慧音さんは、何でも、寺子屋の先生らしい。
となると、日曜に会いに行くべきだな。あらかじめアポは取っておいた。
あ、慧音さんすっげー美人だった。しかも女教師で倍率ドン。スタイルも最高パワーがダンチ。
いつもの赤ズボンと黒いシャツで、慧音さんの家に出向いて、挨拶をする。
「すいませーん、慧音さーん、いますかー?」
「ん?はーい」
あら?
「あんた誰だ?」
「最近人里に来てものでね。慧音さんに挨拶とお話を、と思ったんだが、君は?」
「私?私は、藤原妹紅。慧音の……、友達かな?」
成る程。
「慧音さんはどこかな?」
「今ちょっと買い物だ、すぐ帰って来るから入って待ってれば?」
「うーん、女性の部屋に許可なく上り込むのもなあ」
「良いって、慧音はそれくらいじゃ怒らないよ」
そうかなあ。
手を引かれて慧音さんの家に入る。
……ん?
「あ、妹紅さん、不死なんですね。珍しい」
「……あ?何で、分かった?」
こちらを驚きの目で見てくる妹紅さん。
「ああ、いや、知り合いに何人か不死がいましてね」
「……まさか、輝夜か?!」
「?、いやあ、そんな可愛い感じの奴じゃないよ?火の無い灰って奴でして」
「……聞いたことないな、何だそりゃ」
知らない?ロスリックで会ったんだけど。
「そうかい、聞いたことないか。でも、楽しそうだよな、不死。俺もある意味不死みたいなもんだけど」
「そ、そうなのか?」
「もう◾︎◾︎◾︎年は生きてるんじゃねえかなあ」
「そんなにか?!」
「ああ、若返りの薬で年齢を調節して、今は二十代の姿になっているよ」
「そう、か……。お前は、強いんだな。私は、不死になって後悔しているよ」
んー?
「ポジティブに考えてみれば良い。永遠の命だぞ?生涯をかけて楽しんでやろうと思うんだ」
「そんなこと……」
「程々に働いて、毎日遊んで、好きなことをやるんだ」
「私も最初はそう思ったさ。だが、いずれ飽きるだろ?」
「飽きたら外国にでも行けば良いのさ!文化も人も景色も全然違って面白いんだぜ?」
「そうやって、住む場所を転々として、最後はどこへ行き着くんだ?」
「そうしたら、最初の国へ戻れば良いさ!各地を転々としているうちに、最初の国は風変わりしているだろうさ!」
「ふ、ははは。お前は面白い奴だな」
「それでも駄目ならそれこそ、違う世界にでも行けば良い。不思議や冒険は探せばいくらでもあるんだよ」
「そんな考え方ができるお前は凄い奴だな。羨ましいよ」
悲しそうな目で告げる妹紅さん。
可愛い女の子がそんな顔をしちゃいけないなぁ。
「それでも駄目なら!」
「?」
「俺が側にいる。退屈はさせないよ。一生ね」
「……ッ!」
一気に顔を赤くする妹紅さん。
「妹紅さん、約束する。俺の名前は新台真央。旅人だ。もしも、君が、世界の全てがつまらなくなってしまったなら、その時は」
「あ、う」
「俺の旅についてくると良い。最高に楽しい日常をプレゼントする」
「本当、か?私と、ずっと一緒に、いてくれるのか?」
「ああ、絶対に退屈はさせない」
「う、う、ああ、うわあああああ!!!」
俺に抱きついて、声を上げて泣く妹紅さん。
「ただいまー、妹紅ー、留守番させてすまな……?!!」
あ。
「すまない……、本当にすまない」
慧音さんに頭突きされて、地面に埋まった俺。事情を説明して救助される。
「いやあ、慧音さんお強いですねえ」
「すまない……、まさか、妹紅と共にいてくれる不死の方だとは思わず……。妹紅を泣かせているものだと思って、手が出てしまった」
「いやあ、泣いてるお友達を助けようとしたんでしょう?良いことですよそりゃ」
「だが……」
「良いんですって、これくらいじゃ死にませんから」
「まあ、不死だものな」
「あ、いえ、不死ではないですけどね」
一応は死ぬ。
「そうか?だが、妹紅に寄り添ってくれるのは嬉しい。私では、いつまでも一緒という訳にはいかないからな」
ふむ?
