迷宮都市ルソンの門の前に並ぶ。
結構多くの人が並んでるみたいだ。
こりゃ、このままここで一日待たされるな。
となると……、しょうがねーなー。
俺は陽射し避けのパラソルがついた移動式テーブルと椅子を出す。
「イリス、フレズ、一緒に映画でも見ながら待とうぜ」
「はい」「おゥ」
劇場版機動戦機ガンドールNEOだ。
『ネオガンドールは伊達じゃない!!!』
「「「ネオガンドールは伊達じゃない!!!」」」
くぅ〜!
ネオガンドールカッコいいなあ!
こういうのが好きだからツールズやツールボックスを作ったんだよ俺は。
「いやあ、最高だな!」
「はい!ネオガンドールが、小惑星エクシスを押し返すシーンは、感動、しました!」
「やっぱネオガンドールは名作だなァ」
「次は続編のバイコーンガンドール見ようぜ!」
「はいっ!」「おう!」
そうして、二人と一匹で楽しく時間を潰し、迷宮都市ルソンへと……。
「どないしよか」
「え、と……、国を作るなら、まずは領土が……」
「領土のアテはあるんだよ。今、サルベージしてる」
「サルベージ?は、はあ。じゃあ、国民が必要ですね」
国民……。
ああ、そうだ。
「折角、金持ってるんだからさ、奴隷買わない?」
「ど、奴隷、ですか」
イリスは難色を示した。
「駄目かな?」
「いえ、その、奴隷の中でも、犯罪奴隷はやめておいた方が……」
詳しく聞いたところ、奴隷には、貧しい農村で娘を売るとか、人攫いが攫ってきたとかの普通の奴隷とは違って、犯罪を犯して奴隷になった奴がいるらしい。
一瞬、牢屋に入れろよとは思ったけど、今のアースに、無駄飯喰らいの罪人を遊ばせておく余裕はないのだろうと思い直した。
「例え犯罪奴隷でも、見込みがありそうなのは確保するぞ?」
「わ、分かりました……、でも、本当に、気をつけてください、ね?」
「何が心配なんだ?奴隷ってことは、魔法的な呪いとかで逆らえないようにされてるんだろ?犯罪奴隷でも問題ないさ」
「……あの、そんなもの、ないです」
「……え?」
じゃあ何か?
安全装置なしってことか?
「安全装置、なしです」
「ええー」
えー……、何それは。
退化し過ぎだろ現代アース人!!!
古代アース人の犯罪者は、強制労働させられた。
あまりにも酷い犯罪者は、脳ニューロン改変による人格消去刑などもあったが、基本的には、呪印という、命令に逆らうと激痛が走る呪いを付与されて、掃除や死体処理みたいな仕事を、単純労働用アンドロイドと共にやらされた。
単純労働用アンドロイドと同じ仕事をやらされると言うのは、一時的な人権の制限に他ならず、労働をせずとも生活できた古代アース人にとっては屈辱的な罰だった。
俺は正直、犯罪者でも使える奴なら全く構わないのだが……。
だが、この時代では、呪印の技術が失われていて、凶悪犯罪者は基本処刑らしい。野蛮な……。
軽犯罪者は奴隷として売られて、様々な仕事をすることになるそうだ。
うーん……。
犯罪奴隷はイメージが良くないらしい。
まあ、色々探してみて決めればいい、か。
迷宮都市ルソンは、かなりごみごみした街だった。
「ポーション、売るよ!」
「ダンジョン産出品なんでも買い取るよ!」
「保存食ー、保存食はいらんかねー!」
道の両脇に木組みの屋台が並び、ぎゃあぎゃあと売り子が騒いでいる。
俺からすれば低品質なポーションもどきを売ってる薬臭い屋台の隣に、肉の串焼きの屋台が並んでいたりして、それに、更に暑苦しい冒険者達の汗の匂いが混ざって臭い。
煮炊きの黒煙がたなびく空。
酷い街だ。
まるで、後進国の中でも特に酷い部類の極貧国のよう。
俺のような高貴な知的階級のいるべき場所じゃないな。
さあ、とっとと奴隷市場に行って、有能そうな奴隷を買ってこようか。
金は、大白金貨20枚分下ろしてきた。
二億ドグラマ分もあれば足りるだろうか?
