二十二階層にいた冒険者に挨拶した。
重戦士(ホプライト)の男、ディル。無駄な筋肉と無駄な大鎧の大男だ。大きな盾と斧を持っている。
侍の男、アシタバ。灰色の和服に赤い鎧、黒塗りの鞘の刀を数本持つ、黒の長髪の男だ。癖のない真っ黒な黒髪はジパング人の証だな。
魔法軽戦士(ルーンフェンサー)の男、ローゼル。鉄の胸当て、肩当て、手甲、グリープ、腰鎧に革の短い外套の青い服を着た美青年。武器はワルーンソードと左腕にくくりつけられた丸い小さな盾。リーダーらしい。
魔導師(メイジ)の女、リンデン。癖のある赤髪が特徴の、黒い服を着た魔法使い。大きめの魔法杖を持っている。
僧侶(クレリック)の女、ローズマリー。金髪に白のローブ、タリスマンを持った美女だ。
拳闘士(ピュージリスト)の女、マツリ。シン共和国風の服と、巻き髪シニヨン、手足に防具兼武器を装着している、シン共和国出身っぽい女だ。
それに、荷運び用のペズンリッチ……、ダチョウのような黒い陸鳥のモンスターを三匹引き連れている。
これが、銀級冒険者パーティ、『ハイルクラオト』だそうだ。
全員がFランク相当の民間用武装を装備しており(サルビアの言うところの、遺物一歩手前の魔導具)、この時代基準ならばかなりの腕前だそうだ。
俺からすれば、全員、ゴロゴロコミックの付録の武器を持ったガキ大将くらいにしか見えないのだが。
え?
ああ、俺の時代では、前も言ったが、蘇生サービスのおかげで命が安い。
国によって違うところは多少はあるが、保険関係も充実していて、死因のトップは『自殺による安楽死』、その次に『寿命』だった。
そもそも、ナノマシンで強化された肉体に、刃物なんて殆ど通用しない。
だから、平気で、少年用漫画雑誌の付録に刃付き原寸大の、少年バトル漫画キャラクターの武器なんかが付いてきた。
サバイバルゲームは実弾を使ってやるし(弱装弾だが)、スポーツチャンバラも真剣を使ってやる。どうせ死なないし、仮に怪我してもすぐに治せるからな。
田舎の方とかだと、真剣を持ったガキの集団に囲まれてボコられたりもするが、それは強盗ではなく遊んで欲しいだけのクソガキだ。
だから俺もこの時代に来た最初は、刃物を持って襲いかかってきた奴隷商人を、ドッキリかなんかの撮影かと思った訳だな。
そんな俺からしたら、このハイルクラオトとか言う冒険者集団も、「おっ、なんかの撮影かな?」みたいな感じなんだよね。
さて、サルビアは、ハイルクラオトの連中と何やら話し合っているようだが。
「サルビアさん!奴隷にされたって聞いたけど、大丈夫だった?!」
「大丈夫だ、ローゼル。私は、ご主人様に買われて、毎日いい暮らしをしているぞ。今ではもう、奴隷になって良かったと思うくらいだ」
「主人……?」
「ああ、紹介しよう。私のご主人様の、イクスランド・アートホーン様だ」
XanderのアナグラムでExrandと、NoheartのアナグラムでArthoneだな。
「姓があることから分かるだろうが、エーレンブルグという遠い地の貴族筋のお方で、優れた錬金術師でありながら、魔導師でもあり、神官ではないが回復の術もお使いになる、とても凄いお方だ。私は、このお方に買っていただき、護衛として雇っていただけることになったのだ」
と、言うことになっている。
「そ、そうなんだ」
ハイルクラオトの連中は、いかにも、「嘘くせーなおい」みたいな顔をしている。
「嘘ではないぞ?ほら、この装備を見ろ!昔の私の装備よりも良質だろう?これは全て、私のご主人様が、私のためにわざわざ作ってくださったのだ!」
そう言って、魔化合成ポリマー製の槍を見せつけるサルビア。
「え?これは……、短剣?」
「『伸びろ』」
「うわ!短剣が伸びて長槍になった?!魔導具か!!」
ノリノリで自慢するサルビア。
連中はそのサルビアの上等な装備を見て、少なくとも、サルビアが世の中の普通の奴隷のような酷い待遇ではないと思ったようだ。
そうして、警戒を解いたハイルクラオトの連中が話しかけてくる。
「アートホーン様、サルビアさんを大事にしてくれてありがとうございます!」
はあ。
「お前はサルビアのなんなんだ?」
「え?僕は……、普通に、サルビアさんの友人ですね。サルビアさんは、フリーの冒険者ではトップクラスに優秀で、何度か、僕達と合同で依頼を受けたりもしましたから」
ほーん。
「それにしても、現代に賢者(メイガス)がいたとは、驚きですね……」
賢者、ねえ。
「ご存知だと思いますが、賢者は非常に稀少です。神の奇跡である回復術と、神秘の技である魔術を両立させることは難しいですから。白金級に一人だけ賢者がいるとは聞きましたが……」
は?
