え?本編?イージーの一面で死んだよ?
原作知識は書籍とネットがメインです。許して。
0 : Prelude
東方緋紅皇
「はぁ、最悪、ね。月への侵攻の件、先送り確定。仕事は倍増、気苦労も倍増、休みは半減……、良いことなし」
いかなる時も、泰然自若とした態度を崩さない我が主人、八雲紫は、苦虫を噛み潰したような貌をした。こんな表情は、今までお仕えして以来一度も見たことがない。
「…………紫様、その、緋紅皇とは、其れ程の者なのですか?」
確かに、あれ程巨大な館を外の世界からここ、幻想郷に転移させる魔術の腕は賞賛に値するだろう。しかし、その程度の術ならば、紫様はおろかこの私、八雲藍にも可能だ。
大妖怪の中の大妖怪である、紫様が恐るるに足る程の者か?そう思えてならない。
我が主人、八雲紫は、九尾狐であるこの私を使役し、尚且つこの幻想郷の創造及び管理をなさるお方だ。その力がどれ程強大なのかは、この私でも良く理解しているつもりだ。
正に「絶対」の存在である紫様が、何を危惧するのか、その必要はあるのか、私には疑問に思える。
「…………私は、決して絶対の存在などでは無いわよ、藍」
「……!」
読まれていた。紫様には、私の浅薄な考えなど、お見通しなのだろう。
「貴女は偶然、あの男に会ったことが無いだけよ、藍。…………あの男は、強いわ。私よりも」
……まるで、信じられない話だ。主人の言葉を信じられないとは、本来あってはならない事だが、それでも私は、紫様のお言葉を疑ってしまった。
「信じられないかしら?でもね、藍、世の中は広いのよ?この幻想郷よりもずっとね……。さあ、着いたわよ」
……分からない。結局、件の男の実力は知ることができなかった。あとは、会ってみる他ない。そうして、思考を打ち切り、館の前にいる給仕服の女に声をかける。
「すまない、この館の主人はいらっしゃるだろうか?」
「はい、八雲紫様ですね、お待ちしておりました。どうぞ、此方へ」
……妖力を感じない?まさか、人間?件の男は吸血鬼と聞いたが、吸血鬼が人間を飼っているのか?……益々分からない。
またも思考に耽っていると、私と紫様は、給仕の女に連れられ、大きな部屋の前に通された。
……成る程、確かに、とんでもない妖気だ。少なくとも、私以上の妖力はあるだろう。紫様にも匹敵するやもしれない。部屋に入らずとも分かる。
「此方が玉座の間となっております。……くれぐれも、失礼の無いようにお願い致します」
「……何だと?貴様、人間風情が、吠えたな?」
給仕服の女は、まるで挑発などしていない、当然のことをしたまでだ、と言わんばかりの態度でそう告げた。私は当然、怒りを露わにしたが、女は、どこ吹く風と聞き流し、扉に手を掛けた。
「…………さあ、我等が魔皇の御前です」
そうして、女は、豪奢な扉をゆっくりと開く。
瞬間、冬風が駆け抜けるような感覚。
「(…………何だ……?……これは、何だ?!)」
尻尾が逆立つ。肌が粟立つ。身の毛がよだつ。血が凍る。………………恐怖。数百年振りに感じた「絶対的な死」の気配。驚異的な重圧。
「くっ……、は…………!!」
思わず、片膝をつく。
その時、玉座に座す男が、此方を見る。
「…………九尾狐、か?大妖怪だな……。強いのか……?」
まるで、魂の奥底まで見透かされる感覚。紫様のそれとは違い、直接この身を裂かれ、中身を見られるかのような感覚だ。
「駄目よ、皇様。彼女は、貴方の御期待に添えるほど強くないわ」
紫様は、この濃密な殺気を出す相手に平気で話かける。
「…………そう、か。それは残念だ……」
すると、先程までの殺気と重圧はまるで嘘のように霧散し、またその妖気も鎮まった。
「……さて、折角来てくれたんだ、歓迎しようじゃないか」
……勝手にこの幻想郷に来ておいて、この尊大な態度。しかし、それが許されるだけの力がある。成る程、紫様が嫌がる訳だ。
ある程度、余裕を取り戻した私は、玉座の男を見る。
……癖のある緋色の長髪。紅色の瞳。口髭。西洋の彫刻の様な肉体。黒曜石のような色と質感の翼は全身を覆う程に大きい。……この男は、確かに魔皇を名乗るに足るものを持っている、そう感じさせる容姿だ。
