ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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魔剣の勇者編もそろそろ終わり。


69話 魔王城へ

船旅はやることがなくって退屈だなぁ……。

 

それに、この船旅は二ヶ月もかかるらしい。

 

船ってそんなに遅いんだ。

 

船の食事は美味しくないけど……、かなり大きい船だから、普通の船よりはマシだそうだ。

 

普通の船だと、食料がなくなって革製品を食べたりすることもあるんだとか。怖いなー。

 

って言うか……。

 

「ゔうー」

 

酔う!!!

 

揺れ凄い!!!

 

 

 

グロッキーになりながら、毎日殆ど寝て過ごした。

 

パーティのみんなも、船には慣れていないらしくて、殆どそんな感じ。

 

そして。

 

「つ、着いた……」

 

やっと陸地へ。

 

うー、まだなにか揺れてる感じがする……。

 

「ここが魔大陸なの?」

 

「いえ、ここはスパシアだと思います」

 

カリーナが言った。

 

「スパシア?」

 

「ヨロパ地方の西の端にある国でした」

 

でした、ってことは……。

 

「数十年前、魔王の虐殺により……」

 

「そっか……」

 

亡国スパシア……、何も残ってない。

 

「兎も角、進まなきゃ話にならないよ。進路はこっちだ」

 

イザベル……。

 

「うん、そうだね。みんな、行こう!」

 

 

 

かつてスパシアだった場所を横切り、東へ移動。取り壊された家や、焼けた畑なんかがある。

 

三日ほど歩くと……。

 

「きゃあ!人間だ!」

 

「捕まるよー!」

 

「助けてー!」

 

妖精……、がいた。

 

「あっ、待って!」

 

私は妖精さん達を追う。

 

「い、虐めないでー!」

 

「虐めないよ!」

 

「……悪い人間じゃない?」

 

「うん、悪い人間じゃないよ。お名前は?」

 

「僕、パック……」

 

「パック君って言うんだね。その、道を聞いても良いかな?」

 

「……うん、良いよ」

 

「魔大陸って、どっちかな?」

 

「魔大陸……?!だ、駄目だよ!魔大陸にはそれはそれは恐ろしい魔王がいるんだよ!」

 

妖精さん達も、魔王を恐れているんだ……。

 

やっぱり、魔王は倒さなきゃ!

 

「私達はね、魔王を倒しに来たんだ」

 

「ほ、本当に?!」

 

「うん、だから、魔大陸がどこにあるか教えてくれると助かるんだけど、分かる?」

 

「僕、案内するよ!怖いから、魔大陸の前までだけど……、そのかわり、絶対に魔王を倒してね!」

 

「分かったよ!」

 

 

 

パック君の案内で、数ヶ月間くらい移動する。

 

途中で、運良く果物が沢山ある森や、魚がいる川、食べられるモンスターと遭遇して、食べるものには困らなかった。

 

沢山のモンスターと戦い、激戦を潜り抜け、魔大陸の前についた!

 

「僕はここまでだよ。絶対に魔王を倒してね!約束だよ!」

 

パック君と別れて、たまたまあった船を何とか操作して、魔大陸についた……!

 

決戦だ……!

 

 

 

×××××××××××××××

 

「ねえジン君ジン君!うちのパックの演技、どうだった?」

 

「良かったぞ」

 

「あら〜!良かったわぁ、帰ったら褒めてあげなくちゃ!ねえオーベロン?」

 

「ああ、ティターニア!彼には国民栄誉賞を授与しよう!」

 

 

 

今日はヘスペリスのオーベロン夫妻が来ている。

 

「他の子達も、人間が考えているようなお馬鹿なフェアリー族って感じの演技がとっても上手だったわ〜!あの子達にも金一封あげましょう!」

 

「もちろんだともティターニア!彼らにもしっかりと報酬を渡そう!」

 

「……で?何しに来た?」

 

「「フェアリー族の演技を見に」」

 

そうかよ。

 

勇者モニタはお前ら全員に渡したはずなんだがな。

 

「うちの子達の頑張りをジン君に見てもらいたかったと言う親心だよ!」

 

「確かに、フェアリーに指導して回ったのは俺だが」

 

「いやー、良かったなー!道中の会話も完璧で、アドリブにも答えられて!パックはヘスペリス一の俳優だよ!」

 

あー、なんつーか、推している芸能人の追っかけみたいなもんか。

 

なんだかんだ言って、こいつらは数千歳の年寄りだ。

 

若い俳優を追っかけるのもおかしくはないだろう。

 

まあ、フェアリーは基本的に人間を嫌っているからな。

 

人間はフェアリーを捕まえると羽根や手足を捥いで、魔力を無理矢理出させて、薬箱代わりにする。

 

フェアリー族の魔力には生命力を増進させる効果があるからな。

 

そんな扱いをされているフェアリーが敵愾心を抱くのは仕方のないことだ。

 

そんな中、人間と数ヶ月間旅をしてボロを出さなかったのは中々の名演技と言えるだろう。

 

