世界征服の第一歩として、上位種集めをしたいと思う。
……魔人やモンスター娘には、等級というか、階級というか、そういうものがある。
例えば、同じ狼系でも、コボルトよりワーウルフの方が上、ワーウルフよりヘルハウンドの方が上、ヘルハウンドよりフェンリルの方が上、というような。
それは、何も権威の話ではない。
身体能力、魔力、特殊能力。
そう言ったもので下位種を上回るそうだ。
コボルトであれば、人並みの身体能力と少なめの魔力、鼻が効く程度。ワーウルフであれば、人より素早く、力強く、回復力が高い、鼻が効くくらいだが、ヘルハウンドならばそれに追加して更なる身体能力と、火を噴く能力、火属性の魔法を使いこなす。
フェンリルならば、更に高い身体能力……、人間の五倍以上と、それと高い魔力、氷の魔法、氷のブレス、局地的に雪をふらせる、地面を凍らせる、魔力を直接氷に変換して射出するなど、面白い力がある。
氷を射出する、というのは、銃弾には劣るが牽制にはなるし、鋭い氷の刃や、質量弾としてなら多少は使える。氷の壁や地面も、砲弾は防げないが、風などの魔法に対して優位に立てる。氷のブレスも射程範囲は短いが、普通の人体程度なら2、30秒で凍死させられる。
しかし、上位種は、下位種よりも数が少ない、とのこと。
そして、上位種は、下位種を取りまとめる存在であることが殆どだとか。
ならば、上位種を下僕にすれば、下位種もついてくるということ。
ふむ、なるほど。
グラース。
フェンリル族の族長の一人娘だ。
俺の可愛い下僕で愛人でもある。
まずは、ジョージアの街から馬車で数週間程、ガリア皇国の外にある、フェンリル族の集落から攻めよう。
飛行機に乗り込み一日。
目的地に到着した。
ふむ、集落は平原の中にある。柵のようなもので仕切られた村に、屋根と壁があるだけの建物のようなものが建ち並ぶ。
規模は大きく、少なくとも数万人はいる。集落と言うよりは小さな街だ。
近いのは、インディアンだろうか?
そんなイメージだ。
街には、特に止められることもなく入れた。
「グラース様!」
「おかえりなさい、グラースお嬢様!」
「おう!」
グラースがいたからだろう。
街は、殆どがフェンリル族のようだ。青い毛色が目に優しくない。
「こっちが俺の……、族長の家だ」
案内された先の大きな建物らしきものに入る。
「ん?おお、グラース!帰ったか!」
青髪を短めに刈り揃えた、厳しい顔をした、髭面の男が、肉球のある手を挙げる。
グラースに一目散に駆け寄った男は。
「キモい!」
「ぐがぁ?!」
グラースに蹴り飛ばされる。
「帰ったぜ、親父」
「お、おかえり、グラース、げ、げふっ」
俺がゴミを見るかのような目を向けると。
「人間、なんだその目は!この俺に文句でもかぺっぎゃ」
偉そうに指をさしてきたが、グラースが殴る。
「俺のご主人様に対して頭が高えぞ馬鹿親父!!!」
「グ、グラース!お、お前、こいつが婿か?!」
「ご主人様に向かってこいつとは何だァ!!!」
「ぐあぁ!!!」
「それで?貴様が俺のグラースの婿か?面構えは悪くねえが、この部族の長になる男は強くなきゃ駄目だ!!」
「ほう、表に出ろ。半殺しだ。そうしたら、この部族の支配権を寄越せ」
「言ったな、ガキめ!やってみせろ!!」
と言う訳で、原始的な殴り合いで決着をつけることになった。
まあ、蛮族だな。
ならば、力を見せるのが一番だろう。
見物人が多く集まる中、俺はフロワと名乗る族長の男と向き合う。
ここで銃を使っても、何が起きたか理解されないだろうな。
分かりやすく、殴るか。
「おおお!!!」
丸太のような太腕を振るうフロワ。
力はかなりのものだが、おつむは駄目だな!!
「ふっ」
「何?!」
受け流し……。
この世界での殴り合いといえば、技術もクソもない足を止めての拳のぶつけ合いに過ぎない。
確かに、体格が良いこの男は、単なる殴り合いならば強いのだろう。
「だがこれはどうだ?」
俺はシャープにジャブを数発放つ。
「うがぁ?!な、何だ?!速え!!パンチがまるで見えねえ!!」
プロボクサーのジャブで時速40kmほど。現役の頃の俺もそのくらいの速さの拳は打てた。強化された身体能力の今の俺は?
時速100kmを超える、人どころか大抵の生物には見切れない速度の拳。
この男に捉え切れるはずがないな。
「ク、クソがあああ!!!」
受け流し、ウェービング、スウェーバック。
「なんだそのおかしな動きはぁぁぁ?!!!」
「ほら、打つぞ」
「ぐうう!!」
ワンツー、ジャブ、フック、ストレート。
「ぐわあああ!!!」
吹っ飛ぶフロワ。
「KO、と。まだやるか?」
「ぐ、うう、まだ終わらねえぞ!!!」
「なら来い」
「おおおおお!!!」
相変わらず、馬鹿正直で、力任せのパンチ。
力が余計に入って、むしろ、最初より弱くなってるな、これは。
「ボディブローだ」
「おごっ?!!」
そして下がった頭にアッパー。
「があっ!!!」
「さあ、まだやるか?」
「ま、まだだぁぁぁ!!!」
ほう、根性だけは一丁前だな。
「だが、雑魚に付き合うのも飽きたな」
「喰らえええええ!!!!」
見え見えの軌道のテレフォンパンチに、動きを合わせる。
「ライトクロスカウンター……」
「が、はっ……」
流石に根性も品切れか。
「「「「………………」」」」
「ん、ああ?諸君らの族長様を半殺しにしてしまって済まないな。あまりにも弱過ぎたもので」
「「「「うおおおおおおおおお!!!!」」」」
「………………あ"ぁ?」
「凄え!!凄えぞ!!族長が手も足も出なかった!!!」
「グラースお嬢様の婿殿らしい!」
「これでフェンリル族も安泰だ!!」
「最強の戦士だ!!」
「万歳!!ばんざーーーい!!!」
「……おい、グラース」
「ん?ああ、フェンリル族では、強い戦士と優秀な狩人は偉いんだ」
成る程な。
「蛮族だな」
蛮族共には付き合いきれないな。
俺のような文化人はなァ。
さて?
穏便にこの部族の支配権を手にした訳だが。
「いやあ、参ったぜ!認める!あんたがここの新しい長だ!」
フロワが言う。
「いや、長ではない」
「む?継がないのか?ならばせめて戦士長にはなってくれ。長の座はグラースに……」
「違う。俺はここを国にする。よって、俺は王だ」
「王……!ガハハ、そりゃあいい!国を作るたぁ、大きく出たな!!」
「早速動くぞ。まずは、各地に伝令を出せ。この近場の集落の、ありったけの狼系獣人に、この国に来い、飯と住むところがあると伝えろ」
「あぁ?そんなもんねえよ。うちにそんな余裕は……」
「当てはある。兎に角集めろ」
「わ、分かった。それで?」
「次は兵士の訓練だ。これは……、グラース!任せられるか?」
「おう!任せてくれ、ご主人様!」
グラース達には一年近く訓練をした。教えることも出来なくはないだろう。
さあ、改革を始めようか。
映画アベンジャーズの俳優とかが大麻を肯定する画像をどっかで見た気が。あれは本物なのだろうか。