ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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三が日が終わった。

たすけて。


42話 お試しに

「おっ、これなんてどうだ?中規模のオークの群れの退治だとさ」

 

マルテーロが依頼を指差す。

 

「そうだね、それにしようか。エトワールとリリィもこれでいいかな?」

 

「ええ」「うん」

 

こいつらも冒険者の資格は持っていた。しかもAランク相当の。

 

ふむ、お手並み拝見といこうか。

 

 

 

「オークは確認されたのが四体……、多分もっといますね。倍は覚悟した方が良いかもしれません」

 

「となると八体くらいか。まあ、やれないこともないぜ」

 

「とはいえ万が一ってこともあるからね。確実に先手を取りたい……」

 

では。

 

「奇襲かな」

 

この街の冒険者ギルドにて依頼を受けて、街を出て、全員で森を歩く。

 

……この前情報も、街から西の森に歩いて数時間とか、非常にアバウトでムカつくな。

 

正確な情報を出せ馬鹿。

 

この世界の住民はどうも適当で困るな。まあ、中世後期レベルの人間の働き方なんてそんなものか。

 

 

 

そして今、一時間半程歩いて、オークの痕跡を見つける。

 

「ん」

 

オークの糞だ。

 

この大きさと色合いはオークのものだ。オークの内臓構造は単純で、まるで熊のようだ。だから、食べたものがそのまま出てくる。この辺りに生えている木の実を食べたのだろう。

 

見たところまだ新しい、近くにオークがいるな。オークは豚のようにトイレの場所を決める。故に糞の量で大体の数が分かるな。

 

オークは縄張りを作り、同種族他種族問わず犯して、増える。ゴブリン程の繁殖力はないが、半年もすれば生まれたばかりの個体が成体になる。

 

身長は2m20cmほど、成人男性の二、三倍の筋力と体力そして体重、分厚い脂肪と外皮、硬い骨格で丈夫な上、鼻が利き、そこそこ悪知恵も働くという、非常に厄介なモンスターだ。

 

因みに、うちのエーバーに話を聞いたところ、モンスター娘や魔人は、寿命は長いが成長速度は人間並だそうだ。寧ろモンスターのオークと一緒にしないでほしいと嫌がっていたな。

 

感覚的には、人間と猿くらい違うらしい。そんなもんなのか。

 

醜悪な面構えに潰れた豚のような鼻、尖った耳と黄色の濁った瞳。涎を垂らしながら腹の肉を揺らし、原始的な石器や冒険者などから奪った武器で武装した気色の悪い緑の化け物。それがオークだ。

 

ふむ、俺の知るファンタジー小説のオークとは違ぇが……、この世界ではそうなっている。

 

俺が思うに、オークは猿に近い習性があると考えられる。人間を真似ているのだ。粗末な腰布を身につけていたり、磨製石器のようなものや、武器を持つという発想、新たな知識を更に、群の外のオークに伝える……。

 

他にも、群の構造やボスオークの存在、役割など、一口で言えば、邪悪で巨大な猿と言ったところだ。

 

「あ、オークの糞だね。まだ新しいから、近くにいるはずだよ。それに、オークはトイレの場所を決めるから、この量だと……、群れは十体以下だね」

 

と、斥候ができると言っていたリリィが言う。

 

ふむ、及第点だな。

 

「探知魔法を使うよ……、うん、こっちに六、あっちに四、だから少ない方から減らそう。良いかな、ジン君」

 

俺も探知魔法を使用。確かに右に六、左に四の反応。

 

「そうしよう」

 

武装は対モンスター用にウェザビーマークVとS&W M500、焼夷手榴弾。

 

ハンティング用のライフルとリボルバーだ。反動は大きいが威力は象をも殺す程ある。

 

焼夷手榴弾は俺の趣味だ。いやあ、炎で悶え苦しむ生き物の姿を見るのは楽しくてな。直撃すれば即死だろうが、死にきれずに悶える半死人は見ていて幸せな気持ちになれるもんだ。