古代アース人の、人間の生涯の収入は大体二億ドグラマと言われている。
ならば、二億ドグラマあれば、人が一人買えるのではないか?と思った。
「うう……」
「離れるなよ、イリス」
「は、はい」
イリスの手を握りながら移動する。
「ダンジョンの肉盾に奴隷はどうだい?!丈夫な奴隷が入ってるよ!」
やだわぁ……、肉盾とか……。
怖いなあ。
奴隷は、裸のまま鎖のついた手枷で拘束されており、皆一様に痛ましい姿をしていた。
この時代、前々から思ってたけど人権意識薄くない?
いやー、酷いな……。
でも、奴隷達の人相や態度は悪く、自業自得ではあるのかなぁ、という気分にさせられる。
あからさまに悪そうな犯罪奴隷を買って、俺の下で犯罪を再犯されても困るしな。
奴隷は、犯罪奴隷も、金で買われた普通の奴隷も、全部ひとまとめに売られてるみたいだし。
ん……?
「私は嵌められたんだ!みんな聞いてくれ!」
「黙ってろ奴隷め!」
「ぐうっ……!」
ふーむ。
おっぱい大きめ、顔に大きな十文字の傷ありだが、シャープな印象の相貌。身長高め、筋肉多め。髪色は茶色。髪型はショートカット。
どことなく、俺の友人のアルバトスに似ている女だ。
さて……、嵌められた、とはどういうことだろうか?
話を聞いてみよう。
好奇心もあるが、もしかしたら、無実の罪で犯罪奴隷に落とされた人間かもしれないという期待を込めて、だ。
誠実な奴隷が手に入るかもしれない。
解放する気?ないよ。
さて。
「なあ、嵌められたってどういうことだ?」
「き、聞いてくれっ、グジャラト男爵は、ダンジョンの出土品を外国に売ろうと……」
その瞬間、横から奴隷商人の腕が伸びる。
「お客さぁん、困りますよぉ、買いもしないのに何やってるんですかねえ」
「話を聞いているだけだ」
「奴隷の与太聞いてどうするってんですかい?」
「信用に足る話なら、この女を買うつもりだが」
「じゃあ買ってから聞きな!!但し、この女は白金貨一枚だがな!!買えるもんなら買ってみろ!!!」
「なっ……?!白金貨だと?!相場の十倍じゃないか!」
傷女が言った。
「あ、そんなもんなんだ、奴隷って安いんだな。はい、白金貨一枚」
「はぇ……、え、あ、お、お前!」
「は?客にお前はねーだろ、何様だテメーは。まあ良い、貰ってくぜ」
「あ……、う……」
傷のある茶髪女に服を着せる。
「………………」
「で、嵌められって?」
「き、聞いてくれるのか?!」
「聞くよ」
「じ、実はだな」
簡単な話だ、グジャラト男爵なる男が、国の認可を受けていない魔導具を外国に売って、その違法な商隊の護衛に騙されてついていたこの傷女……、サルビアを証拠隠滅のために奴隷にしたらしい。
サルビアは元々、銀等級の冒険者だったが、複数人に囲まれてあえなく逮捕……、ってことらしい。
今じゃ、グジャラト男爵は、まんまと国外逃亡して、外国に亡命したらしいな。
うーん……、この女は完全に被害者のようだ。
結論。
「よし、じゃあ、これからは心機一転、俺の奴隷として頑張ってくれ!」
「え?!あ、ええ?!そ、そこは、私の意を汲んでグジャラト男爵を退治するとか……」
何言ってんだこの女?
「やだよ、めんどくさい。俺にはやることがあるんだ」
「やること?」
「建国、そしてアース外生命体の抹殺だ」
「け、建国……?そして、アース外生命体とは?」
「お前ら風に言えば邪神だな。かつてこの世界の神々が倒したという存在だ」
この世界の神々、すなわち、俺の友人達だ。
「な、なんだと?!ま、まさか、邪神が復活するのか?!」
「その可能性がある。だから、邪神とその軍勢と戦うための国を作りたい。協力しろ」
「わ、分かった!この世界の住人として、邪神の復活は捨て置けない!」
そういうことになった。
そして、ムキムキの戦士お姉さんにゴスロリを着せて遊ぶのだ!それこそが真の悪だァ!!!