「お前はさあ、安アパートか何かなの?ぽんぽん意識途切れんの困るんだが?」
「ごめんなさい……」
半分チンピラのストリートファイター、二階堂健は、安アパートのブレーカー並に意識を途切れさせる男性保護官の因幡宇佐美を叱っていた。
「まあ、良いよもう。早速出かけるぞ、まずはスマホだ」
「はい、お伴します」
「勝手にしろ」
そう言って、宇佐美の案内で携帯ショップに行く健。
しかし、健の相貌は、この世界の基準ではCGキャラ並のイケメン。その上、高身長で筋肉質。
「いらっしゃ、いませぇぇぇ↑?!!」
ヤバいレベルのイケメンを見て、イントネーションが明らかにおかしくなる店員をスルーして、早々に携帯を手に入れる健。
金はまだまだある。
そして、早速手に入れたスマホでマップを開きながら服屋に行こうとすると。
「あの、健さん。男性用の服は普通のお店には置いてませんよ?」
「はあ?」
「この辺りは男性保護特区で、男性率が高い街ですけれど、流石に、その辺のお店に男性用品はありませんよ」
「何で……、って、あー、そうか、この世界では男が少ないんだもんな、態々男物を置いてる店なんてねえか。男物の店はどの辺にある?」
「ここがオススメです」
「……高そうだな。服は消耗品だから安物でいいんだがな」
「そうですね……、ではこっちなんてどうですか?ジャージとかも置いてると思いますよ」
「ふむ、ここがいいな」
結局、向かった先は、それなりのランクの店。
ここでも、店員にガン見されながらも、服を買った健。
しかし、サイズがあまりなかった上に、デザインも大人しめだったので、健好みの物はあまり揃わなかった。
「チェックのシャツって……。ダッサ。オタクがママに買ってきてもらった服かよ」
「そうですねえ、健さんにはカッコいいやつが似合うと思いますよ」
歯ブラシや髭剃りなど、日用品を買い終えたところで、次の日。
ジャージに着替えた健は、早朝に起きた。
「おはようございます!早朝のランニングとは健康的ですね!何キロくらい走りますか?」
同じ時間帯に起きた宇佐美。宇佐美の目的もランニングだ。男性保護官は身体が資本、常に鍛えねばならない。
「お前はついてこれないだろうからまだ寝てろ」
「いえいえ!私はこれでも男性保護官!朝のランニングくらいついていけますよ!流石に、男性より体力がないなんてことは」
「あっそ。今日は軽めに60kmだから。二時間で済ませるぞ」
「………………は?ろくじゅっきろ?にじかん?」
「シャァ、行くぞ!」
「えっ、えっ、えっ、そんなの、無理に決まって……、は、速っ?!!」
「健、さん……、速、過ぎ、です、ま、待って」
「んだよ、まだ10kmも走ってねえぞ」
「い、いえ、10km、くらい、までなら、走れる、んです、けど、健さんが、速過ぎ、て」
「しゃあねえなあ、ちょっと負荷かけるか」
「え?」
宇佐美を背負うと、走り出す健。
「健さん?!わ、私、44kgも、あるんですよ?!腰を、痛めちゃい、ます!!」
「軽っ!お前軽いな?!負荷にならねえぞこりゃ!!」
「う、うわわ、速い速い速い?!!!」
「ただいま、っと。オラ宇佐美、次は筋トレだ」
「へ?ま、まだやるんですか?!」
「軽めにな。本来の筋トレなら、逆走するトラックとか重機にワイヤー括り付けて引っ張ったりしてるんだけど、今はツテがないしな」
「………………は?け、健さんは、格闘漫画のキャラクターか何かですか?」
「否定はしねえよ、さあ、軽く筋トレするか」
すると健は、器用に人差し指一本で逆立ちし、ゆっくりと倒立腕立て伏せを始めた。
「な、何ですかそのパワー?!健さんは本当に男の人なんですか?!!」
「男だよ。お前も筋トレしろ」
「ううう〜……」
「さて、後は、軽く組手でもするか」
「く、組手?!で、できませんよ、男性となんて!!」
「……お前は、さっきの軽いトレーニングであれだけの醜態を晒しておいて、まだ俺に勝てると思ってんのか?」
「……いえ」
「構えろ、遊んでやる」
(10秒後)
「う、ううううう〜!!!」
「へえ、俺相手に十秒もたせるだなんて、結構やるな、見直したぞ」
「うえ"え"え"ん!!!」
「……すぐ泣くなお前は」
「だって、私、男性保護官なのに、男性より弱いだなんて!立場がないです〜!!!」
「別にお前に強さを求めてる訳じゃねーよ」
「で、でもぉ」
「でかい兎飼ってるくらいに思ってるから」
「うえ"え"え"え"ん!!!」
朝食を摂った後は、宇佐美にあれこれ聞きながら街を散策することにした健。
働く気でいるが、一般常識を身につけなければそれも叶わない。
数学や国語などは大体同じだが、社会や地理、法律、文化などは全く違うので、小学生レベルの童謡や絵本を読み、その上で文化などについても学んでいる。
幸い、教師役の宇佐美は高学歴で、教え方も上手かった。
故に、数ヶ月で、それなりの一般常識を身につけた健は、求職を始めるのであった……!