 

それはさておき、四、五千℃の炎を発するこれは鉄骨すら溶かすんだ。モンスターの巣穴などの破壊にも役に立つ。

 

ああ、この前の中世風装備は、聖王国に警戒され過ぎないようにと手加減した装備だ。

 

服はこの前のままだが。流石に人間国家で現代兵士の格好をして歩くと悪目立ちする。銃は武器庫に仕舞えば誤魔化せるしな。

 

それに、モンスターにただの鉛玉鉄砲では心許ない……、と言うより面倒だ。

 

転生により強化された俺の肉体は、人間の十倍近くの性能を発揮するが故に、原始的な刀剣を叩きつけるだけで大抵のモンスターは殺傷可能だ。

 

だが、やるなら慣れた銃の方が良い。

 

返り血を落とすのも面倒だしな。

 

さて、風下から近付いて奇襲だな。

 

「オークは鼻が利くから、風下から近付いて奇襲しよう」

 

よし、よくできたな、リリィ。

 

 

 

それで、風下から奇襲するんだが。

 

「あそこに二体いる……、オークは鼻が利くから、近付いたらどうやってもバレるね。あの二体を確実に仕留めたいね」

 

「では、私が魔法で一体倒しますね」

 

と、エトワール。

 

「じゃあ私も撃つよ、これをね。左の方は任せてくれ」

 

銃を見せる。

 

「はあ……?分かりませんけれど、時間をかけずに倒して下さいね」

 

なんだか分からないと言った様子だが、兎に角、魔法を唱え始めるエトワール。

 

エルフ語で呪文を唱える。……精霊魔法というのは、契約した四大精霊……、サラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフに魔力を渡して、働いてもらうという形式の魔法だ。

 

エルフが好んで使うが、まあ、使い勝手が悪い。

 

火、水、土、風の四属性しか操れない上に、精霊が存在しない場所では使えねえらしい。

 

例えば水中ではサラマンダーはいないし、炭鉱のような澱んだ空気にはシルフはいない。

 

武器として最低限満たすべきの信頼性、どこでも使えるということはねえんだよな。

 

メリットは、応用性だ。既存の魔法は、火の玉を飛ばす、土の槍を生やす、と言ったようにオートマチックで、呪文毎に決まったことしかできないが、精霊魔法は、精霊に直接指示し、複雑なこともできる。

 

着弾した瞬間爆発する炎の槍を敵の死角から放て、と言ったような細かい指示が可能だ。

 

まあ、専ら、建築や小物作りに使っているらしいからな。そんなもんだろう。

 

土の精霊で作る陶器が売れているらしいな。

 

そして、そう、エトワールは、エルフ語でサラマンダーに指示を出すと、サラマンダー……、炎でできたトカゲのような、火の塊は、赤い足跡を残しながら、ぼーっとしているオークに突っ込んでいった。

 

『ガウ……?!!!』

 

オークが驚きの声を上げた時には、全長2m程の火蜥蜴が飛びかかっていた。

 

『ゴッ、アガ……、カハ……!!!』

 

顔面を焼いて、気道を焼いているな。上手いやり方だ。オークは炎を吸い込み、直接肺を焼かれている。もうすぐに死ぬだろう。

 

だが、殺すという一点においては。

 

こっちの方が速い。

 

ウェザビーマークVの銃口から、音より速い500グレーンの弾丸が飛び出て、森の空気を切り裂く。

 

100フットポンドの心地いい反動を全身で感じていると、弾丸がオークの頭を吹き飛ばした。

 

まあ、所詮はオークだ。

 

熊くらいの強さしかないな。

 

倒そうと思えば倒せる。

 

しかし、モンスターのドラゴンを殺すとなるとラハティL39でも足りないくらいだが。

 

ドラゴンは鱗が硬い。その上ヘリより小回りが利いてそこそこ速い。上位のドラゴンとなるとミサイルで吹き飛ばすのが最適だろう。

 

少なくとも、まあ、オーク程のモンスターなら狩猟用ライフルで充分に殺せるということだ。

 