「回復魔法も魔法もどっちも本質は同じだろ?」
俺が言った。
すると、魔導師の女と僧侶の女が、ムッとしたような、驚いたような表情で言い返してくる。
「全然違うわよ!魔術は、万物の根源たるマナに語りかける業で、回復術は神の奇跡なの!」
は?
「いやいや……、魔法も回復魔法も、内在エネルギーであるオドを起爆剤にして起こす魔法現象だろ?マナは滞空エネルギーであって、マナはそのままじゃ使えないから、体内に取り込んでオドにするんだよ」
「はぁ?!何よそれ?!アンタ、どこの学派の魔導師?!」
「学派……?」
「もしかして我流かしら?モグリね!」
何言ってんだこいつ。
「や、やめなよ、リンデン!」
男魔法軽戦士に止められる女魔導師。
「何よ?!我流で賢者になんかなれっこないわ!!」
アレかな、魔法文化が壊滅して、口伝や原始的な記録媒体での伝承が主になり、正しい魔法技術が捻じ曲がって伝わった、とかかなあ。
悲しいね。
そんなことを言いながら、なんだかんだでハイルクラオトの連中と行動を共にすることに。
だって仕方ないよね、ダンジョンは今、砂漠だが、正解のルートは決まっている。
目指すのは先の階層で、目的は同じなんだから、バラバラに動く必要はないよな。
俺は最早、歩くのがダルくなって来たのでエアバイクに乗っている。
エアバイクとは、反重力発生装置が前後についたバイクの様な乗り物だ。因みにこれも自社モデル。
無音駆動、揺れ無し、バリアフィールド、そして曲線と鋭角を組み合わせたメカメカしくてカッコいいワインレッドのボディ。
後ろにイリスを乗せてやり、ふわふわ移動する。
「ぐぬぬぬぬ……!ちょっとアンタ!みんな頑張って歩ってるのに、なんで自分だけふわふわ浮いてるの?!」
また、女魔導師が噛み付いて来た。
「いや、歩くのダルいから」
「みんなダルいわよ!一人だけ楽するのはズルいって言ってるの!そもそもどこから出したのよそれ?!」
そんなん言われましても。
「ごめんな、さい……」
イリスがしょんぼりしてエアバイクを降りる。
「い、いや、貴女には言ってないわよ?!私はそこの男に言ったの!」
「そんなん言われましても……。自分だけ楽するなって言われてもねえ。ウチは資本主義なんで……」
知らんわ。
「はあ?何言ってんの?」
「じゃあ何?エアロバイク欲しいって?ウチのエアロバイクは高いぞ?九十五万八千ドグラマ(税抜)だ」
「い、いや、欲しいとかじゃなくって、空気を読めって言ってるの!みんな頑張ってるのにそれはズルいでしょ、って!」
「いやそんなん言われましても……」
「むーっ!もう良いわよ、バカっ!」
俺はあくまで、基本的には、俺さえ良ければ良いし……。
アース外生命体撃滅も、友人が残した仕事を終わらせてやりたいって言う義務感?みたいな?
自発的に世界を守ろうとかは思ってないよ?
ってかその、みんなで貧乏になろうみたいな考え方が良くない。一人が楽してると、楽してるやつを引き摺り下ろそう!みたいな姿勢が良くない。
アカは死すべし慈悲はない。
イヤーッ!
ああー、ff7やりてえー。