ハードオンの楽しい思いつき集   作:ハードオン

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北海道ってどれくらい寒いのかな。


80話 縛りプレイ

凪いだ海を見る。

 

「わー!これが海かあ、凄いねえ」

 

ソフィアは、初めて見る海を興味深そうに眺めている。

 

海など、とどのつまりは水の塊であるのに、何がそんなに面白いのか。

 

ブーツを脱いだソフィアは、水面に足をつける。はねる海水の飛沫でズボンを濡らしながらも、波打ち際ではしゃいでいる。

 

「うひゃー、冷たい!」

 

この世界の海は、基準世界の海と特に違いはなかった。

 

俺が気付いていないだけなのかもしれないが、見た限りでは異常はない。

 

鬱陶しい潮風が髪に絡みつき、鼻につく漁村の生臭い臭いがする。

 

……「ヨーソロー!」

 

船乗り達の声がやかましい。

 

海洋生物がそこらにいて、海のビオトープを作っている。

 

海など、何も良いことはない。

 

確かに、かつて人間だった頃には、ソマリアやナイジェリア、アフリカ圏などの海賊組織を使って、政府軍への通商破壊や誘拐、強奪をさせていたが……、俺は陸戦の方が得意だ。

 

そもそも、現代的な海戦においては、ミサイルや艦載機の運用が基本だろう。

 

俺は基本的に、ゲリラ戦や破壊工作こそが得意なんだよ。遮蔽物も逃げ場もない海戦は、あまり工夫ができない。精々、敵艦にスパイを仕込むとか、民間船に爆薬詰めて民間人ごと突っ込ませるかくらいのものだ。

 

それに、この世界はどうやら大砲もないようだ。

 

恐らく、古代ギリシアの様に、奴隷を乗せたガレー船で、火矢を放つような形だ。

 

俺の技能が活かされる場面はない。

 

つまり何も面白くない。

 

「ねー、ご主人様ー!私、船に乗りたい!」

 

「乗れば良いだろ」

 

「どうやって?」

 

「自分で考えろ」

 

「むう……、船、持ってるんでしょ?」

 

「あるが」

 

「乗せて!」

 

「船に乗る用事がない」

 

「むー」

 

むくれるソフィアを無視して、俺は辺りを歩き、見回す。

 

近く……、少なくとも人間でも視認できる距離に島がいくつかあるな。

 

本格的にギリシアのような地なのかもしれない。

 

「待って〜」

 

ブーツを履き直して追いかけてくる馬鹿を横目で見つつ歩く。

 

どうするか……。

 

穏便に侵略……。

 

そう考えると根気がいるし、難しいことだ。

 

しかし不可能ではない。

 

まずは名声を得ることだ。

 

何でも屋として国々を渡り歩き、金と名声を集めて、最終的に各国を掌握する……。

 

理論に飛躍があるなァ?

 

名声があれば国の頂点に立てるなら、世の中はコメディアンやスポーツ選手の天下の筈だ。

 

何故、俺が名声を得て各国を掌握、と言ったようなアホなことを言い始めたのか。

 

その原因は、国家間の緊張にある。

 

この世界は中世並、戦乱の世だ。

 

戦争が定期的に起きている。

 

王の権力も万能ではなく、謀反や暗殺が横行し、諸侯が戦争し合う戦国時代だ。

 

戦争は俺の得意分野だ、一方を勝たせる、わざと負ける、双方を疲弊させる……、自由にできるだろう。

 

この世界の国々の国力そのものを低下させ、外部に頼らねば破綻する状態まで持っていく。

 

世界中がソマリアや南スーダンのようになり、反国家勢力の台頭、市場の崩壊などが多発すれば、国を支配することなど容易い。

 

実際に、かつては、中東の一部やアフリカをテロ組織を使って支配していたからな。その要領でやれば良いだろう。

 

基本的に、過激宗教テロ組織からマフィアまで、有名どころは灰の指先の配下だった。

 

そう言う連中をまとめるのは俺の専門だ。

 

まあ……、つまり、このような戦乱の世界において、名声が高まり、俺に武力と物資があると分かれば、引く手数多。

 

好きに暴れて、疲弊しきった国々に頼られ、権力を要求していく……、と言う話だ。

 

得られる権力には限界がある?

