ジープを出す。
「まさか……、アイテムボックス?!」
護衛の女……、先程イネスと名乗った。そいつが声を上げる。
「剣術も使えて、光の魔術と、アイテムボックスの魔術を使いこなし、文字も読めて……、って、まるでおとぎ話の英雄じゃないですか!!」
そうか。
英雄……、戦争で名を上げるのも悪くないかもしれんな。
武力で国を制圧するのはいつでもできるからな……、独立されても面倒だから、上手い具合に民衆の支持を集めて支配して……。
うむ……、ミカエルの案も強ち間違ってはいないのか?
まあ良い、行くか。
「ジン様はどこからいらっしゃったのですか?」
「遠くからだ」
「お仕事は何を?」
「傭兵を少し」
「魔術はどこで習ったのですか?」
「マリーと言う師がいる」
しつこく話しかけてくるエマをあしらいながら、車で移動。
「な、なんだこれは?!速すぎる!」
イネスが驚いているが……。
まあ、悪路であることもあって、時速3、40km程度しか出せないが、それでも馬車の5、6倍は速いだろう。
「今日はここで休む」
日が落ちてきたので、ここいらで野営。
と言っても……。
武器庫からコテージを出す。
「は?はああああ?!!アイテムボックスに家一つ入れてる?!!あ、あり得ない、そんな容量……?!」
キャンプをする必要はないのだが。
「そ、その、それで食事ですが……」
イネスが控えめに要求してきた。
まあ、あからさまに寄越せと言うなら潰すが、頭を下げると言うならくれてやっても良いだろう。
最近の俺は丸くなったし、機嫌もとても良い。
まあ、歳もとったからな、最近は血を見るのも毎日じゃなくても我慢できるし。
……と言っても、軽く料理するだけだが。
肉と野菜のグリルとポタージュスープ、パンで良いだろう。デザートにアイスクリームでも出すか。
アイテムストレージから適当な肉と野菜を出して鉄網でグリルしていく。
ソースとポタージュも別で作る。
「まさか、料理もできるのですか?」
「それなりにはな」
「……超人では?」
30分くらいでできたので、食わせる。
因みに、料理の手順はイネスが隣で見ていたし、料理を食べたのもイネスが先だ。毒味ってことだろうな。
「このスープ……!美味しいですね!なんのスープですか?」
「とうもろこし」
「?」
この世界にはないのか?
「このお肉も美味しいですね!なんのお肉なんですか?」
「ワイバーン」
「「ワイバーン?!!!」」
何だ?
「ワ、ワイバーンを仕留めたのですか?!!」
「おかしいか?」
「火を吹いて空を飛び、尾に毒がある龍、あのワイバーンを?」
「そうだ」
「まさか、お一人で?」
「ワイバーン如きに人数はいらないだろう。少し斬れば死ぬしな」
実際、人外国家では、ワイバーンの品種改良と家畜化が進んでいる。
「そ、そんなまさか……!ワイバーンを一人で倒すなんて、それこそ親衛隊の隊長でもできるかどうか……」
ふむ……、この世界の戦力は大したことないのだろうか?
油断し過ぎは良くないが……。
「この国の最大戦力はワイバーンすら倒せないのか?」
「それは……、分かりませんけど、現在の親衛隊隊長はとてもお強いのだとか」
「そうか」
「しかし、それでも、一人でワイバーンを倒すだなんて英雄ですよ!ドラゴンスレイヤーです!」
「そうか」
何かとイネスに持ち上げられる。
「まあ、ドラゴンスレイヤー!おとぎ話の英雄様みたいですね!」
エマも喜んでいる。
「……それより、この食器の品質なんですが」
イネスが尋ねてくる。
「あ"ぁ?安物だって言いてえのか?」
確かに武器庫から適当に出したもんだが。貴族はこれだからな……。殺すか?
「いえっ、そんな!むしろ、こんな素晴らしい食器、見たことがありませんよ!その、もしや、ジン様はひょっとして、王族だとか……?」
んー?
