ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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具合悪い。


51話 魔剣の勇者

「……ま!……様!」

 

「んぅ……?」

 

お母さん、起こすの早いよ……。後五分……。

 

「勇者様!!」

 

「……ふえっ?!」

 

………………?!!

 

え?ええ?!こ、ここどこ?!!

 

「勇者様、お目覚めになられましたか?」

 

は?え?

 

「……あの、勇者様?」

 

凄く綺麗な女の人に話しかけられている。

 

い、いや、私も女だけど、こんな美人に話しかけられるのは、何というか、緊張する!

 

「あの、貴女は?」

 

「私はメリカ王国第一王女、メルトリス・クレート・ディリジェンテです。我々、メリカ王国は、魔王を倒していただくために、勇者様を召喚いたしました」

 

……って、勇者様?!

 

「わ、私が勇者なんですか?」

 

「はい。カリン・ヤシマ様。貴女は異世界から召喚された、勇者様なのです」

 

こ、こ、これは!

 

ま、ま、まさか!

 

「異世界転移キター!!!」

 

いやーいやーいやー!本当に!私!そういうの大好き!ほんとすこ!

 

異世界転移とかオレツエーとかチートとか!

 

ハーレム……、はちょっと興味ないけど、そういう感じのやつ、大好き!しかも、見るからにファンタジーの世界だし!

 

勇者に選ばれるとか、最高にテンプレ!

 

……い、いやでも。

 

「ほ、本当に私が勇者なんですか……?」

 

「手の甲をご覧になってください」

 

手の甲……?

 

「こ、れは?」

 

黒い剣の刺青……、いや、焼印、みたいな……?

 

「それが、異世界の勇者であることを示す、『紋章』です」

 

か、かっこいい……!

 

「教会の神託によると、貴女は、『魔剣の勇者』……、魔剣に選ばれし勇者、と」

 

魔剣に選ばれしもの……?!

 

良いっ!かっこいいっ!

 

あれ?でもその、魔剣は?

 

「こちらが、フェッソ伯爵から献上された、聖王国の古の魔剣です」

 

黒い鞘に、金色の飾りが嫌味にならない程度についた、魔剣。

 

かっこいい!かっこいい!かっこいーーー!!!

 

「どうぞ、お手にとって下さい」

 

「は、はい……」

 

『……やっと出会えましたね、マスター』

 

「え、ええっ、も、もしかして、インテリジェンスソード?!!」

 

『はい、私はインテリジェンスソードのインドキロスと申します』

 

うーーーわーーー!!

 

最高!

 

喋る剣が相棒とか、もう、ファンタジーのお手本みたいなテンプレだよ!

 

「やはり……。魔剣であるインドキロス様は、マスターを探していると仰っていました。マスター以外には振るわれるつもりはない、と」

 

マスター……!

 

良い響き!

 

 

 

「勇者様には、邪悪な魔王の討伐をお願いしたいのです」

 

魔王……!

 

お約束だよね、うん。

 

「その、魔王って、悪者なんですか?」

 

「はい、最悪の存在です」

 

さ、最悪の存在。

 

「かつて、私の父、アルフリート王は、聖王国という聖なる地に住んでいました。しかし、そこの住民達の殆どは、考えられないような残虐な方法で殺されてしまいました。アルフリート王は、命からがら逃げ出し、ここ、メリカにて再起を図りました」

 

成る程……。

 

他にも、この世界の歴史について、軽く説明してもらう。

 

話を聞いたところ、魔王は本当に悪い奴らしい。

 

王道パターンだね。

 

でも……。

 

「私は、運動も勉強も得意じゃありませんよ?こんなんで世界を救うとか、本当にできるのか分からない、です」

 

「大丈夫ですよ、勇者様。勇者様には、アース様の加護がありますから」

 

「アース様?」

 

「アース様と言うのは、我々の信じる神様のことですよ」

 

成る程?

 

でも、こう、不思議空間で神様と会った、とかそんなことはなかったけど……?

 

……いや、でも、なんだか、そう言われると身体中に力が漲ってる気がする。

 

それと……、あれ?なんだか、魔法の知識がある?!

 

こ、これはまさか、噂の転生特典?!!

 

オレツエーできちゃう?!!

