さあやって参りました、ヴァルツァの森。
落葉樹……ブナ科っぽい木々が立ち並ぶ、鬱蒼とした森だ。
木々の間隔が狭く、大きく広がったシルエットの為、葉っぱが日傘となり、森の中は薄暗い。
どこか神秘的とも言えるな。
……などと、言うと思ったか?
そんな訳がない。
そんな訳がないのだ。
神秘的な森で森林浴♡(キャピキャピ!)だぁ〜?森を舐めるんじゃあねえぞクソボケがーっ!!!
中世の、整備されていない森は危険しかない。
危険な野獣、モンスターが潜んでいる!まあそれはお分かりだろう、確かに怖いな。
だがそんなものより遥かに恐ろしいことがたくさんある。
例えば、森の中では方向感覚が狂う。不衛生でジメジメしていて変なバイ菌があるかもしれない。
道は整地されておらず、凸凹で、沼や水溜りなども多く、天然のトラップでいっぱい。
茂った草花は足元を隠し、そこにはマダニや蛇、ムカデに虻蜂などが潜んでいる。そういう虫達は病原菌を媒介したり、毒を持っていたりする。
尖った枝やススキのような繊維質の植物も多く、それらに身体を引っ掛けたら怪我をする。
怪我したところに泥なんかが付いたら、破傷風の恐れだってあるだろう。
いきなり雨風や雷雨ともなれば、その危険な森の中で延々と足止めされる。
大凡、人の入って良い場所ではないのだ。
だからこそ人は森を、自然を恐れてきた訳だな。勝てないから。
ましてや、ここは中世。余計に、人は自然に打ち勝てない。
そんな森に、プロである狩人などを伴わず、一人で鹿狩りなど。
正気の沙汰ではない。
ただの人間には不可能だ。
「まあ俺はできるけど」
パッシブ・アビリティ。
———《疾病無効》発動中
———《反応装甲》発動中
———《汚濁退散》発動中
———《悪路走破》発動中
———《毒素散らし》発動中
俺は、凸凹の地面を踏み締めつつ、ずんずんと森の奥へと進む。
———《狩人の目》発動
そして、視界内に獲物の存在や痕跡がハイライト表示され。
インベントリから取り出した、『龍帝の大弓』を引き絞り。
放った。
放たれた矢は『龍牙の大矢』。
その名の通り、龍の牙から削り出して作った、槍のようなサイズの矢だった。
それは、音の壁を突き破り、障害物である木々に風穴をぶち抜きつつ、壁抜きのような形で。
1km離れた地点にいるアーマーディアーの群れを貫く。
アーマーディアーの群れの五頭がちょうど、肉体に握り拳ほどの大穴を穿たれて。
自分達に何があったのか?などと、考える暇もなく、出血のショックや神経中枢の破壊などで死んでいった……。
「来い、ネプチューン!」
で、後は拾ってくるだけだ。
愛馬のネプチューンを呼び出して、森の木々を薙ぎ払いつつ直進。
獲物を五体、縛り付けてネプチューンに担がせる。
アーマーディアーは、甲殻があること以外は、大きいヘラジカのような姿をしているモンスター。
一体の重さは1トン弱と言ったところだな。
五頭程度なら、ネプチューンも難なく背負える。
おっと、その前に。
「『冷気の波動』!」
魔法で肉を冷やして、品質を保持しておく。
そして、甲殻の隙間や腹側にびっしりくっついているマダニや、体内の寄生虫などを……。
「『小虫散らし』」
虫を殺す魔法で消滅させて、綺麗にしておく。
これでよし。
さっさと運ぶぞ……。
「おい見ろよ……」「なんだあの馬?!」「乗っている騎士もでかいぞ!」「ありゃ鹿か?」「あんな立派な鹿を五頭もか」「でもただの鹿じゃねえぞ、アーマーディアーだ!」「さぞ優れた騎士様なんだろうな」「ブローナック王の客人だとか?」「ああ、アーデルハイト姫を救ったとかいう?」
ざわざわと、俺を見て平民達が騒ぐ。
何度も言うが、娯楽に乏しいこの世界では、噂話は鉄板の面白コンテンツなのだ。
騒がれるのも無理はない。
ここに関しては、「俺またなんかやっちゃいました〜?」とかそう言う感情はないな。
なんかやっちゃっているのは自明、火を見るより明らかだ。その点についてとぼけて、勘違い主人公のフリをするつもりはない。
そもそも、まだ完全にそうと分かった訳じゃないが、俺達は強過ぎるみたいなんだよな。いや、こちらからすれば、この世界の平均レベルが低過ぎるのだが。
とにかく、強い自覚があるのだから、強い人間らしく振る舞う必要がある。こういう野蛮な文明では、過度な謙虚さはかえって面倒事を呼び込むのだ。
と、そこに……。
クソデカ馬車に乗った、十人の美姫がやってきた。
俺の嫁達である。
こいつらは、アスレッド王都の門を通れないくらいにバカデカい馬車を街の中に入れる為、魔法で道を作って、空からやってきたのだ。
「「「「うおおおおおっ?!!!」」」」
当然、そんなことは、この世界では一流の魔法使いにしかできない。ヴォルスランドでは、道を作る程度の魔法は「一般級」の簡単なものなのだが……。
この世界の一般人から見ると、光の道を空に作り、凄まじく豪奢な馬車に、この世のものとは思えぬ美姫らが乗って現れるのだから、「神話か何かかな?」としか思えないだろう。
「旦那様ー!」「主人殿〜!」「パパー!」
ワッ、と。
この世界のそれとはレベルが違う美女達が俺に抱きついてくる。
この国のアーデルハイト姫も確かに可愛らしい子だったが、俺の嫁らの美しさと比べると見劣りするもんな。贔屓目抜きで。
この世界の女は、どんなに美人でも、水が貴重なヨーロッパ風地域の汚らしい中世人。香水臭くて、顔も田舎臭く野暮ったい。
MODで作られたゴリッゴリの超美人である俺の嫁らには、逆立ちしたって敵わないのだ。
いやマジで、産毛の一本もないきめ細やかな肌とか、手入れせずとも艶めく美髪とか、そう言う細かいテクスチャの一つ一つが作り物……「偶像」特有の、この世ならざる美しさを演出しちゃってるからな。
APPで言えば、この世界の存在では理論上の最大値18のところ、うちの嫁らは30くらいあるだろう。
ほら……、芋臭い肩幅ドゥのゴリラ女ばかりのオープンワールドゲーのバニラ世界に、MODで美女を召喚すると浮くだろ?そんな感じ。
そして、俺は兜を外した。
そんな俺も、緻密なキャラデザによるゴリッゴリの美形。おまけにいい匂いもするし清潔。
最近のVRゲーは匂いもあるからな、自分の体臭も臭くならないようにMODで調整してある。
まあ、つまり、美男美女のカップルだ。
最高に絵になるな。
横目で見れば、俺達のあまりの美しさに、天使が何かと勘違いして勝手に感涙する神父がいた。うちの子は吸血鬼と悪魔と人狼もいるんですがそれはOKなんですかね……?
とにかく俺は、嫁らを伴って、城へと向かった……。
余談ですが、このゲームの体臭系MODでは、全身からベーコンの匂いがするようになるクソしょーもないMODとかもありました。作者はアメリカ人。