死ぬぞ?!
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《怪しい依頼》
・蔓草の短剣団と合流する◯
・オプション:クエスト中、一人で行動する◯
・蔓草の短剣団と盗賊を退治する
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「……おい、何を書いている?」
「いや、ジャーナルだ」
俺は魔法の手帳を閉じて、懐という名のインベントリに押し込もうとして、やめた。
つい癖で……、危ない危ない。
何気なくインベントリを傭兵ギルドの受付に見せて驚かれて以降、俺はよく調べた。
そして知ったが、インベントリは、この世界では極めて稀少な能力だったとこが分かったのだ。
かいつまんで言えば、この世界の「魔法」は、「実体無きもの」「いずれ消え去るもの」「持続しないもの」なんだとか。
魔法という技術はあり、それなりに体系化もされている。普遍的とは言えないが、しっかり学べば素質の大小はあれど、誰でも使える学問として。
が、しかし、この世界でも一応、エネルギー保存則っぽいものが成り立つらしく……。
魔法は、火や水、稲妻や氷が出せる。出せるが、出したものは数分から数時間で、この世界から消えてなくなるのだ。「不自然な力は消える」ってことだな。
何て言うかな……、「擬似エネルギー」?「擬似物質創造」?とにかくそんな感じで、この世界の魔法は、世界に残り続けることがない……。
水を魔法で作って飲んでも、お腹の中でその魔法水は消えてなくなるから意味ないーなんて話が、分かりやすい例なんだとか。
まあでも、魔法の作用で連鎖して生まれたものは失われないが。
具体的に言えば、熱の魔法で発生した炎は燃え続けるとか……、もっと言えば、攻撃の魔法で肉体を損壊させれば、損壊は魔法が消えても治らず、生き物を殺せるとかな。
魔法は、魔力は「理」を騙す力であって、世界に命令できるほどの大きな力はない、ってこった。
だがしかし、魔法じゃない力。
消えない力、魔力を注ぎ続けずとも、一度使えば現実を捻じ曲げられる……、「神の力」、その恩恵。
それを、『秘蹟』と呼ぶ。
『秘蹟』ってのは大体まあ、言ってしまえば「回復魔法」っぽい扱いらしい。
魔法でも傷ついた肉体を治すことそのものはできるが、「消えゆく力」である魔力で傷を塞いだところで、魔力を注ぐのをやめたらそのうち傷は開き、結局死ぬ。
そこで、一度使えば効果が永続する力である
『秘蹟』が出てくる訳だ。
ただ、『秘蹟』は、授かるまでに魔法よりよっぽど大変な修行や、守らねばない戒律などが山ほどあり……。
その最上級、「空間に作用する秘蹟」は、才能や修行の寡多ではなく……、純粋に「神の寵愛を受けているかどうか?」の領域の話になってくるらしい。
……まあ、一言で言うと。
『空間が操作できるレベルの存在は、神の子レベルの存在でしかあり得ない』ってことだ。
実際、神の寵愛を受けてるか?と言われれば、ヴォルスランドにおける十柱の大神、『レイデアン十柱』の加護があるし、「まあ実際そう」って感じではあるが。
そんな訳で、俺は、インベントリを始めとする「能力」を、可能な限り隠すことにした。
それは別に、「目立ちたくない!」とかではない。
純粋に、そういう戦略なだけだ。
既にこの世界に来て二週間が過ぎたが、未だに俺達の「足元に及ぶ」程度の存在にも出会えていないので、心配のし過ぎと言われればそうなんだが……。
けど、自分達の能力をドヤ顔でひけらかして、どこかに隠れているかもしれない賢くて強い奴に手札を丸裸にされ、ハメ殺しわからん殺しされるなんて俺はごめんだ。
俺を信じてついてくる女達もいる訳だしな、可能な限り安全策を取りたい。
無論、ピンチになれば容赦なく力を使うが、基本的に見せ過ぎない方針でいく。
そんな訳で、ジャーナルをカバンに捩じ込み、俺は前に向き直った。
「日誌か。存外、マメな性格をしているんだな」
「おかしいか?」
「いや、好感が持てる」
……で。
さっきから俺に話しかけてきているのは、緑と焦茶色の外套と革鎧を身につけた、細身の剣士達。
その中でも、長髪で髭を生やした、緑色の蔓草が円を描く円盾を持つ背が高い奴が、この傭兵団……『蔓草の短剣団』のリーダーらしい。
名前はカシューと言うそうだ。
カシューは、長い黒髪に手櫛を通しつつ、俺に言葉を投げかける。
「さて、仕事だ、騎士様」
「内容は?」
「俺達は今、伝手でとある情報を手にした。この近くにある『カートマン村』に、盗賊団が現れるという噂だ」
「盗賊団、ね」
「聞くところによると、相手は女らしいが、行けるか?」
「行けるか、とは?どういう問いだ?」
「お優しい騎士様が、盗賊とは言え女を殺せるのか、と聞いてるんだ」
「俺の国で有名な魔導師は、こんな言葉を残している。『悪人に人権はない』ってな」
「悪人は人にあらず、ということか。いい言葉だ」
「じゃあとっとと行くぞ。その、女盗賊とやらを殺しに」
カートマン村。
人口二百人程度の小さな村で、三十世帯程度の家族が暮らしているそうだ。
ヨーロッパ的な気候のここは、土地の養分が少なく気温も低め。
なので、土地から取れる作物の数は、農法を工夫しても中々増えない。
よって、農地を広く広く、拡大する。
するとどうなるか?