「……歓迎、ね?悪いけれど、遠慮しておくわ。私、忙しいの。いえ、誰かさんのせいで、忙しくなったと言った方が正しいわね」
紫様が嫌味を言う。当然だろう。此れ程の大妖怪が、一つの勢力を引き連れ、急に幻想郷に現れたのだ。故に今、幻想郷のパワーバランスは大いに揺れている。
「ああ、それは大変だ、何か手伝えることがあれば言ってくれ給え、手を貸してあげよう……」
男は、紫様の嫌味に対し、親身になったかのような雰囲気で言う。何と言う不敬、何と言う不遜。
「あら、それなら、忙殺の原因さんにはいなくなって貰いたいわね」
……見え透いた挑発。だが、幻想郷の管理者が侮られてはならない。恐らく、この挑発の意図は二択の問いかけ。すなわち、この挑発に乗るなら戦う、乗らないなら様子見と言ったところだろう。
……だが、この男は、第三の選択肢を選ぶ。
「……何だ、そんなことか。ならば簡単だ、殺せば良い、殺しなさい。世の中には、言っても聞かない愚か者もいるからな。これはもう、処刑する他ない」
「……分かっているでしょうに、忙殺の原因は貴方よ、アーヴィング・スカーレット」
……理解出来ん、何故、あのような振る舞いを?真剣味を帯びた表情で助言など、挑発に気づいていない訳ではあるまい。挑発に乗ったとも、乗らないとも取れる態度の意図は何だ?
「………………はっはっはっは!!戯れだ、許せ。……折角だ、妖怪の賢者殿に処刑を頼もうか。さあ、殺し給え」
分からない!まるで理解が出来ない!戯れだと?自分を殺せだと?何の冗談だ?!
「そう、それじゃあ、遠慮なく」
そして、開かれるスキマの斬撃。あの男の全身は、あの男のいる空間に重なるように開かれたスキマによって、原型を留めないくらいに破壊された。
スキマ……紫様の、『境界を操る程度の能力』……。破壊と創造を司る万能の力によって作られるもの。今回は、空間そのものの境界を破壊したのだろう。
男の様子は酷いものだった。首は断ち切られ、頭は、顔が認識出来ないくらいに切り刻まれている。はらわたは千切れて飛び出て、手足も挽肉のよう。脳漿と髄液が床に飛び散り、血液が床に広がっている。……即死だ。
だが、おかしい。
周囲に控える男の臣下は、男の死をまるで意に介していないのだ。
目の前で、自分達の主人が殺害されたというのに、だ。
気味が悪い……。
「クスクスクス、……ふけい、フケイ、不敬だよ、不敬だよね、お兄様?あいつら、不敬だ。…………壊す?」
長い静寂の後、聞こえてきたのは童女の声。小鳥のさえずるような、小さな笑い声と共に、膨大な殺意の篭った言葉。
「あら?私は、皇様の指示に従っただけよ?殺される謂れはないわね?」
「ああ、ああ、フランドール、フランドール……。止めなさい、無駄な争いはいけない事だよ、フランドール……」
「なっ…………!馬鹿な!確かに死んだ筈だ!!」
思わず声を上げてしまう。だが、先程見た死体は本物だった筈だ、空間ごと切り刻まれた筈だ、幻術の発動も全く感知出来なかった、本当に、死んだ筈だ。……あり得ない。
何故、どうして、どうやって……、そんな考えが頭に浮かんでは消える。
……おかしいのだ。確かに、吸血鬼は不死性に優れる種族だと聞く。だが、白木の杭、銀の弾丸、十字架、聖水、日の光……、数多くの弱点がある。大体、首を刎ねられ、頭を割られても生きている事など、どんな大妖怪でも到底不可能だ。あの状態から、この早さで再生など、出来て良い筈がない。
「ああ、驚かせてしまったね、マドモアゼル……。死なない化け物を見るのは初めてかな?」
まるで世間話をする様な声音で話しかけてくる男。
「……す、すまない、不敬は詫びよう。気を悪くしないでくれ」
私は、男に対して謝罪した。この様な得体のしれない化け物に太刀打ちできない、そう思ってのことだ。
「成る程、『認識されなくなる瞬間、即時に再生する』と言ったところかしら?」
何かを考え込んでいた紫様は、そう言った。あの男はそう言った能力を持つのだろうか?