「あれがマリーの選んだ人員か……」

 

「そうだね、マリーちゃんが勇者についていく人外の存在を探しているって言うから、オーベロンと相談して決めたのよ〜?パック君はね、フェアリー族の中でもとっても演技派で、この前は映画の主演男優にもなったのよ〜?」

 

「いやあ、昔はいたずらっ子だったのに、あんなに立派になって……。映画も良かったよ、特にクライマックスでの迫真の演技は素晴らしいの一言だよ!」

 

そうかい。

 

 

 

人外国家において、マナーというものは基本的に存在しない。

 

ナイフやフォークは存在するが、外側から使うとか、肉料理ではこれ、魚料理ではこれとか、スープは啜らないだとか、その手のマナーがないのだ。

 

皿を舐めるなだとか、食事中に本を読むなだとか、そんな最低限のマナーと思われるものもない。

 

何故か。

 

それは、人外種があまりにも多様性に富むからだろう。

 

例えば、ハーピィやワーバッド。

 

奴らはそもそも、両腕が羽だ。

 

どのように食事をするのかというと、生まれた時から使える念力の魔法で、フォークやスプーンを使い、時に食品をそのまま持ち上げて食べるのだ。

 

この時に、念力の魔法が上手いハーピィは、ナイフやフォークを使わずともステーキを一口大に千切って切り分けることができるし、また、この手の種族が得意とする風の魔法なら、空気の刃で食品を切り分けることが可能だ。

 

そもそも切り分けずとも、そのまま念力で持ち上げて齧り付くこともある。

 

スプーンを態々使わなくても、念力の魔法なら一口分のスープを取り出せるし、皿ごと持ち上げてそのまま啜ることもできる。

 

念力の魔法が下手な奴は、皿を直接持ち上げたり、フォークでかき込むように食べたりもする。

 

そもそもナイフもフォークもスプーンも上手く使えない連中に、人間のマナーを強制する意味はないだろう。

 

また、クーシーのように、口の形が人間とは異なるもの、スライムのように、そもそも口がないものもいる。

 

クーシーは犬の様な口をしているので、ストローが使えない。平皿の飲料を舐めるのが基本だ。

 

スライムは……、口がないと言うか、全身が口だ。食器を持ち上げて、頭や胸にぶち込んで、食器だけを排出する。そして、体内に残った食材をゆっくりと溶かすような感じだ。エレメンタル系の種族も同じ様な感じらしいな。

 

そして、フェアリーなどは、そもそもが体長15〜18cm程の種族だ。

 

大きさが人間の十分の一程、つまり体重は三分の一乗程だろう。すると大体、3〜4kg程だ。

 

3〜4kg程の体重の種族が一体どれほど食事するのか?

 

人間なら大体、一日につき1〜2kgほど食べるだろう。すると大体、フェアリー族の食事量は10g程になるか……?

 

いや、確かに、アヒルなどは自分の体重の20%は食べる……、いやしかし、フェアリーの食性は小さい人間と言ったところだしな。

 

まあ、大体10g程食べると思う、多分。詳しいデータは調べれば出てくると思うが……、今は手元にない。

 

10gと言うと小さじ2杯目、塩漬けオリーブなら3、4個、卵なら6分の1くらいか?

 

1日3食分として、一食分ならたったの3g……。

 

俺に支配される以前は、果実を分け合ったり、花の蜜を吸っていたりしたらしいが、それも頷ける話だな。

 

故に、だ。

 

フェアリー族は基本的に、食事量は少ないので、値段も割引されて百分の一程。そして、その小さな体躯から、テーブルの上に座って食事をしても許される。

 

気の利いた店では、フェアリー族用のミニチュアの様な椅子やテーブルであったり、クッションであったりを置いていることもある。

 

少額の紙幣を丸めて鞄に入れ、なるべく集団で飲食店に入るのがフェアリー族の基本らしいな。

 

逆にケンタウロスやラミア、オーガなどの身体の大きな種族は食事量も多い。

 

人間の数倍から十倍近くの食事を摂る。

 

故に、連中は食費が嵩むらしいな。

 

特にラミアなどは、その消化器官の関係から、噛まずに飲み込む様に食べることが多い。

 

 

 

……まあ、そんな訳で、ヘスペリスの代表の二人である、オーベロンとティターニアは、今、俺の目の前で机の上のピンクッションの様な小さなクッションに座り、極めて小さく焼かれたクレープ生地にシロップをつけて食べている。

 

その姿は……、女共が表現するには「とっても可愛い」らしい。

 

俺からすれば、人形遊びをしているような、なんとも言えない気持ちになるのだが。

 

因みに俺はストロベリーサンデーを食べている。

 

「しかし……、悪辣だね、相変わらず」

 

「そうよねぇ、気の毒になってくるわ」

 

「何がだ?」

 

「「だって……」」

 

 

 

「「勇者を誘導したあそこ、シェオルじゃなくって、レムリアの体育会場なんだもの」」

 




次はバカンスという名の異世界侵略編です。

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