あらかじめ言っておくと20話くらいしかない。
フォールアウト4で例えれば、ダイアモンドシティに辿り着くまでくらいです。
1話 鉄人、鉄人、何処へ行く
「五代君、本当に正社員にならなくて良いのかい?」
バイト先の上司の村上さんがそう言った。
「五代君はかなり仕事もできるし、英語だけじゃなくてラテン語も行けるし、渡米経験まであるんでしょ?うちで働きなよ!」
厚意はありがたいんだが……。
「すいません、俺は……」
「……昔のこと、まだ引きずってるのかい?」
「いや、それはもう良いんです。復讐もできましたから。でも、なんかもう……、疲れちゃって」
「そっか……」
「ここで、腰が曲がった老人になるまでずっとバイトさせてもらいますよ」
「……分かった。でも、助かってるのは本当なんだ。時給の方、百円上げておいたからね」
「ありがとうございます、村上さん」
五代。
五代迫亜。
それが俺の名だ。
今は四十歳で独身、恋人もいない。
東京で家賃五万というボロアパートに住んでいて、この歳にしてフリーターをやっている惨めなおっさん。
親も既になく、親戚も兄弟もおらず、孤独に生きている。
とは言え、健康には気を遣っているので、体調面は万全だし、顔も良いはずだ。……職業を聞くと女は逃げていくが。ナンパはかなりされるんだがなぁ。
趣味は……、最大の趣味にして仕事だった『恐竜の研究』はもうやりたくない。
だが、好きと言う気持ちはなくならないもので、今は恐竜に関係するソーシャルゲームというものをやっている。
その名も、『ジュラ娘!ダイナミックダイナソー!』である。
恐竜が擬人化されたジュラ娘というスーパーパワーを持つ女の子達が、謎の侵略生命体と戦うという内容のタワーディフェンスゲームだ。
かなりの大ヒットで、もう五年はサービスが続いており、漫画化やアニメ化も果たしている。
俺はこのゲームをやり込んでいるのだ。
それと、健康維持のためにやるスポーツと、中学生の頃から続けているアコギくらいか。
幸い、仕事はアルバイトなので、時間的な余裕は多い。
収入の方は……、まあ、海外の本の和訳のバイトと、アコギ演奏の動画配信で、合計して二十五万と少しくらいか。新卒よりちょっと上くらいの手取りだな。
とは言え、本来なら俺はもっと稼げていたはずだし、同世代と比べれば金なんて全然ない。
……昔の話はもういいか。
今はただ、ソシャゲをやるだけの中年おじさんだ。
『先生!今日は何処に行きましょうか?』
画面の中の女の子が声を上げる。
ソーシャルゲーム版のメインキャラ、プレイヤーたる『先生』の助手を名乗る少女。
スミロドンの『スミ』だ。
スミロドンといえば、新世代第四期更新世の南北アメリカ大陸に生息していたというネコ科の大型捕食獣だな!
サーベルタイガーの一種と言えば伝わるだろうか?
大きく発達した犬歯と、力強い前肢から、大型の獣を捕食していたと言われている。
……だが、この時期の地球は寒冷化が進み、大型草食獣が減少しつつあった。え?何でか?第四期の大量絶滅の話する?
まあそれはそれとして、捕食対象の減少と、他にもっと性能が高い、いや性能が高いとか一概には言えないけど、当時の環境ではより優秀だった他の捕食者に負けて、絶滅してる訳だ。
そう、ジュラ娘は、恐竜以外にも様々な古生物が登場するんだ。
とは言え、このゲームには、シーラカンスやヤツメウナギなども出る。基本的には古生物を中心にしたゲームってことだ。
で……、スミロドンね。
面白いよね、絶滅の理由とか考察すると夜も眠れない。
収斂進化の話とかする?面白いよね、スミロドン以外にも、当時は大きな犬歯を持った捕食獣が色々いたんだよ。マカイロドゥス亜科って言ってね……。
まあ、それは良いや。
で、これ。
このゲームの世界の『スミ』は、このような設定を与えられている。
スミロドン
★★★★(スーパーレア)
栗毛に獣耳の美少女。
十代半ばほどの女性のような姿。
ホワイトのシャツにブラウンのスカート、赤いスカーフを巻いている。
武器に機能的なサバイバルナイフを二本、腰の後ろに巻いている。
『切断』の能力を持つ。
おバカだが誰よりも心優しい。
お魚とお昼寝が好き。
んー、まあ普通に、可愛いよね。
別にオタクとかではなかったんだが、可愛くてすっかりハマっちゃったよおじさん。
今じゃ同人誌とかも買うようになったんだよね。
性格も、現実の女みたいにアレな部分がなくてね、可愛くてね……。
うんまあ、俺も交際していた女は昔は何人かいたからね。その結果まあ、ね?うん、まあ……、ね?
アニメとかゲームの女の子は良いなあ!本物の女のドロドロした見たくない部分がないから!!!
設定資料集も買っちゃってさあ、面白いんだよこれが。
制作スタッフは絶対古生物オタクだね、間違いない。
今日も俺は、画面の中のスミをつついて過ごすのであった……。
そんなある日のことである。
朝起きたら、いきなり謎の白い空間にいたのだ。
「えっなにこれ」
『控えなさい、人間!』
あ……?な、なんか、クソみたいな鳥がいる。
人間に対して粘着荒らししてそうな……。
不老不死を与えて苦しむ人を見て、「だから言ったでしょう!ホーッホッホッ!」って嘲笑ってそうな……。
そんなクソ鳥のようなコズミック害獣のようなアレがいた。
『五代迫亜!貴方は、私怨にて古生物学界をめちゃくちゃにしましたね?!』
はぁ〜〜〜????
「私怨だぁ?!あいつらが悪いんじゃねえか!!!俺は画期的な発見をしたんだぞ!歴史に残る発見だ!それを学会の奴らが……」
『お黙りなさい!貴方のせいで古生物学界はガタガタ!自殺者も続出!そのせいで私までもが火消しに対応することになったのですよ?!』
「知らねえよ?!それこそテメェの私怨だろうが?!」
『貴方のような悪人には罰を与えねばなりません!』
「はぁ?!」
『そう……、全てが滅びつつある、砂漠の死の世界!貴方はそこで苦しみ続けるのです!オーッホッホッホッホッホ!!!!』
「ふ、ふざけんなこの野郎!!!うあっ!ああああーーーっ!!!」
連休後、出社したのだが、心の底から「俺って労働に向いてないな」と痛感した。
別に辛い仕事でもないのに、たった一日出社するだけで心身共にボロボロ。向いてないわマジで。
働かないと落ち着かない、働かないと暇だ、みたいな人達がいるらしいが、同じ人間とは思えないぜ!