「そうだな、喫茶店なんてどうだ?俺、コーヒー淹れるの得意だぞ」
「いえ、その、まず、働かなくて良いんですよ?」
「ボケが……。何かあった時のために職がなきゃ困るだろうが」
「その、何かあっても、私が養いますよ?わ、私、健さんなら、いくらでも養ってさしあげます!」
「ヒモは嫌だわ流石に」
「ヒモって何ですか?」
「いや、何でもねえ。兎に角、その補助金とやらもいつまで出るか分からねえだろ?」
「死ぬまで毎月出ますけど」
「……良いから仕事すんぞ!」
「そうですか……。まあ、たまに、働いてみたいと言う男性はいらっしゃいますからね。ですが、私も同行しますから!」
「好きにしろ、その辺はもう諦めてる」
そして、個人経営の喫茶店に顔を出した健。
「ちょっと君、店長呼んでくれる?」
「は、は、は、はいっ!」
店の奥から、店長と呼ばれる若い女が。
「す、すんません!うちの店員が何か粗相を」
「いや、してない。……ここ、バイト雇ってんだよな?」
「は、はい、そうっス」
「俺を雇ってくれ」
「はぇ?」
店長、烏山黒子と名乗ったその女は、健と宇佐美と同じ二十四歳。
その名の通り、髪も瞳も艶のある黒、着ている服も黒い制服の女。顔立ちも整っており、長い黒髪は美しい。可愛いでもセクシーでもない、その中間の美人さんだ。
「それで、面接は?」
「ないっス」
「あー、そうか。雇えない、と。いや、お手数をおかけしてすみません」
「あっあっあっ、いえいえいえ、合格っスよ」
焦ったように健を引き止める黒子。
「はぁ?」
「時給は三万円で良いっスか……?」
「いや、表には1200円って」
「あれは女性の時給っスよ。男性となるともう、時給は二十倍以上でも足りないくらいっスね」
「い、いや、そんなにもらうのは悪いんじゃ」
「うちの懐具合を心配してくださるんスか?なんてお優しい方なんだろう……。大丈夫っス。うち、主に株とFXで稼いでるんで。喫茶店は趣味みたいなものっスわ」
「そ、そうなのか」
「それでは、よろしくお願いするっス!まずは制服の採寸から始めましょー!」
口調が怪しい黒子という女の元でバイトをすることになった健。
「むふへへへ、健さんは本当にイケメンさんっスから、うちは困っちゃうっスねえ」
「いや、黒子も美人だろ」
因みに、敬語は使わなくて良いと言われた。その上、名前で呼んでほしいとも。
「んもぅ!お世辞が上手なんスからぁ!」
「俺は世辞は言わねえよ、あんた、本当に美人だ」
「えへへぇ、嬉しいなぁ、うち、男の人に褒められたことなんてなかったっスからねえ」
「それより仕事なんだが」
「健さんは制服着て店で寛いでて下さいっス。それだけで絵になるっスから」
「そ、そうか?」
……バイト?
主人公がどれくらい強いかというと、格闘漫画の主人公くらいです。陸奥圓明流とかグラップラー並。