「え?でも、妖怪ですよね?」
人間よりは長い間一緒にいれるんじゃないかな。
「む?分かるのか?」
「ええ、そういうのと縁がありまして、見れば大体は分かります。白澤ですよね、縁起が良くて素敵だ」
「そ、そうか。ふふふ、普通、妖怪と聞くと警戒するものだがな。君は優しい男だな」
まあ、美人にはね。
「あ、そうそう、この辺に家を建てまして、そこに暫く滞在しますね。なんか割のいい仕事とかあれば紹介してくれると嬉しいです」
「ああ、そうか。どの辺りだ?」
「えっと、この辺ですかね」
地図を描いてみせる。
「ここか?うーむ、大分外れにいるな、妖怪に気をつけろよ」
「身を守ったり、逃げたりは得意なんですよー」
「まあ、さっきの頭突きでビクともしないみたいだしな、丈夫なんだろう。さて、仕事というが、何か得意なことはあるか?それによって紹介できる仕事は変わってくるな」
「何でもできますよ。教師から農作業、弱い妖怪相手なら妖怪退治も、簡単なので良ければ魔法も使えるんで、魔除けを作ったりもできます。料理は特に得意で、洋食……、外の世界の料理が得意です。医学や錬金術の心得もありますから、人や家畜を診たり、薬を作ったりもできます。あと、建築関係も得意ですよ、彫刻とか。縫い物や鍛治仕事もできますね」
「お、おお、凄いな」
本当か?と思っている慧音さん。
「本当ですよ?」
「心も読めるのか?」
「いえ、まあ、何となく人の考えていることを、人の仕草から当てることが特技ってだけです」
「成る程、覚り妖怪のようなものではないのだな。因みに、私が今何を考えているか分かるか?」
んー?
「食事のこと考えてますね」
「おお、正解だ。今日の昼食をどうするか考えていたところだ」
「あ、じゃあ、俺が何か作りますよ」
「ふむ……、では、頼めるだろうか?もちろん、金は払おう」
俺は懐からキッチンを取り出して、料理を始めた。
「空間系の魔法か。魔法も上手いようだな」
「ああ、いえいえ、便利なんでこれだけ覚えた感じですよ。あ、妹紅さんの分も作るんで、是非食べて行って下さいね」
「あ、ああ、うん」
オムライス、コロッケ、ロールキャベツ、マカロニサラダ。
昼だし、お腹にたまるものを。
「「おお……!!」」
「どうぞ、おあがりよ!」
スプーンを手に取り、オムライスを口に運ぶ二人。
「これ、は!」
「う、美味いっ!」
だろうな、美味しく作ったからな。
「「ふぅ、ご馳走さまでした……」」
お代わりまでして食べた二人。
可愛いなあ。
「いや、旅人よ、大変美味だったよ。このレベルの飲食店なら、毎日通っても良いな」
「私もだ、こんなに美味いものは長年生きてきたが食べた経験がほとんどない」
成る程、高評価。
「そっか、これでもまだ文句を言われることがあるんだけどね」
雄山先生とかにね。
「何だと?こんなに美味いのにか?!外の世界はおかしいんだな……」
慧音さんは、顎に手をやって、考え込む。
「ふむ、そうだな、まずは屋台から……、そしたら店を持って……」
「ああ、屋台ですか、良いですねそれ」
屋台かー、暇な時にやろう。
「それと、教師もできるのか?」
「教員免許持ってますしね」
「なら、明日、寺子屋に来てくれないか?算数の先生が病気で来れなくなってな」
「ええ、慧音さんみたいな美人にお願いされたら断れませんよ」
「んなっ、なな、そ、そうか?美人か?」
「ええ、とても。見惚れてしまいそうなくらい素敵ですよ」
「はは、そう言われて悪い気はせんがな」
さて、明日は寺子屋、夜は屋台。
これで決まりだな。
いや、働きたくはないけど、働くことによって人間関係が広がるから、それが目的。
美人とお近付きになれたらなあと画策してます。
もこたんはずっと誰か、一生一緒にいてくれる人を求めていた。