「さて……」
転移してきた訳だが。
「暫くは休暇としてバカンスでもするか。どうせ、次の勇者を喚び出すのは数十年後の話だからな」
現在の人外国家の文明レベルは1930年頃の地球並だ。
実は結構、ビルやコンクリートの道なんてもんがある。公衆電話もあるし、車や列車も走ってるし……。
それを見たミカエルは、「駄目ですよー!!!ファンタジーのイメージぶち壊しじゃないですかー!!!」と怒っていたな。
まあ、つまり、勇者達はこちらの世界を、中世のようなファンタジーの世界だと思っているから、そのイメージを壊すような街では駄目、なんだとよ。
何が駄目なのかはよく分からんが……、まあ、確かに、悪と思い込んでいる人外国家の市民が、人間国家の市民より文化的な生活をしていたら……。
ふむ……、確かにそういうショッキングなネタバラシは後々にとっておきたいかもな。
見下していた相手が自分より上だったと教えてやる……、アリだな。
さて、それじゃあこの世界でバカンスだ。
ミカエルの異世界転移手引書によると……?
『まず、そこら辺を歩いて、モンスターに襲われている人を助けます。貴族のお嬢様だと最高です。そして、街まで案内してもらって、フラグを立てておきましょう』
フラグ……?
旗?
何のことだ?
しかしまあ、他人に恩を売って、連れとして街に入れてもらうってのは悪くねえ考えだな。運良くそんな奴がいればの話だが。
『あ、あと、ちゃんと人間の姿に化けておくこと!悪魔とバレたら面倒ですよ?それと、旅人っぽい服装がグッド!……もちろん、中世の旅人っぽい服装ですからね?野戦服とか迷彩服とかは駄目ですよ?』
あー?
まあ、そうだな?
取り敢えず、人間体に化ける。
そして服装……、銃の勇者として遊んでいた時の装備で良いか。
則ち、中世的なシャツとズボン、その上に裾の長い黒いコートのような服を着込み、更にミスリルの手甲、脚甲、胸当て、そしてワイバーンの皮のベルト。
ベルトにはリボルバー、M500と腰の後ろにマチェット、そして腿にボウイナイフ。
背中には『直結器』であるデギトゥス・カーヌスを背負う。
デギトゥス・カーヌスは二メートルを超える大剣型の直結器だ。黒く肉厚な両刃の刀身に、血管のように赤いエネルギーラインが通っている。飾り気はない、シンプルな大剣だ。
それと大きめの巾着袋に最低限のものを詰めて背負う。
「武器庫も直結器も正常に動作、魔法も使える、と」
軽く確認してと。
良し、こんなもんか。
それで……、モンスターに襲われている人を助けて取り入る、だったか?
だが都合よくそんなものが……。
……「キャー!!」
……いるのかよ。
まあ、じゃあ、行くか。
「くっ、お嬢様!私の背後に!」
「は、はい……」
「ホブゴブリン二体とゴブリン六体……!数が多い!」
青いドレスで金髪をイギリス結びのように三つ編みを巻いている髪型をした、貴族風の間抜けそうな女と、軽鎧で短めの茶髪の護衛の女。
貴族と護衛、か?
