俺のスペックがあまりにも高いので困ったらしく、取り敢えず最高の人材を用意するとのこと。
植民地であるメリカ大陸で最高の人材を集めるから待ってほしい、少なくとも四、五ヶ月はかかる、とのこと。
好都合だ。
五カ月もあればこの国の裏社会を支配できる。
スラム街に入る。
住民達は、明らかに強そうな俺には手出ししてこないが、隙あらば金や持ち物を盗もうと虎視眈々と狙っているように見える。
まあ、俺から奪うならその時点で死を覚悟してもらわにゃならんが……。
流石は野良犬か?
嗅覚は狂っていないようだな。
迂闊に手出しはしてこないようだ。
さて。
「おい、お前。この辺りの元締めは誰だ」
「………………」
俺は目の前のチンピラの鼻っ柱を殴りつける。思い切りやると人間の頭なんて柘榴のように破裂してしまうから、手加減は欠かせない。
「もう一度聞く、元締めは?」
「ひ、ひぃっ……!も、元締めは、フルボの兄貴だ!ここら一帯のはぐれ者の元締めなんだ!」
「どこにいる?」
「あ、あんた、兄貴に何をする気だ?」
気丈に睨みつけてくるチンピラ。
ほう、フルボとやらは慕われているようだな。
「さあな、素直に従うなら死ぬことはないだろうが……、抵抗するならば容赦はしねぇぞ」
「しゃ、喋らねえぞ、喋らねえぞ俺は!」
ふむ。
「では、一本ずつ指を折っていく。好きなタイミングで話せ」
「ひぃっ……!!」
さて、折るか。
「……まあまあ、兄さん、その辺にしなよ」
気配を消して近付いてきた男の声。消しきれていないその気配には気付いていたが……、振り向く。
「そいつも悪気があってフルボの兄貴の居場所を吐かない訳じゃないんだよ、な?放してやってくれ」
俺の髪よりも更に癖の強い長髪で、片目が隠れるほどの髪の量。190cmを超える俺と並ぶくらいに高い身長は、猫背によって目立たない。手足が長く、指も長い。目付きは鋭いが、それを隠すために薄ら笑いを浮かべている。それと口髭。
服は、シンプルな作りだがしっかりした黒のコートの下に鎖帷子を着込んでいる。猫背のせいで分かりづらいが……、投げナイフを懐に隠し持っているな?それと微かに植物性の毒の匂いがする。ナイフに毒を塗ってあるのか?そして手元の杖……、あれは仕込み杖だな。
成る程。
「お前がフルボだな?」
「……いえいえ、俺ァただのチンピラでして」
「お前はこの辺りのチンピラで一番強いように見えるがな」
「そんなことありあせんよ、下っ端です」
俺はこの男の杖を取り上げる。
そして、仕込み杖の刃の部分を出す。
「面白い杖だな」
「………………へへへ、いやあ、護身用ですよ」
懐に手をやる男。
「フルボ、やめておけ。毒を塗った投げナイフだろ?俺がお前の頭を吹き飛ばす方が早いぞ」
「ッ……!!!」
すると男は。
「……兄さん、お上の騎士でも、この辺りの冒険者でもありあせんね。何者でさぁ?」
「俺はジン。ちょっとこの国を裏から支配しようと思ってな」
仕込み杖を返す。
「はぁ……、それは、何とも……」
「フルボ、信頼できる幹部の連中と、人に聞き耳を立てられない部屋を用意しておけ。一週間後また来る」
「いやぁ、それは……」
「でかいヤマをくれてやるってんだよ。まあ、言われた通りにしないなら、スラムの連中を難癖つけて殺して回るだけだ」
「……分かりやした、来週までに用意しておきますよ」
そして一週間後、また同じ場所へ。
「来たぞフルボ、案内しろ」
「ええ、分かりやした」
スラムの奥の、スラムにしてはしっかりした作りの屋敷に入る。
「ここは元々貴族の別邸でしてね、状態が良かったもんで改修しつつ使っているんでさあ」
「そうか」
ふむ。
俺は壁を殴って破壊する。
「「うおおおおあ?!!!」」
壁の中には通路があり、二人の刃物を持った男が隠れていた。
「いい屋敷だな、フルボ」
「……は、ははは、あんた、化けもんだ。どういう嗅覚してるんで?」
「次はないぞ」
「分かりやした……」
さて、円卓に何人かが集まっているな。
「では、ジンさんに紹介させていただきやす。まず、俺が総元締めのフルボ。まあ、ボスってやつですかねぇ」
そしてフルボは右の女を指差す。
「こいつは商売女の元締めのベッラ。見てくれは良い女なんだけども中身は腐ってるから注意してくだせえ」
「まあ、ご挨拶ね」
ブロンドの女。見てくれはセクシーだが、確かに性格が悪そうだ。胸も尻も大きいが態度もデカいってか。特に武装はしていない。服も紫の良さげなドレス。
「この無口でデカいのがヴィゴーレ。荒事担当でさあ」
「む……」
俺よりもデカい身長と体格、ボディービルダー並の筋肉。タンクトップのようなシャツと長いズボンを履いた大男。髪色は黒で短く刈りそろえている。ポケットの中にメリケンサックのようなものが入っているのが分かるな。
「こっちの男が会計のコントでさあ。元は銀行で会計をやっていたもんで、金勘定はかなりのもんです」
「よろしくお願いします」
線の細い薄幸そうな男。小綺麗なシャツを着た普通の男だな。小さな丸眼鏡をかけている。魔力を感じることから、魔法もそれなりに使えるようだ。耳が長いことからエルフであることも分かる。
「こいつがオペライオ。密造酒やら贋金やらを作る技師の元締めでさあ。頑固者なのがたまに傷ですが、ま、仕事は確かですわ」
「おう、よろしくな」
子供ほどの身長ながら筋肉質。ドワーフか。禿頭と長い髭を結ってあるのが特徴か。前掛けと腰に工具がぶら下がっている。筋力はありそうだから、荒事ならハンマーで人の頭をかち割るくらいはできるだろうな。
「最後にこいつが、賭博担当のジョカトーレ。ろくでなしですが賭け事の上手さと勘の良さは天下一でさあ」
「やーやー、新入りかい?よろしくねー」
赤毛の色男。香水の匂いが漂う、小洒落たベストとジャケットを着ている。身体つきから、それなりに武術も嗜んでいるように思える。その上に、飾りのついたベルトとショートソードが腰に。パッと見では馬鹿貴族の次男三男てところか?
さて。
「あらかじめ聞いておくが、お前達は神を信じているか?」
「神、ですかい?」
全員、苦笑いして、言った。
「本当にカミサマなんてもんがいれば、俺達はこんなところで悪党やってませんわ」
成る程。
「人外は嫌いか?」
「お上の連中は蛇蝎の如く嫌いやすが、俺達は嫌ってなんていやせんよ。むしろ、人外の人らが鞭打たれて働かされてんのを見ると、昔の自分を見ているみたいで悲しくなりますぜ」
ふむ、そうか。
強制転移。
座標、レムリア王城。
「取り敢えず、人間の悪党の諸君。話しておこう。俺が人外の王、ジンだ」
気付いている人は気付いていると思うんですけど、名前は適当に付けてます。
神宮寺葉月→コードネーム「ジン」だけが先に決まっていたのでそれっぽい名前を適当に。
リィン→ゴブリンだから語感で。
グラース→フランス語で氷。
フルボ→イタリア語の「抜け目のない」という褒め言葉。
登場キャラクターが多いので、分かりやすい名前にしてます。