あー。
「遠い国でそれなりの立場の人間だったが、今は……」
適当なこと言って誤魔化すか。
あとで有名になってから別の国の王族でしたとか言えば良いだろ。
「……成る程、分かりました、詳しくは尋ねません」
その辺に突っ込んでこないのは賢明だなァ?
「ああ、それとデザートだ」
「こっ……、これは……!!こんな精度の硝子……!!」
良くある、15ドル程のデザートカップだが。
そこに丸いアイスとクリームとチョコ。
「因みにこれは何ですか?」
「アイスクリームだが」
「あいすくりーむ?」
この世界にはない、か?
「卵黄と牛乳、生クリーム、砂糖と香料などを混ぜ合わせ凍らせたものだ」
「凍らせる?!と言うことは、水属性?!二重属性ですか?!ただでさえ稀少な光属性の使い手なのに?!」
は?
「属性で言えば得意なのは光と闇、次点で時空魔法と回復魔法だな。それ以外の属性魔法はそれなりだ。付与魔法は普通」
「は?」
は?じゃねえよ。
「え……?まさか、その、使えない属性とか」
「ねえよそんなもん」
「……賢者?」
「何がだ?」
「ジン様は、賢者なのですか?」
「さあな、自分のことを賢者だと思っている奴は大抵アホだからな」
「そ、そうではなく、全属性の魔術を扱えるのですか?」
「できるが」
「………………そう、ですか」
「おかしいのか?」
「……魔術師になれるほど魔力を持つ者は五人に一人です。その中でも、火、水、土、風の四属性が普通で、光や闇なら百人に一人。二重属性なら千人に一人くらいです。しかし!全属性を扱える者は賢者と呼ばれ……、賢者は、百年に一人の逸材なのです」
成る程な。
そもそも魔術なんてもんを使っている時点で駄目なんだがな。
「そ、それで、これは……、氷のお菓子ですか」
「ああ」
イネスが一口。
「……美味しいです」
そうか。まあ、手作りだからな。
エマも一口食べる。
「本当、美味しいですね!」
俺が作ったからな。
今でも、暇な時に料理をしたりする。
「これは……、宮廷にもない料理かと……」
「そうねえ、宮廷にはパーティで何度か行ったけれど、こんなに美味しいお菓子はなかったわ」
そうか。
そして、食後に。
「歯を磨いてシャワー浴びて寝ろ」
歯ブラシを渡す。
「これは……、これで歯を磨くのですか、成る程」
そして、シャワー室に連れて行く。
「まあ、温かな水で沐浴ができるのですね!」
「も、森の中で沐浴とは……!なんと贅沢な!」
俺もシャワーを浴びる。
ああ、俺は基本的に、毎日シャワーを浴びる習慣がある。
戦場ではシャワーを浴びられないからな……。衛生環境は大事だ。傷口から細菌が入って死んだ下僕……、いや、戦友達が何人いたことやら。
「ジン様っ!これっ!凄いですっ!髪がさらさらになりましたよ!さらさら!」
「ああ、お嬢様いけません……!」
シャンプーに喜ぶエマ。
その後に、コテージの一室にぶち込む。
「わ……!ふかふかですね!」
「ああお嬢様、はしたないですよ!」
ベッドを出して、そこに寝せる。
うむ、まあ、銃の勇者としての冒険の時、他の人外女に連れ回される時……、そう言った時の経験が俺を強くしてくれた。
昔の、若き日の俺なら、こんな女即座に犯して殺していたが、今では微笑ましさすら感じる。いや、犯して殺したいが。
思いのほか、ストレスが溜まらないのだ。
やはり、適度なストレス発散が効いているのだろうか?
「朝だ、起きろ」
「「おはようございます!」」
「飯だ、食え」
「「いただきます!」」
まあ、少年兵の教育とかもやったことはあるしな、他人の面倒がみれない訳じゃねえしな。
こいつらも若々しい少年兵だと思えば可愛らしいものじゃねえか。
「「ごちそうさまでした!」」
「歯を磨いたら移動する」
「「はい!」」
幸い、聞き分けもいいしな。
顔も悪くねえしよ。
ああ、そうだな、悪くねえよ。
月極駐車場の御曹司がシスの暗黒卿としてスリザリンでデススター作る話面白かったです。