やはりこういうのは趣味でやるのが一番だなあ。
凄まじい、姿だ。
月のない夜闇のように暗い黒肌に、発光する赤黒い血管が走る。
血管からは間欠泉のように薄く炎が吹き出でて、ところどころに蛇の鱗のようなものがある。
そして、背中を覆う巨大な蝙蝠の翅に、太腿、腿、肩、腕、腰と、様々な箇所から翅が生えて……。
血のように赤く染まった髪と、ギラギラと輝く、朱色の瞳……。
悍ましき『クリーチャー』……。
遺伝子改変による生物兵器。
『G.R.W』となった蓮華が、そこにいた……。
『G.R.W』……。
大人気ホラーシューティングゾンビゲーム、『ダークデイズオブザ・デッド』に登場する、生物兵器の総称だ。
かいつまんで説明すると、「ゾンビウイルスを利用して、人類を進化させようぜ!」みたいな、しょーもないベッタベタな危険思想を持ったマッドサイエンティストが作ったウイルスを巡って、色んな人達が七転八倒する話だな。
で、作中で出てくるゾンビウイルスに感染した者は、『G.R.W』の一種とされる訳だ。
そう、ゾンビウイルス。
ダークデイズオブザ・デッドのマッドサイエンティスト達は、ゾンビウイルスで人類を進化させたい訳で。
となると、ゾンビウイルスで、知性のないゾンビになるのは失敗作。
新たなる人類は、既存の人類より強く美しく、そして賢くなきゃならないから……。
であれば。
成功作は?
ダークデイズオブザ・デッドシリーズにおける、『G.R.W』の成功作とは?
それは、ゾンビウイルスに適応した、優れた遺伝子を持つ者である。
優生思想、選民思想、どれも敵役とするにはばっちりな悪だな。
ああ、なんだ、まあ、つまり。
ゾンビウイルスに感染しても、理性と知性を失わない者は、マッドサイエンティスト達の理想なのだ。
理想の……、新たなる人類。
新たなる支配者。
『ネオ・ヒューマン』なのである……。
「さて……、どうだ、蓮華?」
蓮華は、最後に賭けをした訳だ。
ネオ・ヒューマンに転生して再生するか……、理性も知性もない化け物に成り下がって死ぬか。
ああ、面白い。
これでもし、蓮華が化け物に堕ちていたならば、俺が責任を持ってぶち殺すんだが……。
俺が思うに、まあ。
『ゥ、オオオッ、オオオオオオオオオッ!!!!!!!』
「蓮華」
『———ッハァ!!!!最高だなぁオイ!三徹の疲れ!腰の痛み!肩の重さ!全部ぶっ飛びやがった!!!人体変異様々だぜェーッ!!!!』
この女は、『最後に賭けをする』みたいな、湿っぽいことはやらんリアリストだ。
さて、無事に生還すると同時に人間を辞めた蓮華だが。
「ったくよぉ!ゴリラお前はよぉ!この僕が!この!天才の!美少女の!僕が!勝算もないのに最後の思い出がーみたいな湿っぽい賭け事をする訳がないだろぉ?!!!」
「おう、そうだな」
「やっぱり、脳筋のお前には僕が一緒にいてやらないと駄目だな!……な?」
「いや別に」
「えっ……」
「え?」
「い、いや、僕、結構役立ってると思うんだけど……。え?嘘だよな?要らない子じゃないよな?」
「好きなら好きですってちゃんと言った方がポイント高いぞ」
「うー!分かったよ!……こっちの世界に来てから、お前にたくさん迷惑かけた。でも、お前は、ちゃんと面倒見てくれた!だから、その……、なんか……、好きに、なっちゃってて……」
「うんうん、それでそれで?」
「あ、あとは……、もうっ!察しろよ!お前分かってんだろ?!」
「いやぁ、蓮華はおもしれー女だなあ」
あの後、変異した肉体を操作して、再び人の姿に戻った蓮華。
二人でいちゃついていると……。
「で、どう言うことなんだ?」
と、クラスメイト達が訊ねてきた。
うん、うーん、うん。
