「えっあ!あっ、あぁ……、えっあっ、その、ドーマ様……とお呼びしても?」
ウォルコット卿、爵位は男爵。
貴族とは思えないくらいにめちゃくちゃ低姿勢な、現代社会人のような雰囲気の男だ。
「いえ、ウォルコット卿。同じ爵位なのですから、もっと気安く接していただいて結構ですよ。そう、例えば友人のようにね」
「は、ははは……、善処します。でっ、ではその、ドーマ……男爵殿?まずは、雑多な手続きのうち、本人の署名が不要な部分はこちらで処理しますので、男爵殿はまず『家名』をお考えになって欲しいと思います……」
家名。
苗字か。
「んん、じゃあ、俺がドーマだし、蘆屋で」
召喚士だからな。陰陽師みたいなもんだろ。
「はい、『アッシャー』と……。良い名前かと思いますよ。確かアッシャーとは、古代に滅んだという豊かな国『アッシュランド』の出身であることを示す言葉でしたよね?」
え……?何それ知らん……、怖……。
まあいいや。
問題はないのでそれで。
「それと紋章の登録が必要なのですが……、紋章には色々と決まり事がありまして、モチーフだけ教えていただけますとこちらで素案を幾つかデザインするので……」
ふむ。
「いや、それは俺が書く」
スケッチが趣味なんでね。
逃亡生活の最中にできた暇つぶしは、紙と鉛筆があればできるスケッチなどの絵描き。それと読書くらいのものだった。
だから、絵描きの腕にはそこそこ自信があるぞ。
「使ってはならないデザインは?」
「ええと、まずは金色の獅子は王家のものなので禁止になります。鷲獅子と鷹、龍なども避けるべきでしょう。紋章の枠は丸型は避けて、六角も推奨できません。また……」
んー、めんどくせーな。
「じゃあこれでいい?」
俺は、蘆屋家の家紋である九字紋を……と思ったが、単なる九本の線では流石に却下されそうなので、なんとなくで『蝶』を描いてみせた。
羽に菱形の九字紋が入った、和風の蝶の家紋だ。
「これは……、蝶、ですか?」
「ああ、駄目かな?」
「いえ、少々斬新ではありますが……、悪いものとは思われないでしょう」
そう言って胸を撫で下ろしたウォルコット卿。
一時間ほど、ウォルコット卿に言われた通りに書類に署名をし、授爵式を略式で終わらせ、俺は屋敷へと帰宅した……。
そしてまあ普通に怒られた。
大体、言われたことはこれ。
「心配させないでください!」
うん、俺が悪いよね。
とりあえず全員と仲直りっクスしておいた。
「さて、貴族の身分も手に入れたことだし、次は金でも稼ぐか」
何故こんなことを突然言い始めたのか?
そう……、金がもうないのである!
屋敷を買って、使用人の奴隷を買って、嫁の出産のための費用もあってーで、もうすっからかんよ。
またなんか適当なモンスターを仕留めるかなー、なんて思ったが、ちょっと待てよ?
「スティーリア」
「はい?」
「金を稼ぐぞ」
「ええと……?」
「お前の親父に稼がせてやる、と言ってんだよ」
「……なるほど」
スティーリアの父親の商会に、召喚で創り出した商品を卸売しまくればよくね?
現地文化の混乱とかマジでどうでもいいし、やっちゃおうぜ!
俺は、瞳が$マークになっているスティーリアを連れて、ウルキア商会へと向かった……。
……この世界の通貨単位、$じゃなくね?
「これはこれは!婿殿ではないか!いやあ待たせて悪かったね!……おい何をやっている?!私の最愛の娘と婿殿が来たんだぞ!ワインを持って来なさい!ピオニア産の最高級のだぞ!!!」
わあ、先日の塩対応から凄い速さの手のひら返し!
目が$マークになってるもん。やっぱこのおっさん、スティーリアの父親だわ。
スティーリアもそうだが、いっそここまで薄汚いと清々しいというものだ。
逆に付き合いやすいよね、こういうタイプの人。ちゃんと利益の分配さえしておけば、その分しっかり働くもん。
「こんにちはお義父さんごきげんいかがですか?今日は実は、男爵になったんで俺の名前『アッシャー男爵』のブランドで異世界の製品を売り捌いて欲しいんですよね。その際に利益を俺にももらえると助かるなーって」
「ああ、ああ、もちろんだとも!婿殿からの商談を断るようなことはせんとも!……で?儲け話……げふんげふん、商談について聞かせてくれるかな?」
俺は召喚スキルを使って、色々な製品を出す。
ウィスキーなどの蒸留酒、チョコレートや高級クッキー、ジャムなどの日持ちする甘味、ミックススパイス、高級化粧品、そして宝飾品。
どれもが、この世界で売るとするならば単価のバカ高い高級品だ。
「こちらは試供品です。一通り試して値段を決めて欲しい。余った分はご家族で消費してしまって結構。……但し、全てにしっかり値段をつけておいてくださいよ?これからバカ売れするんで」
「ふむ?何か策が?」
「ええ、面白い策がありましてね。……っと、試す時は奥方や息子さんも呼んで、多くの人の意見を聞いた方が良いかと」
「もちろん、そうしよう」
「スティーリアも、今は孕んでないから、酒を飲むと良い。久しぶりだろ?」
「はい、では試させていただきます」
なんかアレだよね、幼少期からじっくりやる転生ものを書きたいよね。
最推しなろう小説の一つ、ヘンダーソン氏に福音をのテンションで、主人公の成長をじっくり描くタイプのやつ。
でも書くとして今パッと頭に思い浮かんだオープニングの選択肢が「クソ親殺して寒村から脱走」か「政治的問題がある貴族の隠し子で家出」かでもうダメ。
んー、ちょっと考える。考えた。
伯爵家くらいのまあそこそこの貴族の隠し子で、伯爵様の正妻ではなく庶民だが本当に愛している女との間に生まれた子供が主人公。
女は、身重の身体で伯爵領のお膝元からちょっと離れた良い感じの立地の街で主人公を出産し、伯爵様からもらった資金で治癒士(薬草医みたいなの)をやって暮らしていた。しかし、誰の子なのか頑なに語らない明らかな隠し子を連れた寡婦と、その子供に、街の人々が優しくしてくれる訳はなかった。
女、主人公の母は、治癒士として朝から晩まで働いて、薬草摘みの為に危険な街の外に出て作業をしていた。
主人公は、周りの子供達に露骨に虐められる(虐められるとは言ってない)。
そんなある日、主人公が六歳になろうかと言う時、母親がついに街の外のモンスターに襲われて死亡。
その知らせを聞いた伯爵様が手を回し、自分の息がかかったお膝元の街の孤児院に入れようとしてくる。
主人公は、魔法の探求などをしていてそこそこ強いがまあまだ幼児。普通に捕まって孤児院にぶち込まれる。
孤児院は、領主である伯爵様が、伯爵家に忠実な裏のない部下を作るための施設でもあった。まあそこまで露骨じゃないけど、貴族家はどこもこういうことする。むしろ他所から攫うとかじゃなくて自分で育ててる辺り、伯爵様は貴族としてはマシな方。
孤児院で洗脳教育に逆らいながら、街のマフィアの戦いに巻き込まれたり、冒険者ギルドよりヤバい仕事をやる傭兵ギルドにバイトしに行ったりする感じ?
ダメだ思い浮かばん。