「おお、正解だよ、八雲紫……。その通り、私は、他人の認識下にない時は即時に再生ができる。中々どうして、君は賢いな……。流石は賢者と言ったところか?」
事も無げにそう告げる男は、紫様以上の余裕が見られた。理解出来ん、手札の一つをこうも簡単に晒すか?能力の弱点を素直に吐くか?
「……でも、貴方の能力はそれだけじゃないでしょう?是非、教えて貰いたいわ?」
「…………ふむ……」
「手伝えることがあれば言ってくれ、と言ったのは貴方よ?それとも、魔皇ともあろうものが虚言を弄するのかしら?」
紫様の言葉を聞き、あの男の臣下の数人は此方を睨み付けてきた。
だが、あの男自身は、微笑を浮かべている。本当に、気味が悪い……。
「……良いだろう、私の能力について、だな?話そうじゃないか……」
その言葉は、何故か私達だけでなく、あの男の臣下をも驚かせたようだ。まさか、能力について誰にも話していなかったのか?確かに、幻想郷でなければ、手札を伏せる為に能力を言いふらさないのは当然だろう。だが、それを、今この場で話すのか?何故この場で?それは信用出来るのか?
「……私の能力、それは『世界を操る程度の能力』だよ……。故に、三千世界に私の死は無く、……故に、三千世界に私の勝利がある……。まあ、この能力は使い勝手が悪いものでね、私の事は、ただ死に難いだけの男だと思ってくれて良い……」
馬鹿な、世界を操る、だと?そんなこと、あって良い筈がない!それは正に、紫様の能力以上の反則だ!
しかし、紫様はこう返した。
「はぁ、やっぱり、ね……。出来れば、当たって欲しくない予想だったんだけど……」
他でもない、紫様の言だ、きっと正しいのだろう。だか、到底信じられない。いや、信じたくないものだ。あのような危険極まりない男が、世界を操る、という強大な能力を持つなど、悪夢と言って差し支えない。
「……これで良いかな?聞きたい事はもう無いか?手を貸すと言った以上、約束は守ろう……」
「あら、嬉しいわ。でもお断りよ、貴方に借りなんて作れないもの……。帰るわよ、藍」
「は、はい」
私は紫様に呼び掛けられ、スキマへと入る紫様に着いて行く。
「待ち給え」
「ッ!?」
呼び止められた?!不味い、どうする?無視するか?いや、そういう訳にもいかん!即座に思案し、対応する。
「……どのような御用件でしょうか、緋紅皇様……」
「……何、私達は新参者だろう?手土産の一つくらい渡さねば、な?」
手土産だと?怪し過ぎる、受け取れるものか。
「ご厚意に感謝致します。しかし、緋紅皇閣下から直接土産など、とても受け取れませんよ。お気持ちだけ頂いておきます」
「成る程、では、咲夜よ」
あの男が指を鳴らすと、どこからともなく、先程会った給仕服の女が現れた。
「此方を」
「い、いや、ですから、私は」
何なのだ一体?まさか、断らせないつもりか?そうまでして何を渡す?渡してどうするつもりだ?
