をつけろ!」
「ボフォース40mm機関砲……、対空砲火」
『『『『ゲギャーーー!!!』』』』
ご主人様がいとも簡単に壊滅させていった。
それは何かと聞いたが。
「40mmだ、戦闘機を墜とすんだからワイバーンが墜ちない道理はねえだろ」
とのこと。
よく分からないが、ワイバーンをいとも容易く殺せる火砲があれば、世界の戦力バランスは簡単に崩れるだろうと思った。
この40mmというものが沢山あれば、ガリア皇国の誇るワイバーンの竜騎士すら怖くはないだろう。
「死んじゃう死んじゃう、寒い寒い寒い寒い」
「あーあーあー、冬眠するでござるー」
さて、寒いのが駄目なピトーネと八千代が音をあげ始めたところで、野営。
「あ"ぁ〜、部屋あったかい〜」
「飯にするぞ、今晩はクリームシチューだ」
と、白い煮込み料理を出すご主人様。
「これは……、!!、う、美味い!動物のミルクを使った煮込みか!!」
ミルクにこんな使い道があるとは!!
我が国では、ミルクは腐りやすいので、チーズに加工してしまうことが殆どだ。
牛乳をそのまま飲めるのなんて、酪農家くらいのもので、滅多に流通などしない。
まあ、乳を手に入れる方法なら他にあるのだが……。
「それに白ワインの風味もする……。このソースは絶品だ!是非メニューを教えてもらいたい!」
これはいかん、我が国で独占せねば!!
グルメに逃げがち。