 

いやいや、資金、物資、そして武力があれば、どこまでも欲するものを手にすることができるぞ。

 

現代社会とは倫理観が違うんだ。

 

目の前に金延べ棒でジェンガを組んでやればテメェのガキだって差し出すだろうよ。所詮土人だからな、この世界の連中は。

 

 

 

「まあ、人間なんざ、ちょっと追い詰めればすぐに本性を曝け出すんだがな」

 

過去の拷問について思い出す。

 

例えば、夫は死んでも売らないと言い張った女に拷問をして、夫を裏切るまで心身を痛めつけた記憶。

 

子供は絶対に守ると誓った父親を痛めつけて、その手で我が子を殺させた記憶。

 

絆、愛、友情……、下らないものを信じている間抜けどもに痛みを教えてやる。

 

絶望をくれてやる。

 

それが何よりも楽しい、愉快だ。

 

「なんの話?」

 

「独り言だ。店番していろ」

 

「はあい」

 

さて、楽しい記憶に浸るのも程々に、ポート・ロミールにて何でも屋を開業する。

 

何でも屋の名声を高めるのが目標だ。

 

直接侵略は控える。

 

なんだったか……、こう言うのを「縛りプレイ」と言うらしいな。

 

ミカエルが言うには、ゲームにおいて、通常のやり方では満足できないハイレベルなプレイヤーがやるらしい。

 

将棋でいう飛車角落ちのようなものか。

 

少し違うか?

 

まあ良い。

 

順当に物を売って、知名度を稼ぐ。

 

あらかじめ市場の調査はしておいた。

 

と言っても、この辺りじゃ、魚くらいしか売ってないがな。

 

ただ、船の値段が知れたのは僥倖だった。

 

船は高価だ。

 

元の世界なら数十万ドルは平気でする。

 

まあ……、それはクルーザーのような金属製の船での話だ。

 

この世界で使われている、古代ギリシアのような櫂のある帆船……、ガレー船とは値段が違う。

 

物にもよるが、金貨数十枚程で船が買えるらしい。軍用の物だともっと高価だとも。

 

この世界のレベルからすれば、船は大きな軍事的意味を持つ。

 

傭兵であった俺は、正直な話、一般的な市場の話には少々疎い。ミカエルに聞いて初めて、テレビゲームやコミックブックの値段を知った。

 

故に、このように、戦艦の値段という、軍事的な話になると理解しやすい。

 

これでより、この世界の市場についての知識が深まった。

 

 

 

「……先程は、船に乗る用事がないと言ったが、どうやら、用事ができたようだ」

 

「え?じゃあ、お船に乗れるのお?ぷかぷかできる?」

 

何でも屋として、金さえ払えば何でもやるが……。

 

今回は、漁業組合や都市代表が、「海の平和」を売ってくれと言ってきた。

 

最初は、海賊船に対して有効な武器を売って欲しいと言う依頼だったが、詳しく聞けば、この辺りには海賊が多く、海賊島なんかもあるそうだ。

 

なので俺が、武器を売るのではなく、この俺が直接、海を平和にしてやると言った。

 

すると、漁業組合や都市代表は、「やれるものならやってくれ」と冗談っぽく言ってきた。

 

報酬は、海賊の宝全てと金貨五千枚と言ったところ、それくらいなら払うから是非やってくれ、と。

 

あちらは冗談のつもりだろうが、俺は本気だ。

 

本気で海賊をこの海域から殲滅し、本気で金貨五千枚をせしめようと思っている。

 

 

 

見ておけ、やるぞ。

 

「お船に乗れるんだ!わあい!」

 

この馬鹿女の望みを叶えてしまったようで若干ムカつくが、まあいいだろう。

 




今回はお茶濁し回です。

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