「……ククク、私が直接渡すことはしないさ……。だが、私の忠実な僕が、気を利かせて、客人に土産を渡すのなら、問題は無いだろう?」
……酷い屁理屈だ。そうまでして、何を渡す?まさか毒か?いや、今手元に押し付けられたこれからは、そんな臭いはしない、葡萄とアルコールの匂い、ただ単に上等な葡萄酒だ。ならば呪いか?いや、私を害する程の強力な呪いならば流石に気付く。何の仕掛けも見当たらない。しかし、こうして無理矢理でも渡された以上、返すことなど出来んな……。
「わかり、ました、では、有り難く頂戴致します……」
一言礼を言い、酒を受け取る。……間違いない、本当にただの酒だ。毒も呪いも何も無い、ただただ上等なものだ。一体、何が狙いだ?私を、どうするつもりだ……?
「……おお、受け取ってくれるか、嬉しいよ、マドモアゼル。……中身は、この館で造った酒だよ、是非、君の主人に渡してくれ給え……。そして、感想を教えに、またここへ来ておくれ……。今度、この館でパーティを催す予定でね、招待状も同封しておいた、来てくれるね……?」
…………やられた!この男の狙いは私なんかではない、紫様だ!……今思えば、数々の不可解な行動にも説明がつく。全ては、この私を揺さぶり、この招待状を渡す為だったのだ!……普段マヨヒガに住む紫様に、招待状を渡すことは不可能だ。しかし、この男は、私を使って、まんまと紫様を呼びつけたのだ!そもそも、今直ぐにここに来た理由も、この男に時間を与えたくないからだった。しかし、後日開くパーティ、と言う形で何らかの準備をされた時に呼び出されるなど、確実に何かあるに決まっている!
クソ、失態だ!失態だこれは!私の落ち度だ!従者である以上、主人宛ての招待状を渡されては、断ることも出来ん!
「……おや?どうかしたかね?帰り道でも忘れてしまったのかな?」
……馬鹿にして……!!
「クッ……!失礼致しました…………!!」
しかし、逆らうことは出来ない。主人が敵対を避けたがる相手に食ってかかる事など許されない。
私は、自責の念に駆られながら、足早にこの紅魔館を去った……。
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さあ、やって来たぞ幻想郷。元は確か本屋のドラ息子、今は誰もが恐れる大魔王。人生、何が起こるかわからんなー。あっ、俺人じゃなかったわ。あっはっはっは。はぁ。
……本当に、どうしてこうなったんだ?もう覚えちゃいないが、俺は昔、人間だった。「吸血鬼なら元は人間でおかしくないだろ」と、思うだろうが、そういう意味じゃない。俺は、「西暦2000年頃」の人間だったのだ。
……でもな、俺今、確実に2000年以上生きてるんだよ。と言うより、俺の一番古い記憶は、恐竜と殺し合ったことだ。うん、恐竜と言えば、俺が人間だった頃、西暦2000年頃から、一億年位前だな。何故、一億年も昔に、吸血鬼になって飛ばされたのか、全く見当もつかないが。
飛ばされたあとは、恐竜と戦い、何故かいる人間とも戦い、また何故かいる他の妖怪とも戦い……、その後、神から魔物、天使から悪魔まで、余すことなく戦い、倒してきた。「何でそんなに戦ったんだ?」と自分でも思うが、まあ、馬鹿みたいに長生きなので、暇だったんだ。良く考えてみろ?一億年だぞ?暇なんて潰しても潰しても潰しきれない。暇潰しの選択肢に殺し合いが入ってもおかしくないのだ。
そんな俺は、寿命も何も無いらしく、全くもって死ぬ気配がないので、いい加減隠居をしようと思った。何の因果か、二人の義妹もいるし、強いやつはいないし、段々と世の中に娯楽が増えてきたし、良い時期だと思う。
