でもほんへがあるしな。
ここは地球で言うトルコ辺りの森。
この森は、妖精や植物人、虫人の縄張りらしい。
うむ、いただきだ。
縄張りの森に入る、と。
「おっと」
ドリアード、いや、アルラウネってやつか?
植物人が蔦を伸ばして腕を縛ってきた。
「人間さん、ここは貴方の来るべき場所じゃないわよ〜」
俺は片手でボウイナイフを腰の後ろから抜き放ち、蔦を斬った。
「黙れよ」
そして、アルラウネの鳩尾に前蹴り。
「おふっ……?!!」
ほう、急所は同じなのか?
下半身は花のようになっているが……?
解剖してみたいところだな。
「い、ぃたいぃ〜……!!」
のたうち回るアルラウネの髪を掴んで聞く。
「ここの支配者は誰だ」
と。
「ぐ、う、ヘ、ヘラクレスビートル族のスカラベオ様です……」
ヘラクレスビートル……、カブトムシか?
と、考えていると。
「フィオーレを、放せ」
「おお」
手首の横から肘先にかけて刃が生えている黒髪の女が、木の上から奇襲を仕掛けてきた。
「ファルチェ!!」
「ん、助けに来た」
「駄目よ、あの人間、強いわ。逆らっちゃ駄目」
「私も強い」
そう言って、背中の虫の羽を広げつつ、木々を蹴って不規則に移動するカマキリ女。
「ほお、面白いな」
だがまあ、銃弾よりは遅いからな。
普通に撃ち落とす。
「がぁあっ……?!!」
「例によってゴム弾だ、死にはしない」
「な、にを、したの」
「こいつだ」
手元のグロックを見せてやる。
「なに、それ」
「やはりこの世界にはまだないのか。銃だよ、人間の武器だ」
「…….そう。早く、殺せば?」
ギラギラした目で言っても説得力がないなァ?
隙を見て殺す気満々じゃねぇかよ。
「おい、誤解するなよ?俺はここを真っ当な手段で治めてやる、と言っているんだ」
「どういうこと?」
「お前らの中で一番偉い奴と交渉して、俺がお前らのボスになるんだよ」
「そんなことして、どうするの」
「お前達を差別する大っ嫌いな人間共と戦争するんだよ!楽しそうだろ?」
「……楽しく、ない」
「ほう?だが良いのか?お前らがコソコソ隠れてぼーっとしてると、いずれ人間は攻めてくるぞ?ん?」
「……その時は、私が倒す」
はっ。
「現に倒せてねえよなあ?」
「っ、そ、その、じゅうってやつがなければ私が勝てる!」
「じゃあ試してみろ」
銃を放り投げる。
実際、武器庫から一秒以下で同じ銃を取り出せるから意味はないが。
まあ、素手で相手してやるってことだ。
「言われ、なくても!」
手首の刃を伸ばして首を狩りにくる。正確な狙いだ、故に避けやすい。
「当たら、ない?!」
あれ程の機動性を生み出す脚力を持つ脚での蹴りもなく、牽制のパンチもない。
対人戦に慣れていないようだな。
さっきから、刃での一撃による一撃離脱戦法を繰り返している。
タイミングは読めたな。
今。
「あ、が……?!」
踏み込んでくるのに合わせて殴った。
なんだろうか、この世界の人型生物はカウンターに弱いな。
基本的に、人間には反応できない動きができるからと言って、戦闘技術が未熟なように思える。
これでは自分以上の性能を持つ敵とは戦えないし、ラッキーパンチに負ける可能性もある。
「負、けた?わた、しが?マンティス族一番の狩人である、私が……?」
「狩人としては及第点だが、兵士としてはまだまだだな。戦いってもんを叩き込んでやるから楽しみに待ってろ」
「………………」
「どうした?」
「お前の、子供、欲しい」
「……あ"ぁ?」
「強い子供、作る」
あー……。
そうだったな。
モンスター娘はこんな感じだよな、うん。
「ガキはそのうち孕ませてやるから、とっととそのヘラクレスビートル族のところまで案内しろ」
「……殺さない?」
「殺さない、大丈夫だ」
「分かった。あとで交尾」
「してやる、してやるから案内しろ」
「俺がスカラベオだ、何の用だ人間」
「おぉ……」
相変わらず面白えな、この世界の人外は。
30センチほどの角が頭に二本、外骨格のような甲殻が腕、肩、脛などに見られる。一見、ボディーアーマーを装着した人間のようなシルエットだが、なんとなくSF映画のサイボーグのようにも見える無機質さがある。
そしてかなり体格が良いな。ボディビルダーなら、歴史に名前を残せる程にデカい筋肉だ。身長も2m50cm……、鬼族やミノタウルス族に匹敵するな。
服装はアステカなどのメソアメリカのような……、原住民風だ。頭の角に布が巻いてある。武器もマカナ……、黒曜石のような石を埋め込んだ木剣だ。
「支配権を寄越せ」
「何だと?」
「この縄張りは俺が支配する」
「俺達に出て行けと言うのか?!」
「違うな、お前達ごと支配する」
「む……」
鋭い眼光を……、いや、そもそも複眼だ。眼光なんざ分からねえな。だがまあ、雰囲気は鋭くなったな。
「俺は近くの国、アルカディアの王だ。インフラ整備や物資の提供の代わりに、有事の際における戦力の動員、平常時では商取引などを行う予定だ」
「ふむ……、それ程無理を言っている訳ではないな。人間のことだから、森を寄越せと言うのかと思ったぞ」
「確かに俺は人間だが、そのうち魔人化する予定だ。ドラゴン族かデーモン族になろうと思っている。それに、愛人も全員モンスター娘だ」
「成る程、親モンスター娘派か……。物資の提供とは、何をくれるのだ?」
「この森では手に入らない食料や酒、鉄や石材、陶器、布、宝石なんてどうだ?」
「ふむ、確かに、その辺りのものは俺達も欲しいな。オーベロン、アルベロ、どう思う?」
と、妖精にしか見えない男と、木?トレントという奴か?に見える女に話しかけるスカラベオ。
にしてもオーベロン?シェイクスピアか?
