船に乗って。
「凄いよ、ジン君!魔王を倒したんだね?!」
「やったな!」
「遂に、遂に……!」
浮かれるメス共に、真実を伝える時間だ。
「さて、改めて自己紹介しようか。俺の名はジン、灰の指先の首領にして人外の王」
「え、は?」
「そしてこいつが新たな下僕の、元魔王サタナエル」
「はーい、よろしくねー」
「……え?」
「次の行き先は魔王討伐の知らせを聖王国に伝えに行くのではなく、メリカ大陸だ。エルフ、ドワーフ、ハーフリングを可能な限り集め、ヨロパ地方に移送する」
「え、えと」
「住処の選定は既に終わっていて、取り敢えずは、エルフは人外国家の森、ドワーフはエデン及び各国の鉱山、ハーフリングは適当に放流する」
「は、あ?」
「選べ、と言っている。人外側につくか、人間の奴隷のままでいるか」
「待ってよ、ジン君……。いきなり何を言い出すんだい?」
「そ、そうだよ、いつもの優しいジンに戻ってよ……」
「あ、貴方は、そんなことを言う人じゃないですよね?ねぇ、ジンさん……!!」
俺は椅子に腰掛けて、問いかける。
「人間の奴隷風情が……。甘い夢は終わりだ」
「わ、私達は、人間の奴隷などでは……」
「そ、そうだぜ!俺達は人間とは仲良くしてる……」
「僕達は人間と対等で……」
「本当にそうか?」
「「「ッ!!」」」
「本当に人間と対等で、仲良く暮らしていると思っているのか?」
「「「………………」」」
「エルフが金持ちのペットにされ、人間よりもはるかに安い賃金で鉱山で働かされるドワーフ。旅をして生きているのではなく、どこにも受け入れられないが故に放浪せざるを得ないハーフリング。お前達が本当に対等だと?」
「それ、は」
「人間共の神は何と言った?人以外の種族は皆、神以外のものが人を真似て作った贋作、出来損ないだと嘯いているぞ」
「で、でも」
「何にせよ、二つに一つだ。仲間になるか、断るか」
「……断る、と言ったら?」
「いやあ、有望な部族の跡取り娘が行方不明になっちゃうんじゃねえかなァ?クハハハハ!」
不本意だが三人ほど遭難ってことになるかねえ?
「………………です」
「何だと?」
「人間には逆らえないのです……!!」
ふむ。
「何故だ?」
「部族の皆が人質なんです……。魔王を倒さなければ、皆売られてしまいます!!」
「侵略者を排除しないのか?」
「エルフは争いを好みません……、話し合いで解決を」
「ふん、腑抜けているな。それで結局、人間の数に押されて縄張りを掠め取られたってところか」
「し、仕方がなかったのです!そうするしか、他に……!」
「抜かせよ。ただ単に根性がねえだけだろ?頭捻って人殺しの方法を考えたか?逃げなかったのか?お前らの努力不足だな」
「そ、そんな、そんなことは」
「クハハ、だが安心しろ。俺が救ってやるよ!」
人間の下僕にしかなれない憐れな種族に、まともな日常をくれてやるんだ。喜べよ。
「ジン君、変なこと言わないでよ……!あんなに優しくしてくれたじゃないか!」
「ふっ……、ああ、お笑いだったぜ。少し甘い言葉をかけてやれば、喜んで擦り寄ってくるんだもんなァ?可愛い可愛い馬鹿女ちゃんよォ?」
「騙した、の?」
「今更気づいたのか?」
「そん、な……。愛してるって、言ってくれたのに……!!」
「愛してるぅ?クハハハハハハ!!!そんなもんリップサービスに決まってんじゃねえか!!!本気にすんじゃねえよ、間抜け!!!」
「あ、あああ、うわああああああ!!!!」
泣き崩れる三人を見ながら、俺は尋ねる。
「それで?どうすんだ?死ぬか、こっち側につくか。選べよ」
「お願い、が、あります」
んだよ。
「何だ?」
「何でも、します、だ、だから、愛して、愛して下さい!嘘でも、良いのです、愛してると、もう一度……!!」
「お、俺も、ジンのこと、好きだ。ジンが俺を好きじゃ、なくても、俺は、ジンが好きだ。何でもする、だから……!!」
「僕も、ジン君と、ずっと一緒にいたい!お願い、好きって、もう一度だけ……!!」
……はっ。
予想以上に間抜けだったな。
愛?下らねえ。
そんなことで俺の側につくってのか?
馬鹿なのか、こいつらは。
ふん、まあ良い……。
「俺に従うならば、可愛がってやるよ」
さて、民族大移動だ。
メリカ大陸にオスプレイで移動。
それぞれに有りっ丈の人数を集めさせる。
エトワールはエルフを、マルテーロはドワーフを、リリィはハーフリングを。
六ヶ月かけて、合計で数百万人程集まった。
ついていくことを拒否した部族もいるが、それは知らん。そこまで面倒を見る気は無い。
集まったこれを、何万隻という船で大移動させる。
武器庫の物資により、道中の食料などの問題はなかった。
最新鋭の船であれば、メリカからヨロパまで数週間とかからない。
人外国家へ連れて行ってやり、教育を始める。
さて、お次は。
俺の魔人への転生だ。
「マリー、資料を」
「はい」
リッチのマリーから、研究資料を受け取り、吟味する。
「候補はこれだな。デーモンロード、アジダハーカ、アポカリプスビースト」
それぞれ、悪魔種、龍種、獣人種の最上位種の一つだ。
「……ふむ、三つ全てを選ぶか」
「危険」
「危険か?ハーフエルフやダンピールなどの、ハーフの種族が存在する以上、複数の性質を持つ新たな種族を作ることも可能なんじゃないのか?」
「前例がない」
「俺がその前例ってやつになれば良い……。やるぞ」
「……分かった」
俺は、三重の魔法陣の中心に立つ。
「魔人転生術式、起動……!!!」
赤黒い炎が身を包む。
全身の細胞一つ一つが沸騰するかのような痛み。脳が焼き切れるような頭痛。
「ゲギャ、は」
発狂するような痛みの中、俺は。
「ハハハハハははははははは!!!!アハハははははははははは!!!!」
正気のままに、狂い。
「あああアアアあっ!!!!」
魔人と、なった。
身長は伸び、2m50cm程。肌はメラニン色素の黒さとは違う、不自然な人外の黒に。
赤い毛が生えた獣の脚。赤い鱗のある龍の腕。
身体を覆えるほどに大きな龍の羽付きの腕が、腰から伸びている。
そして、2m程の悪魔と龍の合いの子のような尻尾の先端には、毒が滴る棘が何本も生えている。
黒い髪はかなり長く、眼球は黒、瞳は赤。発達した犬歯と、尖った耳。
捻れた角が天を衝くように聳え立つ。
異形。
そして最強。
身体の内側から、溢れんばかりの強力な力が渦巻くのが分かる。
「ク、ハハは、クハハハハハハ!!!!見ろ、マリー!俺は最強の魔王だ!!!!」
「……新種と断定。命名、悪魔種、『アンラマンユ』」
ふむ、アンラマンユ、ゾロアスターの魔王か。
良いだろう。
「俺はアンラマンユ族のジン、大魔王だ!!!」
ダンジョンマスターものとか書いてみたい感ある。