今後は、この長閑な幻想郷で、紅茶を飲みつつ、ゆっくりと読書をして過ごすのだ。
「……兄様、これから、この世界の管理者がここを訪れます」
義妹のレミリアが突然そう断じた。『運命を操る程度の能力』を持つが故に、未来が見えたんだろう。
「……そうか、分かった」
どうしても、言葉少なになってしまう。……恐らく、一人でいた期間や言葉の通じない連中と戦っていた期間がとんでもなく長いからだろう。それに、例え俺が喋らなくても、優秀な部下達が何とかしてくれる。……助かってはいるが、皆んなの前では王様っぽい態度をとらなきゃならないのが辛いな。
「お客さんが来るの?それじゃあ、歓迎しようよ、お兄様!パーティを開こう!私、お兄様が作ったパンナコッタが食べたいわ!」
楽しそうにそう言うこの少女は、もう一人の義妹、フランドール。かつては狂気に苛まれていたが、今は安定してきた。
「ああ、ああ、勿論だともフランドール……。苺の美味しいソースを沢山かけよう、クランベリーのジュースも作ろう、盛大で楽しいパーティをしよう……」
うむ、パーティか、やるなら来月、この幻想郷の住人に挨拶をしてからだな。料理も久しぶりだ。クソ長い人生の暇潰しに料理も極めてしまったし、たまには俺も何か作るか。取り敢えず、これから来る幻想郷の管理者……、確か八雲紫だったな、昔会ったことがある……彼女に招待状を渡そう。何せここの管理者だ、つまり、大家だな。接待の一つくらいしなきゃな。
なので俺は、ササっと招待状を書くと、うちで造ってる酒を持って来させ、その木箱に同封した。ただ招待状を渡すより、自慢の葡萄酒と渡した方が良いだろう。咲夜に預け、帰りに渡すように指示する。
やがて、この紅魔館に二つの妖気が現れる。片方は八雲紫だが、もう片方は知らないな、だが大妖怪クラスだ、戦ったら楽しめるか?などと思いつつ、威厳を出すため、無駄に妖力を放出。うん、王様っぽい。
そして、玉座の間の扉が開く。八雲紫、文句無しの大妖怪だ。手合わせ願いたいところだが、管理者にそうは言えない。……だが、隣にいる九尾狐はいいかな?戦ってもいいのかな?大妖怪クラスなんて久々だ、あとで手合わせを……、
「駄目よ、皇様。彼女は、貴方の御期待に添えるほど強くないわ」
チッ、駄目か。じゃあ諦めるか。仕方がない。何だか、片膝ついて具合悪そうだしな。ちょっと気が抜けたわ。
その後は、八雲紫と一言二言言葉を交わすと、「誰かさんのせいで忙しい」と言われた。
うーん、良く分からないが、言っても分からん奴は殺すしかないんじゃないかな。道徳的にはアレだが。長年王様やってきたけど、そういう奴いっぱいいたしな。一人を許すと、「じゃあ俺も」ってなるから、やっぱり厳しく処罰した方が良い。
「忙殺の原因は貴方よ、アーヴィング・スカーレット」
……えっ、ああ、これ、嫌味だったのか?!分かりづらいんだよな、表情をあんまり変えないから。うーん、どうするか、ここはいつもので誤魔化すか。
「戯れだ、許せ」
こう言っておくと、カリスマを維持しつつ、ミスが許される。そして、一回攻撃させてあげよう。大体のやつは、こうして攻撃させてやると大人しくなる。「くっ、何だと?馬鹿にしやがって!俺の最大の技を受けてみろ!!」ってなってから「そ、そんな!俺の最大の技が通用しない?!」となって勝手にビビって服従してくるからな。
そして、飛んでくる斬撃。回避は出来たが、あえて当たる。瞬間、激痛と共に全身がバラバラになった。特に頭は三割増しくらいの攻撃量。殺す気満々だな。
あー痛え。もう慣れたが、それでも痛いもんは痛い。さっさと再生しないとな。
俺の能力、『ギャグコメディ補正をかける程度の能力』でな!