 

 

 

今日は休んでくれ、と豪華な部屋に案内されて、そこで休む。

 

……でも、飾りとかがゴテゴテしてて、邪魔だし、電気も水道もない訳だから、不便だ。

 

トイレも部屋にないし。

 

食事も大して美味しくないし。

 

成る程、異世界転生した人は、こんな苦労をしてるんだなあ。

 

次の日は、お城の訓練場の一角を借りて、インドキロスの指示で訓練をする。

 

剣術の基礎の基礎から、魔法のことなんかを習う。

 

近いうちにパーティメンバーに会わせてくれるらしいから、恥ずかしくないように、最低限は訓練しておこう。

 

 

 

×××××××××××××××

 

えー、まず、手の甲の紋章は魔術効果付きの刺青だ。

 

身体能力は十五倍に調整。

 

魔力は三倍に調整。

 

基礎的な魔法知識の埋め込み完了。

 

言葉も魔法で覚えさせた。

 

これらの身体改造魔法が人体にどんな害をもたらすかはまだ分かっていないが……、何せこいつは「インドキロス」だからな。クハハ。

 

魔法的マーキングにより、状況は筒抜け。

 

このマーキングは、人間では暴けないほどに巧みに隠されている。

 

現在はシェオルの魔王城の一室で、勇者の生活を観察している。

 

シェオルには、各国の城との魔法によるワープゲートを設置し、俺の下僕共が行き来する。

 

そして、この、『勇者モニタ』にて、勇者の生活を観察しつつ、酒を飲み、どうすれば面白くなるか意見交換をしている。

 

今日はリィンが来たようだ。

 

「ふあー、お仕事疲れたー」

 

「ふむ、よく働いているそうだな。褒めてやる」

 

リィンの頭を撫でる。

 

「えへへ、ありがと。お仕事は大変だけど楽しいよ!みんなに美味しいものを食べてもらえると嬉しいから!」

 

チェーン店と化したビストロ・グリーズは各国で大流行りだ。

 

ビストロ・グリーズは進化を続け、現在では所謂、日本風に言えばファミリーレストランに該当する店だな。

 

和洋中何でも提供、朝は軽食、昼は定食屋、午後はカフェ、夜はバーと全面対応。

 

オムライス、ハンバーグ、カレーライス、醤油ラーメン、ピザ、ミートソースパスタなんかが人気メニューらしく、ケーキや紅茶、コーヒーなども売れている。

 

何だったか……、刺身がジパング以外の地域ではあまり受け入れられないが、外国にいるジパング人のためにメニューを残している、しかし売れ行きは微妙、だとか。

 

既存の店舗との縄張り争いを避けるために、店舗の展開速度に気を配っているとか。

 

色々やっているらしいな。

 

まあ、その取締役であるリィンはそれなりに忙しい。

 

「ちゃんと休めよ。誰にでも休暇は必要だ」

 

「うん、だから大好きなご主人様に会いに来たんだよ」

 

「そうか」

 

それで休めてんなら、構わねえけどよ。

 

「それにしても、勇者ちゃん頑張ってるねー」

 

モニタには、四苦八苦しながらインドキロスを振り回す勇者の姿があった。

 

「そうだな。元は平和ボケの代名詞みたいな国のただの学生だった訳だからな」

 

「それじゃあ、ちゃんと戦えるように訓練しなきゃだもんね……」

 

「まあ、訓練は手を抜かせているがな」

 

「そうなの?」

 

「カースソードであるインドキロスには、基礎以外はあまり教えないように命じてある」

 

「何で?可哀想だよ、ちゃんと教えてあげなきゃ!」

 

「……いや、この勇者は殺す予定だぞ?」

 

「ええ?!そんな、酷いよ!こんなに頑張り屋さんな良い子なのに!」

 

……あー、やっぱりこいつはアホだな。

 

「あ、そうだ、じゃあご主人様がちょーきょーして、お嫁さんにすると良いよ!」

 

「はぁ?」

 

いや、殺す前に犯す気ではいるが。

 

「ご主人様はいっぱいお嫁さんがいるでしょ?もう一人くらい増えても良いんじゃない?」

 

あー……、まあ、良いのか?

 

「それに、学生さんなんだから、きっと物知りだよ!ご主人様の役に立てるんじゃないかな?」

 

「いや、たかがミドルスクールの学生に知識量で負ける訳がねえだろ。俺はあっちでは六十年以上過ごしたんだぞ」

 

「でも、ほら、多角的?に物事を見るためには、普通の学生さんの意見も必要じゃないかな?」

 

「ふん、馬鹿のくせに言うようになったな……。確かにそうだ。俺は傭兵で、一般人の視点は持てないからな。そう言う、一般人の思考の持ち主をこちら側に引き入れても良い、かもな」

 

「でしょ?この子、とっても頑張ってるから、幸せになって欲しいもん!」

 

ああ、ああ、そうだな。

 

「シアワセにしてやるとも、シアワセになァ……?」

 




前半勇者の話、後半魔族側。

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