まずは、カイン対エルフの僧侶だ。
審判役にギルドの職員が数人来ている。観客もちらほら。
「それでは、始めっ!」
号令と同時に、光属性の魔法を放つ僧侶。
だがカインは。
「はい、これで終わり」
バン、と音の壁を突き破る音が聞こえたと思うと、僧侶の懐に入って鋭い爪を首筋に添えていた。
カインは速いのだ。
平気で音速以上の速度を出す。
超音速帯になってくると発生する熱は、得意の結界魔法レベル5で無効化し、とんでもない速さで縦横無尽に空を駆けるのだ。飛行スキルの最終発展型、超高速飛行のレベル5だそうだ。
僧侶が参りましたと一言。
カインの完勝で終わった。
次、ヴィオラ。
相手は獣人の戦士だ。
カイトシールドと片刃の斧を持っている。
「始めっ!」
雄叫びを上げながら接近する戦士。魔法がヤバいんで、間合いを詰めればなんとかなる、とでも思ってんのかな。
「ん」
指一本で斧の一撃を止める。
驚愕する観客と戦士。
「殴るぞ」
一瞬惚けた後、カイトシールドを構える戦士。
「そら、死ぬなよ」
またもや音速超えの音が空き地に響く。
マッハパンチじゃねえか。格闘漫画かな?
戦士は全身の骨を折られながら吹き飛んだ。瀕死だ。
……まあ、ヴィオラの真価は混沌魔法をエンチャントした拳での殴り合いと広域殲滅だからなぁ。
次、リヒト。
恐縮する女魔導師に対して、
「とっとと構えろ、三下」
と、不遜な態度。
「始めっ!」
女魔導師は短い詠唱の後、火の魔術を放つ。拳大の炎の塊がリヒトに迫るが、
「甘い」
同質同量の魔法を放ち、相殺。もちろん無詠唱だ。
焦った様子の女魔導師は、風の魔術を放つが、同じように相殺される。
火属性と風属性の合成により雷属性を作り出すが、それも簡単に相殺される。
「やはりこんなものか。興醒めだな」
明らかに見下した目を向けた後、指を弾くと、女魔導師の眼前の空気を炸裂させて、吹っ飛ばし、気絶させた。
容赦ねえな。
最後は俺だ。
「始めっ!」
「君の実力は分かっている、殺す気で行くぞ!!」
「いやいや、殺す気とかそんな物騒な」
「うおおおおお!!!」
んー?
動きが遅いな。
音速も出てない。
いや、違う。
俺が速いんだ。
俺の感覚がおかしいんだ。
袈裟斬りに迫る剣。
人間の頃なら脅威に感じただろうが、この身体では羽虫が飛んで来たくらいにしか感じない。
事実、刃は、俺の肩に当たって止まった。
「?!、くっ、おおおおおおお!!!」
頭、腰、腕に剣が当たる。しかし、薄皮一枚も切れていない。
「あの、もういいか?」
「まだだあああああ!!!必殺!疾風剣!!!!」
短い詠唱ののち、風の力を込めた剣を俺の首に向かって振るう剣士。
だが、剣は鈍い音と共に弾かれた。
「じゃ、はい、どーん」
「へ、あ?ぎゃあああああああ!!!!」
剣士は、俺がデコピンすると、縦に3回ほど回転しながら吹っ飛んでいった。
アメリカのカートゥーンみたいなやられ方だな、ちょっと笑うわ。
「んふっ」
笑った。
「何笑ってるんだシグ」
「いやだってあの人縦回転して吹っ飛ぶんだもんよ、笑うでしょ」
「そうか?シグは変なことで笑うんだな」
「逆にヴィオラはいつ笑うんだよ。笑うことは良いことだぞ」
「む、私か?私はそうだな、シグに好きだと言われると嬉しくて笑うかもな」
……本当に可愛いな、こいつ。
「……あ、で、これ、合格っすかね?」
「あ、それは、その、これから審議致しますので……」
「うっす、じゃあお願いしますわ。いつ頃結果出ます?」
「はい、えっと、明日には」
「へえ、結構速いんすね。ギルドの偉い人って暇なんすか?」
「そう言う訳じゃないですけど、こうまでやられると結果は明白って言うか、審議の必要もないって言うか……」
あー?
「ぶっ飛ばしちゃまずかったですかね?殺してはいないんすけど」
「いえ、その、怪我は自己責任なんで……」
そうなんだ。
「よっしゃ、帰って飯にしようぜー」
「シグ、串焼きを買っても良いか?」
「おー、買え買え買っちまえ」
ヴィオラを適当にあしらう。
「ねえシグ君、果物買おうよ」
「は?何で?」
「僕果物好きなんだ」
「吸血鬼なのに?」
「ほら、コウモリって木の実とか好きでしょ?」
コウモリの自覚あんのかカイン。
「では私にはウォータードラゴンの肉を」
「お前エルフだろ」
「エルフは別に草食ではないぞ。むしろ狩猟が盛んなので肉食かもしれん」
「マジか、なんかイメージ崩れるな」
リヒトは肉が食いたいそうだ。
じゃあ、まだ午前だけど……。
「市場寄って帰るか」
戦闘描写苦手マン。