一面の麦畑だ。
「凄いな」
思わず呟いてしまう。
近代化した農法で狭い農地からザクザク作物がとれる日本と、なんか魔法的なアレコレで現代レベルまで食うに困らないファンタジー世界のヴォルスランド。
それらの世界では見られなかった、極めて広い農地。
それも、原始的な農法で、小麦とライ麦が同じところにざっと、整理されることもなく生えている。
なんか聞いたことがあるな、小麦とライ麦を同時に植えて、どっちがが不作でもどっちかは収穫できるから生き残れる、みたいな話。多分それだろう。
何にせよ、初めて見たな。こんな景色は。
「何がだ?」
二十人の戦士達。
蔓草の短剣団。
そのリーダー、カシューが訊ねてくる。
どうやら、口に出ていたらしい。
「俺の故郷では見ない光景だから、少し驚いただけだ」
「故郷?ああ、遠くから来たらしいな。農地を見ないような立場だったと?」
「いや。俺の故郷は土地が豊かだったから、こんなに農地は広くなかった」
「それは羨ましい話だな」
カシューは、農地で働く農民に目を向ける。
その目付きは、悲しいような、苦しいような複雑なものだ。
「この国じゃ、作物の半分が税として持っていかれる。その上で、人頭税や地代、パン焼き釜や水車の使用料……」
今は秋。
麦畑、その黄金の絨毯を撫でるように中空に手を伸ばし……。
「その上で、毎月何日も賦役を強制され、戦とあらば働き手の若い男達が死にに行く……」
そして、何かを握り潰すような動作。
硬く拳を握りしめて、一言零す。
「『貴族』……、奴らこそ、この国の国富を奪う『盗賊』だ……!」
……うーん。
俺は政治に興味がない日本人。
政治に対して文句を言うのは、反政府の旗を掲げることで利益を得ている詐欺師と、それに騙されている程度の低い人間だと思っている。
政治なんて、やりたくて能力がある奴が好きにやりゃ良いじゃん、と。駄目なら民主主義パワーで引き摺り下ろすだけなのだから、と……。
「総理は独裁者だ!」などと、色々声は聞くが、ホンモノの独裁者のヤバさも知らないでよく吠えてるなーって感じ。
世の中には、「メガネをかけてる奴はインテリなので皆殺しな!」とか、「良い馬を貰ったのでくれた国に領地あげちゃう!」とか、マジで本当にサイコパスとしか思えない独裁者がいたのだ。
それと比べりゃ、日本なんて天国みたいなもんだからな。
それに、俺が政治家をやったとして、うまくやれる自信はないしなあ……。まあヴォルスランドのクエストで村長くらいはやってたが。
少なくとも、自分には王様も首相も無理無理。
だもんで、政治の批判とかできねえわ。少なくとも、今政治家やって選挙で勝ってる人らは、俺よりかは何倍も政治ができるんだからな。
まあ、この世界は違うんだろうけどな。王制だし。
「来たぞ!ほら見ろ、騎士様。あれが盗賊だ……!」
おっと、盗賊だったな。
ええと……?
あれは……、女の子?
今はゾンビものの推敲をしつつ、足りない部分に挿入話とか、話数の入れ替えなどの作業をしていました。
それと、ダンジョンものの続きをちょいちょいっと。
個人的には、魔法チートものも書きたいなあ。