なんか、こう、雑貨屋みたいな臭いがしました。
あまりに臭すぎて、途中で降りてトイレで吐きました。
香水とかなのかなあれは。
「はっはっは!面白いなフルボ!良くやった!」
「いやぁ、旦那に喜んでいただけるとこっちも嬉しいでさぁ」
「で?こいつが麻薬部門を任せるって奴か?」
「ええ、ドローグ、挨拶しなせぇ、魔王のジン様でさぁ」
「は、はい!ジン様!俺はドローグって言います!これから頑張るんで、よろしくお願いしますッ!!!」
「クハハ、元気が良くて結構だ」
三十年、か。
ここまで長かったな……。
俺ァ、悪党でさ。どこぞで野垂れ死ぬのが関の山だと思っていやした、が。
今じゃ、国一つを裏から支配できる立場ですよ。
ケケケ、最高でさぁ。
聖王国滅亡のあの日から、何があったのか?
そいつを教えてやりやすよ、ドローグ。
あの日……。
聖王国は火の海になりやした。
俺達、黒骸骨のメンバーは、あらかじめ人外の兵士達に襲うなと伝えられていたらしく、まあ、不自然にならないくらいに軽く攻撃されたフリをしつつも、広場に行きやした。
するってえと、あのいけ好かねえクソ王女が、股座に焼けた鉄棒を突っ込まれて大騒ぎしてるじゃありやせんか!
こりゃもう、愉快で愉快で……。
ああ、そう、それで、暫く楽しい見世物を観た後に、俺達は手配しておいた船に王侯貴族共を乗せたんでさ。
「王子様!こちらでさぁ!船がありやす!メリカ公国まで逃げましょう!!!」
「う、あ、姉様、姉様……」
「しっかりなさってくだせえ!王子様がここでくたばれば、聖王国はどうなるんです?!今は逃げるしかありやせんよ!!!」
「わ、分かった……!」
と、まあ、こんな感じですかね?
聖王国に恩なんざありやせんから、嘘っぽく見えたかも……。いや、後でジン様からは迫真の演技だったと褒められやしたが。
それで、船に乗って……。
「出航!メリカまで逃げやすよ!!」
「「「「おう!!!」」」」
あ、勿論、船員は全員うちの身内でさ。
それで、三ヶ月近くの船旅……。
いやー、クソみてえな王侯貴族共と毎日顔を合わせんのはほんっとに苦痛でしたわ!!
「フェッソよ、助かった、ありがとう」
「いえ、王子様、気にしないでくだせえ」
あ、勿論偽名ですぜ?フェッソと名乗りやした。
「でも、たくさん船があって良かったな」
「ええ、何でも、メリカ公国ではエルフやドワーフが急にいなくなったらしく、その分を聖王国から移住したいと言う人で埋める、って話になっていたそうで」
エルフやドワーフ、ハーフリングが消えたのは、ジン様が人外国家に連れてったからですよ。
「そうなのか……」
「……気を落とさねえでくだせえや。まだ終わった訳じゃありやせん。いずれ、魔王を討つためには、力をつけねえとなりやせんよ」
「そう、だな」
「ほら、生憎こんなもんしかありやせんが……」
と、ハムサンドを渡す。
ん?どこから出した?ああ、いやね、アイテムボックスの魔法ですかね。
そう言う魔道具をジン様の愛人からいただいたんですよ。
腕輪型の魔道具で……、魔力が少なくても使えるらしいですよ?滞空魔力がどうとか……。
「ありがとう、フェッソ。しっかり食べて力を付けねば、復讐など夢のまた夢だな……。ん、これは美味い。パンに塩漬け肉を挟んだものか」
で、メリカ公国に着いたんでさ。
メリカは元々、聖王国の属国みたいなもんですから、メリカの玉座にアルフリート王子が収まったのは、変な話じゃありやせん。
王様となったアルフリート王子は、感謝の印として俺に男爵の地位を寄こしたんでさ。
それで……、メリカに着いたばかりの頃はそりゃあもう忙しくって忙しくって。
裏の仕事と、貴族としての仕事、両方をこなさなきゃなりやせんからね。
特に裏の仕事は面倒でしたねぇ。
メリカは広いですから。
メリカの南の大陸、ラジリア公国も裏から支配せにゃなりやせんから。
と言っても、ジン様から流してもらっている上等な武器や防具、そして厳しい訓練で、武力はばっちりですし、人外国家の酒や麻薬は高値で売れやす。人に化けたサキュバスインキュバスの娼婦男娼は、一度味わうと人間じゃ満足できねえと評判でさあ。
破竹の快進撃ってやつで。敵対するチンピラ共を皆殺しにしたり、上手く商売をやっている奴を部下にしたり。
まあ、つまり、仕事はどんどん進んだんですよ。
でも、一っつだけトラブルがあった。
暗殺教団……。
多額の金と引き換えに、貴族だろうが何だろうが暗殺する連中でさ。