この能力は、その名の通り、ギャグコメディ補正を自在にかける能力だ。例えば、デフォルトで、ギャグコメディらしく『どんなにダメージを受けても死なない』という現象がある。
そして、ギャグマンガなどで良くある、『次のコマで怪我が治ってる』現象。これは、『他人の認識外にある時、瞬時に再生する』という形で発現する。この他にも、再生や回復は可能だしな。ギャグコメディ補正がある以上、どんなに死にたくても死ねない。
……結論から言うと、八雲紫はノーリアクションだった。微塵も驚いてないな。手下の九尾狐は相当驚いたみたいだが。……八雲紫、凄いな、これを見て驚かない奴は久しぶりだ。
その上、能力について教えろと言う。……困るな、今まで誰にも話してないんだよ。だって、『ギャグコメディ補正をかける程度の能力』なんて正直に言えるか?義妹二人は、『運命を操る程度の能力』と『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だぞ?大ボスである俺がギャグコメディ補正なんて、カッコつかないだろ?
だが、八雲紫はこう畳み掛ける。
「手伝えることがあれば言ってくれ、と言ったのは貴方よ?それとも、魔皇ともあろうものが虚言を弄するのかしら?」
む、そう言われるとぐうの音も出ないな。……どうするか、『ギャグコメディ補正をかける程度の能力』を、何となくかっこよく、魔王っぽく表現する……。義妹達は『運命』と『破壊』だし……、俺は『世界』なんてどうだ?うん、思いつきだが、バッチリだ。確か、タロットカードの二十一番目、最後のカード。魔王らしくて実にいい。
「……私の能力、それは『世界を操る程度の能力』だよ……。故に、三千世界に私の死は無く、……故に、三千世界に私の勝利がある……。まあ、この能力は使い勝手が悪いものでね、私の事は、ただ死に難いだけの男だと思ってくれて良い……」
まあ、大体は合ってる。要するに、現実の書き換えなのだから、世界を操ると言ってもいい、だろう。多分。
「はぁ、やっぱり、ね……。出来れば、当たって欲しくない予想だったんだけど……」
えっ?こんな感じで誤魔化せたのか?まあ、良いか。誤魔化せたんならそれで良い。
緊張の一瞬を乗り切って、無事カリスマを維持出来た俺は、気を良くして八雲紫に手を貸すと言ったが、八雲紫はそれを断り、帰って行った。
……ん?何か忘れているような?
あ、招待状だ!しかし、八雲紫はもう帰ってしまった。仕方ないので、手下の九尾狐に話しかける。
「待ち給え」
お土産……、俺が造った自慢のワイン、名付けて紅魔館スペシャルを渡す。このワインは今まで生きて数多くの酒を飲んできた俺の味覚と、咲夜の能力によって造られた最高級品を超えた最高級品……。正直言って、これより美味いワインはこの世にもあの世にも存在しないだろう。……だから、自慢したくてしょうがないのだ!
だが、恐縮されてしまった。成る程、流石は八雲紫だ。ビジネスマナー的なものをしっかりと仕込んでいるんだな。と感心する。だから俺は、気を利かせて咲夜を使う。
「……ククク、私が直接渡すことはしないさ……。だが、私の忠実な僕が、気を利かせて、客人に土産を渡すのなら、問題は無いだろう?」
我ながら素晴らしい機転である。ワインを受け取ってくれた九尾狐は、一瞬固まる。
分かるぞ、そのワインの価値に気付いたんだな?まあ、匂いの時点で最高級品だと分かるか。仕方ないな、全く。固まったままの九尾狐に、紳士的に一声かけてやると、ぎこちない様子で九尾狐は帰って行った。
さて、客も帰ったことだし、今日は図書館で時間でも潰すか……。
オリジナル設定多いんで、ごめんね。
次どうする?
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異世界転生ナーロッパ
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