「名前は?」
「ありません……」
「どこに住んでたの?」
「追放されたので、分かりません……」
「歳は?」
「分かりません、けど、多分十五くらいだと思います……」
あああ。
「可哀想に!俺が幸せにしてあげよう!よーしまずはインプラントからだ、最高の肉体をあげよう」
その時、女の子のお腹が鳴る。
「す、すいませっ、すいません、生意気にお腹を空かせてすいません!」
「ん、ああ、お腹が空いたのか。そうか、生物ってそう言うもんだよな。俺は腹減らないから分からないけど」
食事なんて趣味程度にするものだ。
不老不死になって、そう言った生理的な欲求は酷く希薄になった。
「よし、何が食べたい?」
「た、食べ物をくれるんですか?」
「何でもあげるよ、大丈夫だからね」
別に、薄汚れたスラムの子供に同情することなんて、ないんだが。
この子は、可愛らしくて、それで。
昔の知り合いに似た髪をしていた。
このまま放っておくのは寝覚めが悪いし、旅は道連れ世は情けとも言うし、連れを作るのも悪くないと、少し、思ったんだ。
「何が食べたい?」
「その、余り物を分けてもらえれば、それで良いです」
うーん、余るも何も、食料なんて持ってない。
「その前にちょっと浄化魔法かけるね。それと、あー、ジャンクに……、あった、これだ!散髪機!これで髪を整えるよ、さあ座って」
「は、い」
「スイッチオォン」
絡まった長い黒髪に櫛を通して、切り整える。
うん、やっぱり可愛い子だ。
癖のある、ハネた黒髪にガラスで作ったベルのような声。くりくりと大きい瞳は少し鋭くて凛々しい。薄い唇はスマートで、小さめの鼻も可愛らしい。
痩せ細っているのがマイナスだが、そこはまあ、太らせよう。
「うーん、やっぱり似てるな、アレスと」
あいつもこの辺では珍しい黒髪で、ぴょこっとハネた癖のある髪をしてたな。
懐かしい。
「アレス……?剣神アレス様、ですか?」
「は?剣神?あいつはゴロツキ同然の冒険者上がりの騎士だよ。神なんてそんな大層なもんじゃない」
喧しくて酒癖が悪いケモナーの変態だ。
狼獣人の女と結婚して、毎日ベタベタとくっついていたなと思い出す。
「え、と、アレス様を悪く言うと、バチが当たります、よ?」
「上等だ」
さて、早速食事をしてもらうか。
折角だし、俺もなんか食べよう。
にしても自然が豊かだな。
全く汚染されていない、人工ではない森なんて久し振りだ。
首都圏ではまず見られない風景だよね。
「天気もいいし、空気も綺麗だ。よし、たまにはバーベキューやるか!ほらおいで!」
「は、はい」
さて、携帯型物質生成装置で肉や野菜を作って、と。
これも民間用じゃなくて俺専用のフルカスタム品だからな、精密だぞ!体内に埋め込んだデバイスだから邪魔にならないし。
作った食料の味は最高級品の精密なコピー。
つまり、味も栄養もバッチリよぉ!!
「まー、料理とかできねーけど、肉を串に刺して焼くくらいはできるし、ネット上でレシピ拾えば誰にでもできるよね!」
肉や野菜を刺した串を、バーベキューセットにかける。
「わあ……!」
狼耳ちゃんが目を輝かせる。
物質生成装置で作ったソースをかけると、じゅわっと音がして、辺り一面がいい匂いに包まれる。
あー、腹減らねえけど、食欲がそそられるなー!