そいつらが、俺らの前に立ちはだかったんですよ。
まー、強えんですよこれが。
数は少ないんですがね、全員魔法がある程度使えて、消音の魔法で気配を消して、暗い夜道やベッドの上なんかで殺しにかかってくるんでさ。
正面から戦えば、だいたい勝てるんですがね、あいつらは正面からは戦わないんですよ。
こいつがまた厄介で、うちの精鋭がちょっと殺されちまいましてね。
なんで……、メンツ的にもよろしくないんで、皆殺しにすることにしやした。
そんで、暗殺教団を追いかけて二、三年。ついに暗殺教団のボスが捕まったんでさあ。
アササン、ってえ名前の、人間なら六十歳はいってるであろう見た目の爺さんでした。ハーフリングらしく、身体はちっこいですが、その眼光は油断してかかっていい相手じゃありやせんねえ。
「いやあ、手古摺らしてくれやしたねえ、爺さん」
「……カカカ!まさか、黒骸骨の指導者が、成り上がり者と噂のフェッソ男爵だとはな」
「ケケケ、知られたからには生きては帰せられやせんねえ」
「それで?どうするつもりじゃ?殺すか、儂を?」
「殺すには殺しやすがね。ただでは殺しやせんよ」
俺は拷問器具を取り出す。
「俺ァ、こう見えても医者でしてねえ。どうやれば人が死ぬか……、逆にどこまで耐えられるのか……、そういうのは詳しいんでさあ」
「カカカ、それは怖い、なぁっ!!!」
……縄、切ってたんですわ。縛られたフリして、俺の首を獲りに来たんですね。
「俺だって……」
「何ぃっ?!!」
「伊達じゃありやせんぜ!!!」
システマ……!!!
素手でも、頚動脈を狙ってナイフが振るわれたとわかるなら、対処は可能でさあ!!!
「完全な不意打ちなら危なかったかもですがねェ、真正面からの急所狙いなんざ、対処してくれって言ってるようなもんでさぁ!!」
「やるな!!」
隠し刀を抜く。この間合いなら銃より刃物の方が早いんで。
「シャっ!!!」
「遅え!!!」
刃と刃がぶつかり合って火花が散りやす。
クゥ〜、強えなこの爺さん!!!
速いんですよねえ!!
けど、力は俺の方が上、技量は同じくらいですかね?
でもまあ。
「ケケケ、これでどうです!!」
「何を……、ッアぁっ?!!!!」
スタングレネード……!
こいつぁ、便利ですよぉ。
これで目と耳を封じ、隙ができたところに!
「おっ、らあっ!!!」
「ぐっ、はあ?!!!」
思いっきり蹴り飛ばしてやりやした。
その後は、まあ。
あっさりと、黒骸骨の下につくって言うんで。
確かに、暗殺教団っつう手練れとネットワークがまるっと俺らのもんになるのは魅力的でさ。
だが、裏切るかもしれない?
ケケケ、そんなもん、ジン様に会わせりゃ一発ですわ。
いかに暗殺教団の長と言えども、魔人に転生し、魔王と化したあのお方の前では、あまりの力の差に自然と跪きましたよ。
ジン様が直々に、裏切ったら殺すと仰ったんだ。裏切れる奴なんていねえですわ。
ってな具合に、黒骸骨に暗殺部門ができやした、と。
その後は……、ドローグ、お前さんを拾ったくらいですかね。
え?
いや、そりゃあ、色々ありやしたよ?
けど、大きな出来事って言やあ、それくらいなんでさあ。
びっくりするほどスマートに、スムーズに事が進んだんで、あんまり話すようなことはありやせんのよ。
ま、毎日美味いもん食えて、良い女を抱けるんだ、自分がいい思いをしてるのは分かるでしょうよ?
今のメリカとラジリアが、王侯貴族はクズばっかりなのは、使いやすいクズをのし上げるように、有能で真っ当な貴族を、間者や暗殺で消して、クズを、賄賂を渡した裁判官や騎士に見逃させているからです。
どこの街にもヤク中が転がっていて、人気の娼婦はみいんな、人に化けたサキュバスインキュバス。
王侯貴族がこっそり飲むウイスキーやウォッカも、人外国家で二束三文で買えるもんを、馬鹿みたいな高値で売り捌いたもの。
古代の魔法やら魔道具だと売り捌いたもんは、全部人外国家産のもので、意図的に性能を制限されている。
有能な技師や魔術師、医者学者みてえな知識層は、アース教会の馬鹿共に「お布施」をばら撒いて、異端認定させて消している。
分かりやすかい?
つまり、人間はどんどんアホになって、弱くなっていくんですよ。
いやはや、「こっち側」に来れて良かった訳だ。
だから、まあ、言っておきますがね。
裏切ったら、お前も「あっち側」だよ。
フルボともだいぶ仲良くなりました。