よし、正直に話しておこうか。
「まず、俺の加護。実は、『ゾンビウイルス』を操ることだ」
「「「「えぇ……?」」」」
「で、僕の『観測者』は、数字限定であらゆるものが見れる。知りたいことは全部ASCⅡ……あー、数字を文字に変換するプログラミングの技法で表示しているんだよ」
「「「「おー、すげー」」」」
「今回、ゾンビウイルスに適合できたのも、あらかじめ『観測者』の力で分かっていたから、薬とか色々飲んで身体を調整しておいた為だな」
「「「「なるほどー!」」」」
と、軽く説明した。
「まあ、確かに、ゾンビウイルスの加護とは言えないよなあ」
「そうよね、これは黙ってなきゃ駄目よ」
「そ、そうですな!大恩ある阿字殿の立場を貶めるようなこと、拙者はやりませんぞ!」
「阿字君は、僕達の就職の手伝い以外にも色々やってくれたし……。吉祥寺さんも、知識人から話を聞き出して、情報収集してくれてたしね」
「裏切りはー駄目だよー!私はー、肇ちゃんの、味方ー!」
クラスメイト達は概ねこんな感じだった。
皆、俺の能力について、蓮華の変異について、全て黙っていてくれるようだ。
俺は、蓮華の肩を抱いてやる。
「じゃあ……、帰るか」
「「「「おーっ!!!」」」」
「ま、待てよ!」
あ、鈴木!
クラスメイト全員が死ぬ気で戦って怪我して、泥まみれになっていたのに、一人だけ隠れていた鈴木じゃないか!
クラスメイト全員が、厳しい目を向ける。
「みんな、そいつに騙されてるだろ!きっと、なろう小説でよく見る、クラスメイトの中に敵が混じってるやつだ!」
なろう、小説?
何言ってんだこいつ……?
「ゾンビウイルスだろ?!僕達もいずれ、蓮華みたいな化け物にされるぞ!」
あぇーえあ?
何言ってんの?
その話もう終わったでしょ。
俺と蓮華が今まで積み上げてきた信頼で、危険な能力を持っていても、みんな黙っておいてくれると。そう言う話に今なったところだろ。
あほくさ。
相手してらんねーわ。
帰ろ帰ろ。
「不良共!そいつを倒せよ!敵だぞ?!ゾンビウイルスなんて、世界の敵だろ!!!」
お?
硬派系不良の鹿角と……。
女好きの馬鹿不良の槍崎が……。
「何……ぷぇぐぇ?!!!」
思いっきり、鈴木をぶん殴った!
「俺ァ、お前みたいな恩知らずが一番嫌いだ。俺達はそれぞれが、働いて稼いで、その金を原資に色々やってんだ。一番稼いでる二人が阿字と吉祥寺で、お前も、そのおかげで生きられてる。なのに、その態度は何だ?舐めてんのか?」
鹿角は、血に塗れた拳をバキボキと鳴らす。
こいつは義理堅い男だ、鈴木のような薄っぺらい奴は大嫌いだろう。
ああ、そして、こいつの言う通りに、最近はクラスメイト全員が稼いだ金の一部を「クラス基金」として集めて、火の国への借金返済や生活費などに充てているぞ。
この鈴木も、全く稼いでないけど、一応はクラスメイトのよしみということで、クラス基金の恩恵を受けている。
本人はどうやら、知らなかったようだが。
「お前みたいなクズが、このオレ様最大のライバルである阿字を貶すんじゃねー!第一、ぶっ飛ばしたいならお前が自分でやれ!喧嘩すんなら自分の力を使え!!!」
ボロボロの槍崎は、執拗に鈴木に蹴りを入れる。
こいつは、プライドが高いし馬鹿だが、誇り高く、外道ではない。
悪いことは平気でやるカスだが、曲がったことはやらないってことだ。
本当に馬鹿でアホでカスだが、最後の一線だけは越えない。そこはマジで信用できる。
「ぷ、ギイッ!?あぐぅう……!」
痛みでのたうち回る鈴木を放置して、俺達は帰還した……。
かと言って労働がしたい訳ではないぞキエエーッ!!!!
それはそれとしてサイバーパンクだ。
軽率に女の子が殺し合う末法世界ィ〜!!!