三十層をクリアした私達は、次に四十層に挑む。
パーティメンバーの平均年齢は16歳、まだ時間はある。
冒険者は、四十歳になる前には大体引退するらしい。老いには勝てないんだって、やっぱり。
そもそも、この世界の人達は四十歳まで生きられるのは稀みたいだけど。
まあ、と言う事で、このマーレ領のダンジョンで、あと一年は訓練するようだ。
一年後には、フェッソ伯爵が船を出してくれるそうだ。
それまでに修行、頑張ろう!!
四十層ともなると、結構辛い。
インドキロスというアドバンテージがあっても、敵の強さは目に見えて違う。
確かに、インドキロスなら、急所に当てれば一撃だけど、素早い攻撃や多彩な魔法で、怪我が増えた。
五十層にもなると、骨にヒビが入ったり、たくさんの血が流れたりと、ダメージは大きかった。
本当に痛かったけど、カリーナさんに治療してもらって、なんとか治すことができた。
五十層では苦戦も苦戦。
かなり強いモンスターとの連戦を重ねた。
五十層のボス、ギガントバジリスクは物凄い力と、石化の魔眼があり、倒すのに十分もかかった。
物凄い攻撃力のインドキロスがあってなお、それほどの時間戦ったと言えば、どれほどの激戦だったか分かるだろう。
そして……。
「船の準備ができやした」
フェッソ伯爵のその一言を聞くと、私達は動き出した。
「ついに、この時が来たね……」
「ああ、訓練は終わりだ」
「旅出の時」
「全ては、魔王を倒す為……」
みんな、行こう。
旅の始まりの前夜。
みんなと、お酒を飲みながら話をする。
「にしても、カリンは頑張ったな、本当に」
「イザベル……」
私達の仲も、相当良くなってる。
私も、コミュ障だなんだと言っていたけど、流石に一年もすれば慣れてくるものもあり、今ではどもらずに話せるようになった。
「イザベルが、みんなが私を支えてくれたおかげだよ」
「最初はね、カリンは頼りなかったもんさ。オドオドしててちっこくてね。でも、今はどうだい?誰に対しても物怖じしない度胸もあるし、剣だって上手くなった。あんたは一人前だよ、カリン」
「えへへ、ありがと、イザベル」
エールの味にも慣れたものだ。
最初は飲めなかったけど、慣れてみると美味く感じる。
「カリン」
「何?シンシア?」
「魔王を倒したら、どうする?」
魔王を倒したら、か……。
「元の世界に帰りたい?」
「……分からない、かな。元の世界に帰って、読みたい本とかあるけど……、それより、みんなと離れたくないな」
「私達は、仲間」
「うん、一緒にいたい」
「それでは、この世界で生きる?」
「うん、多分ね」
「そうしたら、カリンは王族に?」
カリーナが言う。
「何で?」
「魔王を倒せば、きっと王族との婚姻の話も来ると思いますよ?」
「結婚かあ、そういうのはちょっとまだ分かんないかな」
「そうですか?」
そうだなあ。
「魔王を倒したら……、隠居して本屋さんになろうかな?」
「ははは、そりゃいい!」
「面白い」
「まあ、素敵ですね」
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「人工ダンジョンの実験はこんなものか」
A4数十枚にまとめられた論文を読み終えて、目の前のピトーネに返す。
ピトーネはその論文をアイテムストレージにしまう。
「それで、こっちが、人工ダンジョンによる農耕地拡張実験よ」
論文を読む。
内容は、人工的に作った巨大ダンジョンを、農耕、畜産、養殖などに利用すると言ったもの。
「ふむ……、実験室レベルでは成功しているのか」
「そうね」
「よし、この研究に関わった人員には十万ドラのボーナスを支給しておけ。そして国営事業にするぞ」
ダンジョンは別世界。昼夜はあっても季節はない。
今、人工ダンジョンは研究が進み、好きな広さの、好きな階層、好きな環境、好きなモンスターのダンジョンを作れるようになった。
つまり、無限の土地があるということだ。
それを利用し、農耕、放牧、魚の養殖などに利用するということになっている。
やがては、ダンジョンの中に街を作り……、などとは考えてある。
「にしても、魔空間学の研究も大分進んだな」
「デーモン族とエキドナ族が頑張ってるもの」
「ふん、頑張る?結果が全てだ」
「でも、結果が出てるんだから、頑張ってるってことじゃないかしら?」
「ふむ、そうだな、そう言えるだろう。まあ、結果さえ出せば予算や給料は適切に出す。それだけだ」
俺はワイングラスを傾ける。
ふむ、香り良し。
一口、口に含む。
味も良し、か。
「ファーティマー一級の高級ワイン、『マールス』よ」
「火星か」
「そう、火星みたいに少し淡い色合いでしょう?これは『フランソワ』って言う特別な葡萄で作ったワインなのよ」
「ほう」
「『フランソワ』は品種改良でできた葡萄で、アルカディアのファーティマー地方でのみ育てられているの。ファーティマー地方の土壌と、妖精による促進栽培法で、今までのワインとは画期的に違う、新しい方法で作られたの」
「成る程な、新しいもの好きのお前が好む理由はよく分かった」
「まあ、新しいもの好きなのは自覚してるけど。それだけじゃなくって、味も香りも良いじゃない?」
「確かにな。これのヴィンテージものが十万ユニコで取引されていたな」
「ええ、ヴィンテージものはウチにいくつかあるけれど、当たり年のものなんて十万ユニコを軽く超えるわよ」
ふむ……。
どこの世界でも、良い酒にはいくらでも払うやつがいるってことか。
「ふむ、この味のためなら、十万ユニコくらいは惜しくはないな」
因みに、俺や各国の指導者の収入は莫大なものになっている。
酒なんざいくらでも飲める。
それに、指導者が贅沢をするのは義務だぞ。
清貧な指導者の下では、民も清貧に過ごすしかないだろう?
過度な浪費は良くないが、適切な消費は経済の活性化に繋がるのだ。
俺は末端の使用人にまでしっかりと給料を払うし、時間外の過度な労働もさせない。休暇も出す。
故に、使用人達までもが、プライベートにて適切な消費活動を行う。
例え吹けば飛ぶような小作人にも、適切な給料と休日を出させるように徹底してある。
この労働法を破れば犯罪だ。割と大きな罰金になる。
故に、資本家達も高額な罰金を恐れて、過度の労働を課すことはない。
また、資本家達も、バカンスだパーティーだと、大きく消費してくれる。
それにより、人外国家の景気は良い。
どれくらいかと言うとジャズエイジのアメリカくらいの好景気だ。
人工ダンジョンにより、無限に増える資源がある。
富の分配は公平であり、信用取引も制限、相場も調整してある。
そもそも、人外国家は、どこか一国が栄えるのではなく、相互に貿易し合い、富を流動させている。
世界恐慌は人外国家には来ないだろう。
イタチ兄さんのメガテンも良かった。血の気の多いペルソナも良し。