怯えている貴族女はへたり込み、その目に涙を浮かべている。
護衛女はロングソードを構えて警戒している。
既に馬は殺され、馬車は横転している。
モンスターの姿はこちらの世界と変わらないようだ。
ゴブリンは緑の醜い小人で、ホブゴブリンは二メートルを超える。
そんなゴブリン共は、女を犯して食えると思って、ナニをおっ勃てて、今にも襲いかからんとしている。
成る程、これがミカエルの言う、異世界のテンプレ、か。
俺はデギトゥス・カーヌスを肩にかけ、言った。
「楽しそうだな、俺も混ぜてくれよ」
ゴブリン共が振り向く。
『グギ……?』
『ゲギャ、ゲギャハ!』
ゴブリンはアホだからな、頭数が上なら勝てると思っていやがる。
人間が一人増えた程度で何が出来る?くらいに思っているんだろうな。
ふむ。
「ゴミ虫風情が、この俺を見下すのかァ……?」
デギトゥス・カーヌスを一振りすれば、ゴブリンがまとめて三体、真っ二つになった。
『ギ、ギィギ!』
ゴブリンがいきなり殺され、短い困惑の後に、殺し返そうと襲いかかってくる。
黄色い目玉を爛々と輝かせ、濁声を上げて、薄汚れたナイフを振りかぶる。
人間の子供ほどの大きさだが、確かにナイフを持って襲いかかってくるのだ。その上不潔で病原菌のキャリアでもある。非戦闘員からすれば脅威だろうな。
「死ね」
だが、死ね。
そんなことは関係なく、死ね。
俺に逆らう者は死ね。
ホブゴブリンの土手っ腹をデギトゥス・カーヌスで貫く。
「オールドスパーキー」
雷魔法で焼き殺す。
オールドスパーキーは手持ちの武器に高圧電流を流す魔法だ。
そのまま、斬り上げて反転。
もう一体のホブゴブリンを両断する。
このデギトゥス・カーヌスの斬れ味と俺の筋力なら、オリハルコン塊であっても両断可能だ。
オリハルコンを斬れて、鉄よりも柔らかいホブゴブリンを斬れない道理はない。
真っ二つになったホブゴブリンは、うどん玉の様に小さな脳味噌を零して、はらわたをぶちまけて死んだ。
『ギヒヒィ!!』
残ったゴブリン共が逃げようとするが……、俺に喧嘩を売って生きて帰れると思ったら間違いだぞ。
死ね。
「痺れろ」
放電の魔法だ。
詳しい原理は省くが……、魔法による雷を指定空間に生み出す魔法だな。
雷の様に電気を発するだけだと、すぐ地面に落ちてしまうから、指定空間を電気エネルギーで満たして焼き切るようなイメージの魔法になっている。
まあ、電気なんで、放電し続けないとすぐに拡散しちまうが、熱量が高く、レーザー砲の様な扱いができるから良く使う。燃費はそこそこだ。
魔法はある程度物理法則に従うからな。
これが雷魔導なら、問答無用で、自分から敵に向かって落ちる雷なんかを創造できるんだが……、まあ、それはいい。
焼き払われたゴブリンは黒焦げの焼死体となり、ボロボロに崩れて死んだ。
終わりだ。
俺はデギトゥス・カーヌスを背中に背負う。
ああ、因みに、デギトゥス・カーヌスは背中にある留め具で留めている。この留め具は魔力で開閉する、地味な魔道具だ。
「た、助かりました……」
護衛女が礼を言ってきた。
「そうか。少しでも感謝しているなら、街まで案内するんだな」
「あ、はい、分かりました。しかし、馬車が……」
見事に使い物にならなくなっているな。
「街まで七日はかかると言うのに……、水と食料が……」
「俺のをくれてやる」
「よろしいのですか?」
「その代わり、街まで案内しろ」
「もちろんです!」
話はこんなもんか。
「あ、あのっ!」
貴族女が話しかけてくる。
「私は、エマ・ルーソンです!剣士様のお名前を教えていただけませんか?」
「俺はジンだ」
「ジン様……。今回は本当にありがとうございます!屋敷に来て下さい、歓迎しますから!」
「お前は貴族なのか?」
「はい、ルーソン伯爵家の娘です」
ふむ。
「成る程な、仲良くした方が得だ、と言うことか」
「そ、その、わ、私は、ジン様と個人的に仲良くなりたい、です❤︎」
「そうか」
ふむ……、上手くいったな。
貴族に取り入って……、取り入ってどうするんだ?
ミカエルの手引書を読む。
『貴族に取り入ったら、貴族社会で力を見せつけて、偉い人に気に入られて……、お姫様とかをお嫁さんにしてー、王族になっちゃいましょう!』
アホか。
「あら?文字を読めるのですか?ジン様は教養もお有りなのですね!」
ミカエルはアホだったな……。
まあ、貴族に取り入れば何かと楽そうなのは理解できるが。
好きにやらせてもらう、か……。
あー?
寿司食いてえ。