俺はボルトを引いて次弾装填。銃声に気付いて顔を出したオークの頭を続けて二つ吹き飛ばす。

 

「次、六体来るよ。突貫するからついてきて!」

 

「「「あ、はい!」」」

 

 

 

「オークジェネラルだ!」

 

「私が倒すよ、退がって。マルテーロは他のを受け持ってくれるかな?」

 

「お、おう!」

 

「良し、じゃあ、私が三体、君も三体だ。エトワールとリリィは援護をよろしく」

 

「はい」「うん」

 

白兵戦、か。

 

返り血がかからないように首を斬り落とすのはやめておこうか。

 

すると……、こうかね?

 

オークジェネラルという、通常より二回りは大きいオークの上位個体が、木の棒の先に石の刃を取り付けた原始的な斧で斬りかかってくる。

 

オークジェネラルがそれを振りかぶろうとした瞬間に、俺は腰のマチェットを抜いて、石斧の柄を斬り落とす。返す刀で、更にオークジェネラルの片腕の、丁度関節の部分を狙って刃を走らせる。

 

『グガァァァ?!!!』

 

そして、腰のリボルバーを早撃ち。俺の早撃ちは0.1秒以下だ。こちらの世界に来てから更に早くなったな。

 

カスタムもしていない、狩猟用の反動が大きい拳銃でそんな芸当ができるのは俺の身体能力が転生により強化されているからだ。

 

M500で早撃ちをするなら、前の世界でなら流石に0.2秒はかかった。

 

『ピギッ』

 

眼孔から侵入し脳を吹き飛ばすような角度から撃たれたマグナム弾が、オークジェネラルの頭に血の花を咲かせる。

 

その最中に唱えていた魔法を使用。

 

「オールドスパーキー」

 

『ギャギャギャギャギャギャギャギャギャ』

 

高圧電流を流すオリジナルの魔法だ。突き刺したマチェットから電気が流れる。

 

電磁気学の通りに電流が流れる。

 

魔法は相変わらず研究中だな。

 

あまりにも俺の理解を超えている。

 

魔力によって、エネルギーや質量を発生させるものを魔法と定義してはおいたが。そもそも俺は傭兵だ、研究者じゃねえ。

 

一応、学問的に興味はあるが。

 

感電死させたオークの死骸から刃を引き抜き、振り返る。

 

その時に、焼夷手榴弾のピンを口で外してから、別のオークに投げつけた。

 

丁度オークの頭上で炸裂した手榴弾は、猛烈な炎で焼き尽くす。

 

焼夷手榴弾は本来、超高熱で鉄をも溶かし、構築物を破壊するためのもの。それを生物に向けて投げればどうなるか。

 

『ーーーッ?!!!』

 

声を上げる間も無く、死ぬ。

 

それが答えだ。

 

 

 

俺の担当分のオークは十秒とかからず全滅した。

 

「早っ?!」

 

マルテーロはまだ一体目の片足を斬り落としたところだ。

 

「二体始末するよ」

 

俺が言うと。

 

「いや、一体は僕が、やるよっ!!」

 

リリィが短い詠唱と共に魔法を使用。

 

「エアステップ!」

 

ふむ、確か、空中で不可視の足場を作る魔法だったか?

 

それを使ってオークの頭上に跳んだ。

 

「やあああっ!!!」

 

おお、上手いな。頚動脈をダガーナイフで掻き切ったか。

 

普通のナイフでは不可能な芸当だ。恐らくは、魔法的なエンチャントがかかっているんだな、あのナイフは。

 

「ではこちらは私が」

 

エトワールがまたもや火蜥蜴をオークに嗾ける。

 

「おおりゃっ!!!」

 

マルテーロが大きく跳んでオークの頭をかち割った。

 

 

 

終わり、か。

 

「うん、成る程。今回の依頼はこれで終わりだね。色々と、お互い、話をしようか」

 




M500で早撃ちとかありえねえんだよなあ。

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