「さ、もうそろそろ良いだろう。食べなよ」
「私は、余り物で」
「最初から二人分作ったに決まってんじゃんよ。ほら、熱いうちに食べて!」
「いいん、ですか?」
「良いよ、お腹いっぱい食べな」
「ありがとう、ございます……!はむっ……」
串焼き肉を頬張る狼耳ちゃん。
夢中で食べてるな。
「……美味しい?」
「んっ、美味しい、です」
「そっか、良かった」
俺は……、なんか、一人分を七割くらい食べたら、なんか、もう、いいなって気持ちになった。
なんか、食べるのってめんどい。
食べきれない分は狼耳ちゃんにあげる。
「!!、い、良いんですか?」
「うん、俺もう、お腹いっぱい。そもそも、食べなくても平気だし」
「じゃ、じゃあ、いただきます。はむはむ」
口の周りにソースをつけながら、肉に齧り付く狼耳ちゃん。
しっかりと野菜も食べている。
偉いぞ、よしよし。
「あの、ありがとうございました……!」
食べ終わって、こちらを見て言う狼耳ちゃん。
「良いよ、沢山食べなよ。ほら、デザートにクレームブリュレを一緒に食べようなー」
「こ、れは?」
「んー?あー、分からないか?お菓子だよ、甘い食べ物だ」
「甘い……?」
甘い、と言う感覚すら、分からないのだろうか。
可哀想に。
「ほら、食べてごらん」
「……!!、おい、しい、です!」
泣きながら、美味しい美味しいと繰り返して、デザートを食べる狼耳ちゃん。
うん……。
なんかほら、可愛い奴隷の子を拾って飼いたい欲求、あるじゃん。
SNSとかネット小説とかでもよく見るシチュエーションだよね、可愛い女の子拾うの。
それもまた浪漫。
さぁて、兎も角、だ。
今のこの子はアース民として相応しくない。
と言う訳で軽くインプラント処理を施す。
あ、もちろん、身体を開くような外科手術なんてやらないよ?外科手術なんてまずやらない。ナノマシンが全部やってくれる。
「はーい、ちょっとチクってするよー」
「え、と?何を?」
「インプラントだよ、アース民ならみんなやってる」
「痛い、こと、ですか……?」
「んーん、痛くないよ!ちょっとチクってするだけ」
「な、なんで、チクってするんです、か?」
インプラントを知らない?
「あー、えっとね、これでチクってすると、身体が丈夫になるんだよ!病気にならないし、普通に暮らしている以上は怪我もしなくなるんだよー」
「丈夫に、ですか?そ、それは、あとで、痛いことする、から、ですか?」
「い、いやいや!違う違う!そんなことしないよ!これは俺もやってるから!ほら、俺にも刺してみるからな?ほら!」
そう言って自分の首にナノマシンを注入してみせる。
ああ、クソ、そうか、虐待されてきたんだもんな。俺は教育者でもカウンセラーでもないから、そんな人の気持ちなんて分からない。
「……痛くない、ですか?」
「痛くないよー!」
極細針だから実際痛くない。
「分かり、ました」
髪をかきあげて首筋を晒す狼耳ちゃん。
エロい……。
白い肌が、細い首が、エロいぞ!
邪念に負けずに注射。
「えい」
「んぅ」
「どう?」
「あ、あ、あ……。凄い、です、気持ち、良い……」
そりゃあ、ナノマシンは脳内物質を調整するからな。ストレスは解消されるだろうよ。
「あは、あは、あはははは、あはははははははは!!凄い!綺麗!世界が綺麗!見える!全部見える!!」
あ、ナノマシン酔いか。
ナノマシンを注射すると、ストレスの軽減や脳内物質の調整、疲労回復などが一気にくるからな。
「さて、良いかな?俺は……、知ってるかもしれないが、名乗っておこう。ザンダー・ノーハートだ。よろしく」
「あ、は……。ザンダー様。……!!」
「どうかしたかな?」
「!!!!、錬金神ザンダー様……!ああ、神様、神様が……!」
錬金神ザンダー……?
え?
俺そんな風に呼ばれてんの?
心が折れるからSNSとかネット掲示板ではエゴサしないんだけど、そんな風に呼ばれてたんだ。
まあ、自分で言うのも何だけど、兵器、製薬、電子機器で革命的な品を発明したり、気に入ったやつに発明した魔道具をくれたりしてるから、名前は知られてる、と思う。
しかし神、かぁ。ちょっと照れる。
「えー!何々〜?俺、神とかって呼ばれちゃってんのー?照れるー!」
「は、はい!剣神アレスに剣を、魔法神オデッサに杖を、狩神ガリオンに弓矢を、医神エレクシオンに錫杖を……、様々な神々に、ありとあらゆる道具と叡智をもたらした、錬金術の神、ザンダー様!私みたいな忌み子でも、偉業は聞いたことがあります!」
んんんんんー?
「待て……、待って?何その、何?」
「え?」
「アレスはケモナーの変態で、オデッサは尻の軽いクソビッチ、馬鹿のガリオンとサイコパス解剖大好きマンのエレクシオン?」
「え?ええ?」
「何で……、何であいつら神になってんの?」
「よ、よく分からない、ですけど、神様は、神様です、よ?お知り合いなんじゃ?」
「まあ、知り合いだけど……。アルバトスは?ハルギオンは?ヴァルディは?ヤマトは?」
「武神アルバトス、芸神ハルギオン、商業神ヴァルディ、戦神ヤマトですか?」
あのクズどももか……?!
「ちょっと……、おかしい。おかしいよ。あの社会不適合者共が神とかあり得ないから」
「ええええ……?」
どうなってんだ、世界。
アサシンクリードが忙しくて書けない!!