「僕は良いと思うよ。アルカディアって、この前までユニコーン族が支配していた国だろ?あそこは、支配者が変わってからとても豊かになったと聞くからね」
体長15cm程のオーベロンと呼ばれた妖精が言う。
「私は心配だわ〜……。森を壊したりとか〜、酷いことをされちゃうかも〜」
下半身が木の根のようになった木人間、アルベロと呼ばれた女がそう返す。
「森を壊すか?」
「いや、環境保護の為にも森林伐採は控え、植林を行う」
「良いかしら、人間さん〜?森は空気から穢れを吸い取るのよ〜?それを沢山切ってしまったら、自分の首を絞めることになるわよ〜?」
「二酸化炭素のことを言っているのか?知っている。しかし、知的生命体の発展の為には、環境汚染は付き物だろう。上手く調整して最小限に抑えると言っているんだ」
「あらあら〜?もしかして、穢れについて理解しているのかしら〜?」
「ああ。しかし、俺の予想では、そこまで穢れとやらは広がらないと考えているが……。まあ、しかし、放っておけば確実に、人間は世界中に穢れを撒き散らすぞ?」
「そうねえ、人間なんてちょっと前まではただのお猿さんだったのに、今じゃ火遊びをしちゃうようになったものね〜」
ふむ、木人間故に、環境汚染について理解しているのか。
「それで、いんふら、とは?」
「住むところであったり、道を整備したり、治水やエネルギーを……、あー、つまり、より住みやすい環境に整えるということだ」
「成る程……」
試しに、ということで、空き地に城や家屋を建ててやった。
「おお!これは良いな!」
「このまま、道を整備し、上下水道を作る。そして、いずれは電気設備を設置しよう。もちろん、そちらの言う通りに、発電所や工場などの工業施設は森の外に建てよう」
「ふむ……!だが、最後に一つ」
「何だ?」
「上に立つ者は強くなければならない」
はぁ、またか。
「かかって来いデカブツ、すぐに終わらせるぞ」
「その意気やよし!行くぞ!!」
まあ、馬鹿正直に剣で斬りかかってくるから対処は楽だな。
投げ飛ばしてゴム弾を五、六発撃ち込んでやった。
「ぐおおぉ、よ、よし、お前の勝ちだ!我々を支配する権利を与える!」
「賢明だな」
まあ、やることは今までと変わらない。
完全蛮族の植物人、虫人、妖精に対して教育を施し、インフラを整備し、国として成り立たせるだけだ。
植物人の殆どは食事ではなく、肥料と水、そして日光を欲した、虫人、妖精共に甘い菓子類を好んだなどの特徴があった。
「ここに果樹園を作る」
特産品は果物と蜂蜜になるだろう。
いや、ハニービー族の生成する蜂蜜は異常に美味いのだ。
調べたところ、栄養価も信じられないほどに高かった。
他にも、妖精族には、生物を活性化させる力があるそうだ。
それによって育てた作物や果物は、非常に高い栄養価と、優れた味になることも判明。
妖精王オーベロンにやらせたところ黄金の林檎ができた。それを食べたら若返った。どうなっていやがる。
早急にマリーを呼んで研究開始。どうやら、妖精族の魔力には、生命体を活性化させる要素があるらしい。
高濃度の活性エネルギーが込められた果実を口にすれば若返るのもおかしくないとのこと。何故金色になるのかは要研究。
訳分からん。
国名はヘスペリスと命名。レムリア、アルカディア、エデン、麗国、ジパングと貿易を開始。
……これで、人間の住むアメリカ大陸以外での貿易網ができた訳だ。
さて、残るは魔の大陸と呼ばれ、魔王がいるとされるオーストラリア大陸のみだ。
……その前に、一旦ジョージアの街に戻るか。
報告を聞いたら、魔大陸に行くぞ。
『蛮族改革編』終了。
次回から、『銃の勇者ハヅキ編』始まります。