俺は、従軍依頼を受けて、即座に参陣した。
三十人の兵隊と、三人の従士、あと嫁全員で。
「我々、アスレッド家は、代々アルザード大王国を支えてきた名家!反乱軍は断じて生かしておけん!そも、反乱軍には正統性というものごなく〜……」
王の演説を聞き流しながら、俺は頭の中で話を整理する。
ボンクラ第一王子率いる(率れてない)正規軍と、有能第二王子率いる反乱軍……。
アスレッド王国は正規軍側だったな。
で、今回の敵軍がグリンバル王国。
国としての公式声明は「中立を維持する!」ではあるが、反乱軍に加担しているのは公然の秘密だ。
何故そう断定できるか?と言うと、グリンバルで開発された最新型の武器を、反乱軍が持っているからである。
グリンバルは、北方の寒い土地にある国なのだが、たくさんの鉱山と山を保有しており、そこから得た金属と薪で(中世基準で)大量の鉄器を生産しているのだ。
それ故に、グリンバルには、鉄や木材を巧みに加工できる職人が多く……。
そんな職人達が作り出した武器が、「平民でも騎士を殺せる武器」である、『クロスボウ』だった。
クロスボウは、狙って引き金を引くだけなら、理論上では女子供でも使えて、尚且つその威力は、騎士の防具である『フルプレートアーマー』を貫通せしめるものだった。
それはつまり、力なき民でも、クロスボウを上手く使えば、選ばれし戦士である『騎士』を殺せると言うことに他ならない。
無論、騎士達も、一定時間鎧を固くする魔法や、力場で矢を逸らす魔法なんかが使える奴が多いらしいが……、それでも、殺せることには変わりない。
そんな貴族を、騎士を殺す武器を、グリンバル王国は反乱軍に流しているのだった。
そりゃあまあ、反乱軍に与する敵と思われても仕方がない。
「〜以上!諸君らの健闘に期待する!」
おっと、話を戻そう。
たった今、アスレッド王の演説が終わり、集められた兵隊達がうおお!と叫んでいるところだ。
内訳は指揮官たる騎士が三十人、農兵が六百、傭兵が二百ってところか。
総勢八百人。
ショボく感じるが、この世界では一般的な規模の戦争だな。むしろ、これでも結構な本腰を入れているのが伝わってくる。
傭兵二百人だもん、相当頑張ってるよ。
アスレッド王国って、金がある国じゃないからな。傭兵二百人を雇えるだけの金は、結構奮発している。国家の運営をご家庭のお買い物レベルに落とし込めば、「新しいゲーミングPC買おうかな!」くらいには金をかけているだろう。給料(予算)二、三ヶ月分ってところか。
さて、そんなそこそこ重要な戦争とは……?
「戦地は、ここから四日の地点にある『マインザッハ砦』!砦を落とすのが諸君らの仕事だ!」
なるほど、砦の攻略、か。
「良いか?マインザッハ砦は、隣国『グリンバル王国』の要所だ。ここを落として橋頭堡にできれば、グリンバルを攻めるための足掛かりとなろう」
移動を終え、マインザッハ砦の少し手前辺りに陣を張り、天幕の中でブローナック王の話を聞く。
「グリンバル王国は、知っての通り北の国だ。マインザッハ砦を越えてその先に進めば、そこは雪国……。つまり、雪と山という天然の鎧に阻まれて、こちら側からの侵攻が困難なのだ」
なるほど、そういうパターンか。
「故に、このマインザッハ砦。ここを奪取し、橋頭堡として我が国に取り込むことで、ここを起点としたグリンバルへの侵攻が可能になる!」
理解できる話だな。
何もおかしなことを言っていない。
侵攻、というと悪いことに聞こえるかもしれないが、逆に言えばここを取っておけば相手側も攻めにくくなる訳だから、ある種の防衛と言っても良いかもしれん。
……しかし、砦の奪取ともなれば、砦そのものを壊すと怒られそうだな。
手加減をするように、嫁らに言っておかなきゃなるまい。
「そして今回だが……、先陣は、ブラッド殿に務めてもらおうと思う」
へえ、新入りの俺に活躍の場を与えてくれるってことか?
良いね、ありがたい。
けど……。
「ああ、やるよ。けどひとつ聞きたいんだが」
「何だ?」
「全員殺して良いのか?」
「ふふふ、できるものならやって見せよ」
あっそう。
じゃあやるわ。
「そんな訳だから、先陣を任されることになった。お前らもなんか適当に上手い具合にやってくれ」
「雑ゥ!」
豹獣人のキャシィが驚く。
「いや、見た感じ、束になってもこちらは殺せんぞありゃ」
「確かに、旦那の言う通りだろうぜ。『重装甲スキル』の《反応装甲》アビリティがあれば、傷一つつかねえよ」
オルグ族、つまりは鬼の女戦士、ロザリアが言った。
「《反応装甲》……、確か、初心級以下のランクの武器による攻撃の完全無効化でやんすよね?」
「ああ。この世界の数打ち武器は、基本的に入門級。良品が初心級ってところだな。その上の一般級ともなると、騎士くらいしか持ってねえ」
「でも、騎士が持つ一般級の武器も、素の防御力で弾けるでやんしょ?」
「そうだな。因みに、お前の持つ『軽装甲スキル』では……」
「《不可侵存在》があるでやんすね。初心級以下のランクの攻撃に触れたとき、1秒間無敵になるアビリティでやんす」
「じゃあまあ、とにかく。無策で突っ込んでも死なないから、突っ込むのが良いんじゃねえのか?」
「それで行こう」
次の日。
俺は戦場のど真ん中に立たされた。
実家で刺身を食うなどした。